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雑文ラノベ「王立魔法学校高等部の優等生」  作者: ぽっち先生/監修俺
出会い編
15/52

おおっ、我が故郷よ、帰ったよ

さて、今いる場所は判った。僕が育ったアミダニアン孤児院の裏の牧場だ。


おおっ、我が故郷よ、僕は帰って来たよ。会いたかった山々よ。森の小鳥たちよ。僕は今懐かしさに胸が張り裂けそうだ!


いや、そこまで感傷的にはなれないな。なんせ僕がウエストキャナルを留守にしていたのって10日間くらいだし。しかもその内5日は、僕の中では失われた5日間だしな。


でも懐かしい事には変わりはない。工房に勤め始めてからは孤児院には帰っていなかったからほぼ4ケ月ぶりだ。工房からは、周りの家が邪魔してマウントチャイニアも見えなかったし、やる事が多過ぎてゆっくり孤児院の事を思っている時間もなかったからなぁ。


「あのぉ、ミハイルさん。ご存知かも知れませんが、あの木々の向こうに見える建物って僕が育った孤児院です。」

「えっ、そうなのか?そんな偶然があるのか?」

うん、どうやらミハイルは知らなかったらしい。僕の言葉に戸惑っているよ。本当に偶然なんだね。


「それはまた偶然だな。ならば挨拶をしてゆくか。アルベールも帰るのは久しぶりなんだろう?」

話を横で聞いていたジャックが僕の心情を察して、まずは孤児院へ挨拶に行く事を提案してくれる。ミハイルはちょっと渋い顔をしたが、ここでダンジョン行きを強行しても僕の心情を悪くすると思ったのだろう。僕の心情を推し量れと目で問い掛けたジャックに黙って頷いた。


「ええ、4ケ月ぶりです。みんな驚くかなぁ。あっ、でもジャックたちをどう紹介すればいいんだろう。ここの事は秘密なんですよね?」

「う~んっ、そうだな。私の事はダンジョンを調べに来た魔法ギルドの調査員と言う事にしておいてくれ。所属はここのウエストキャナル支部でいい。王都から来た事は伏せて欲しい。」

「はい、判りました。ジャックさんはどうしますか?」

「俺も調査員でいいでしょう?ミハイルさんの部下という事で。」

「ああ、それで構わない。」

ジャックがミハイルにお伺いをたてる。まぁ、確かにそれが自然かな。本当の事を言っても仕方ないしね。


「あっ、後、実は僕ってこっちではダンジョンに入って10日ほど行方不明になっているはずです。その説明はどうしますか?」

「ん~っ、それは面倒だな。」

ミハイルが次から次へと湧き出してくる問題に頭を悩ませている。本来なら隠密でさっさとダンジョンの件を調べたいのだろうけど、ここは僕の地元だ。僕を知っている者だって沢山いる。でも当事者である僕が転移魔法で千キロ先の王都まで跳んだ事はミハイルとしては伏せたいはずだ。だからそりなりの設定を口合わせしておかないと何かとまずい事になるかもしれない。


「そこら辺は、我々が彼をダンジョンの外で保護したという事でごり押ししましょう。彼は気を失っていたが漸く回復したので、私たちが送って来たとすれば10日間の行方不明も説明が付くはずです。それに彼がダンジョンの外で倒れていた原因を調査に来たと言えば、彼がダンジョンを案内する理由にもなります。」

「ああっ、そうだな、その線で誤魔化すか。」

おおっと、さすがはジャックだ。頭の回転が速いぜ。


「と、言うわけだから口裏を合わせてくれよ、アルベール。」

「はい、判りました。では孤児院のシスターたちに紹介したいのでミハイルさんたちもいらして下さい。小さい子たちが沢山いるのでちょっと騒がしいかも知れませんが、そこんとこは大目に見て下さいね。」

「あーっ、そうと判っていれば土産を用意したんだがな。生憎ここには非常用の固いパンくらいしかない。」

「気にしないで下さい。お客が来るだけでもみんなは喜びますから。」

「そうか、では土産は帰りにでも渡すとするか。」

うんっ、ミハイルは中々礼儀を重んじる人なのかも知れない。孤児院に対して変な偏見もないみたいだし、実は良い人なのかも知れないな。


そうして僕らは牧場を横切って孤児院へと向かった。孤児院では小さい子供たちが裏の広場で遊んでいる。そして目ざとく僕らを見つけたひとりが僕らを指差して他の子たちに叫んだ。


「誰か向こうから来るよ。牧場の人かなぁ。」

「えっ、どこ?あれ?あれってアルベールお兄ちゃんじゃない?」

「あ、本当だ!うわっ、シスター!アルベールお兄ちゃんが帰ってきたよーっ!」

男の子がひとり、僕の姿を見て孤児院の方に駆けて行く。他の子たちは逆に僕の方へ駆けてきた。うんっ、こいつら犬っころみたいで可愛いぜ!


