人生初の手錠です
しかしなんだ。ジャックのパーティってこの国におけるご子息、ご息女の集まりだったんだな。ロベルトは伯爵家の次男坊だって言うし、レオンも血筋は勇者ラディアンに繋がる者だとさ。ローザも実家はお金持ちらしいし、ロゼッタに至っては、旧シベリウス王家に繋がるやんごとなきお姫様なんだとか。
くっ、別に生まれや血筋に偏見はないつもりだけど、ここまですごいやつらに囲まれると逆に僕の方が貴種に思えるぜっ!えっ、僕ですか?会った事はないですけど多分どこかの国の王様とお后様のお子です。故あって孤児院で育てられましたけど、成人したら白い馬車が迎えに来ると思います。来るかな?来ないよねぇ。
いや、本当は産んでくれただけで感謝してますよ?でも何か夢見ちゃうんだよな。僕は両親に会った事がないから尚更なのかも。だけど色んな格差がこの世にはあるけど、生まれの差は本人にはどうしようもないからなぁ。
さて、当面の寝床とご飯の心配はなくなった。僕はレイチェルの親御さんが経営している魔法工房のひとつに住み込みで働かせて貰う事になったからだ。しかも工房ではレイチェルお嬢さま直々の紹介という事で、僕に対する所謂新人歓迎会もなかったよ。
あっ、ここで言う歓迎会ってアレな方の意味だから。『よく来たな、期待しているぞ。』という方じゃなくて、『けっ、新人は便所で泣いていろっ!』ていう方だから。僕が奉公したウエストキャナルの工房は親方と僕しか人がいなかったから、そんな経験はなかったんだけど、同窓のやつらはたまに会うとよく愚痴をこぼしていたのよ。でもまぁ、僕はある意味毎日親方から歓迎会を受けていたようなものだけどね。
「おはようございます、先輩。」
「おうっ、おはよう。飯食ったら昨日の続きをしていてくれ。何か用があればその都度言うから。判らない事があったら、昨日みたいに休み時間にまとめて聞いてくれ。」
「はい、判りました。」
工房の仮眠室から作業場へ降りた僕は、同じく住み込みで工房に勤めている先輩に挨拶