まぁ、これも僕の人徳の成せるとこかな。いや、違うか・・。絶対こいつら僕が土産を持って来たと思って駆け寄ってるよ。多分、土産がないと判ると忽ち興味を無くすね。だって僕もそうだったし。


「まぁ、アルベール!一体どこに行っていたの!ダンジョンで行方不明になったって聞いて、みんな心配していたのよ!」

僕がちびっ子たちを体中にまとわり付けて孤児院へ歩いて行くと、中からシスターが出てきた。


「シスター・レベッカ、お久しぶりです。みんなも変わりないですか?」

「ええ、みな元気でやっています。それよりあなたは大丈夫なの?この前あなたの親方がやって来て、あなたが無断欠勤しているって大騒ぎしていったのよ。」

ちっ、本当にあの親方は期待を裏切らないやつだぜ。シスターは言葉を変えているが、大騒ぎの内容は金の話に違いない。


「まぁその話は説明すると長くなるので後にしましょう。僕は大丈夫です。心配をお掛けしました。」

「そっ、そう?それで後ろのおふた方はどなたなのです?」

「紹介します、こちらの方は国家安全対策省のミハイル・レンフレッドです。その隣はミハイルさんの部下でジャック・イエーガーさん。おふたりは僕がダンジョンの外で倒れていたところを見つけて介護して下さったのです。」

「国安の方が・・、いえ、それはそれは、アルベールを助けて頂いてありがとうございます。」

シスター・レベッカはふたりの肩書きを聞いて驚いたようだが、僕を助けたと知り深々と頭を下げてくれた。


「シスター・スカーレット、アルベールが戻ったんですって?」

その時、孤児院の窓が開いてひとりの年老いた女性が声を掛けてきた。


「あっ、はい。シスター・ティアニア。ここにいます。」

「お久しぶりです!院長先生っ!アルベールです!」

僕はシスター・レベッカにシスター・ティアニアと呼ばれた院長先生に元気良く挨拶をした。因みに僕らはシスターたちをファーストネームで呼ぶけど、シスターたちはお互いをファミリーネームで呼ぶ。だからシスター・レベッカも院長先生に呼ばれる時はシスター・スカーレットだ。


「まぁ、アルベール!一体どこに行っていたの!心配したのよ。」

「はい、すいません。でもこの通りビンしゃんしていますから安心して下さい!」

「おおっ、アルベール!元気でいたのね。さぁ、もっと近くに来て顔を見せて頂戴。」

「はい、院長先生。」

僕は駆け出し、窓に身を乗り出すようにして両腕を広げている院長先生の元へ飛び込む。そしてそんな僕を院長先生は窓越しに力強く抱きしめてくれた。


「おおっ、アルベール。私の愛しい子。心配したのですよ。一体どこに行っていたのです。仕事を放っていけない子ですね。」

「ごめんなさい、院長先生。ちょっとしたアクシデントがあったのです。説明しますから中に入っていいですか?」

僕は窓から落ちんばかりに乗り出そうとする院長先生を支えながらも、その暖かな胸の中で少し泣いてしまった。そう、院長先生にとっては僕だけではなく孤児院の全ての子供たちが愛しい我が子だった。だからと言って僕へ向けられる院長先生の愛が薄い訳ではない。院長先生の愛は全ての子供たちに等しく注がれているのだ。


「シスター・スカーレット、そちらの方は?」

「はい、シスター・ティアニア。こちらの方は国安の方でダンジョンで倒れていたアルベールを助けてくださったそうです。」

いや、シスター・レベッカ。ダンジョンで、じゃなくてダンジョンの外でだから。情報は正しく伝達してください。でないと僕らの設定にほころびが出てしまいますから。


1時間後、取り合えず用意していた設定で状況を説明し終えた僕は、院長先生にがんばりましたねと褒められてご満悦だ。僕ら孤児院にいる子供たちは親がいない。特に僕は僕を産んでくれたであろう両親の記憶が全くない。故にシスターたちが僕の親のようなものなのだ。特に院長先生は本当の親と思っている。だから院長先生を困らせる事は僕にとってはご法度なのである。


「そうゆう訳ですので親方には後日、僕が説明します。お金の件も国安の方が魔法ギルドを通じて保証してくれるはずなので円満に解決するはずです。」

「おおっ、アルベール。ちょっと見ない間に成長しましたね。これも神のご加護でしょう。」

そう言うと院長先生は両手を併せて祈りを捧げた。それを見て、側に控えていたシスターたちも後に続く。


「後、これ。今月分の仕送りです。」

そう言って僕は銀貨を2枚シスター・レベッカへ手渡す。これはローザから貰った銀貨だ。本当は全部渡したかったんだけど、額が額だけに勘ぐられてしまう。なので渡すのはいつもの仕送りよりちょっと多いだけの金額にした。


「まぁ、そんなに。大丈夫なの?ちゃんとご飯を食べてますか?」

シスター・レベッカへ渡した額を見て院長先生が心配してくる。


「はい、大丈夫です。下宿先は飯込みですから食いっぱぐる心配はありません。それに今は見習い時期ですから遊ぶ時間もありませんからね。」

「おおっ、アルベール。なんていい子なのでしょう。でもこれからは自分の為にお金は使いなさい。あなたはもう社会人なのです。将来に備えて計画的にお金を使わなくてはなりませんよ。」

院長先生はシスター・レベッカから渡された銀貨を大事そうに胸にあて僕を諭す。


「はい、院長先生。判りました。」

一応僕は院長先生の言葉に素直に返事をする。だけどそれはあくまで形だけだ。僕がこれまで院長先生やシスターたちから受けた恩に比べたら、こんな額ではまだまだ足りない。もっともっと、じゃかすか稼いで院長先生たちを楽にして見せるぜっ!まっ、そうなったとしても院長先生は子供たちの為にしか使ってくれないだろうけどね。


「お話の途中ですが、我々はこれで失礼したい。明日の朝また伺うので、その時はアルベール君をお借りします。」

僕と院長先生の話を横で聞いていたミハイルが、頃合を見計らいこの場を離席する旨を伝えてきた。


「まぁ、今夜はお泊りになられませんの?狭い場所ですが部屋を用意いたしますのに。」

「申し出はありがたいのですが、仕事がまだ残っていますので。それではアルベール君。また明日会おう。」

院長先生の引留めにミハイルは仕事という大義名分を出してやんわりと断る。まぁ、確かにここに泊まるより町の宿の方がミハイルたちにはくつろげるよな。なんせここって子供がワンサカいるし。しかもここって、お客なんて滅多に来ないからミハイルたちが泊まったりしたら子供たちの興味の的になってしまう。


「そうですか・・、ではアルベール。町までご案内しなさい。」

「はい、院長先生。」

「いえ、それには及びません。どうかお気を使わずに。」

「そうですか・・。ではアルベール、街道までお送りしなさい。シスター・スカーレット。ランプの用意を。」

「はい、シスター・ティアニア。」

さすがにこれ以上はミハイルも遠慮できないらしい。お礼を言って院長先生の言葉に従った。


その後、孤児院全員の見送りのもと、僕らは町に向かって歩きだした。そして満天の星の下、ジャックが話し掛けてくる。


「お優しいシスターなのだな。」

「ええ、僕の自慢の院長先生です。」

僕はランプを手に自慢する。うんっ、ジャックも中々人を見る目があるじゃないか。まぁ院長先生は誰が見たってそう感じるはずだけどね。


「成程、君が他の者より芯が強そうなのは、シスターのおかげなのか。」

「そうかも知れません。」

「人生の師かぁ。憧れるなぁ。」

ふふふっ、ジャックよ。もっと羨ましがってもいいぞ。なんなら昔話でも聞かせてやろうか?


「ジャックさんはずっと王立なんですか?それとも家庭教師?」

師の話が出たので僕はジャックの事も少し聞いてみた。


「ああ、初等部からな。さすがに家庭教師はアルティナの名が邪魔してみんなが辞退したらしい。」

「ああっ、確かに。絶対やりづらいでしょうね。」

そりゃそうか、だってアルティナ系って言ったら魔法使い業界のサラブレットだものな。下手に失敗なんかしたら業界にいづらくなってしまう。


「それと王立の先生たちは確かに素晴らしい方々ばかりだが、やはり魔法を教えるのに特化しているからな。人生の師と言うには些か偏りがある。」

「あははっ、魔法系ってみなさんそうゆう傾向がありますからね。僕の中学も魔法こそが唯一、てな感じでしたよ。だから魔法に関してはスパルタだったでしょう?」

「ああっ、容赦ないよな。酷い先生なんか、こうして、こうすれば、こうなる。やってみろ!だったよ。」

「うわっ、王立でもそんな先生がいるんですか!僕はあれってあの先生だけが特別だったと思っていました。」

「よく言えば理論より、実践。悪く言えば感覚派だな。あの先生にはみんな泣かされたな。なまじ実力があるから他の先生方も注意が出来なかった。」

「僕の知っている先生も、今から思えば悪気はなかったんでしょうけど、熱血一本やりでしたよ。」

僕は中学の技能講師の先生を思い出す。あの先生も感覚派だった。おかげで僕は授業を理解出来ずにいつも赤点だったな。でも何故か、そんな教え方に付いて行けたやつもいた。うんっ、本当に人それぞれだ。


「でもダンジョンに潜るようになって、あの先生の教えたかった事が判るようになったよ。確かに実践では感覚がモノを言う。考えるな!感じるんだっ!てのが肌で感じられるようになったからね。」

「ジャックさんはもうダンジョンへは何度も潜っているんですか?」

「ああ、20回は潜ったかな。半分は学校指定外のダンジョンだ。」

「うわっ、大丈夫だったんです?」

「いやもう、死にそうになる事ばかりだったな。生意気を言って潜るもんじゃないって思い知らされたよ。君も大変だったな。」

「はははっ、ですよねぇ。」

そんな感じで僕とジャックが話をしていると後ろからミハイルが割り込んできた。


「盛り上がっているところをすまないが。孤児院で聞いていた限りでは、君は赤子の時にシスターに拾われたそうだが。」

「はい、森の中で泣いていたそうです。それを院長先生が聞きつけて見つけて下さったそうです。」

「森の中に赤子だけとは、ご両親は野盗にでも襲われたのか?」

「どうでしょう?院長先生も、そう思って周りを探したそうですけど誰も倒れていなかったそうです。」

「その森とは明日行くダンジョンの森のことだよな?」

「えっ?ああ、そうです。そう言えばあのダンジョンの森ですね。それが何か?」

「そうか、いや、つまらぬ事を聞いたな。すまん。」

「いえ、気にしていませんから。」

そう言いながらもミハイルは何か考え込む様子だった。まぁ、どうせ明日行くダンジョンの規格外転移魔法陣の事だろうけど、いまからあれこれ考えても仕方ないと思うんだけどな。国安事案ともなるとそうとも言ってられないのかねぇ。


そうこうしている内に町へと繋がる街道に出る。街道は町まで一本道なので迷う心配はない。遠くにはウエストキャナルの中心部の明かりが夜空を薄っすらと明るくしている。


「この先を1キロほど進めば町に出ます。宿は街道沿いにあり、看板も出ていますから見落とすことはないでしょう。」

「そうか、それでは明日また会おう。」

「はい、お休みなさい。ジャックさん。ミハイルさん。」

街道への出口でふたりに別れを告げた僕は、ひとり孤児院へと戻る。


確かにここ数日は、僕のまだ少ない人生の中でもとびきり波乱に満ちていた。本当に冒険者みたいな出来事ばかりだったよ。まぁ、僕はしがない中卒の魔法使いだけどね。でも冒険者たちにとっては、あれが日常なのかも知れない。だけど、僕ら中卒魔法使いだって日々の暮らしは戦いなんだ。魔物との戦いだけが冒険じゃない。どちらかと言うと、人間相手の方が大変だったりするんだ。


僕は夜空に輝く星を見上げて感慨にふける。うんっ、僕は生きている。明日も生きられる保障なんかどこにもないけど今はこうして大地に立っているんだ。だから戦おう。経験を積んで困難に立ち向かってやる。それが生きるという事だろうから。


こうして僕の波乱に満ちた冒険は終わった。んっ、いやまだ終わってないか。なんだか院長先生の顔を見たから安心してしまったのかも知れないな。

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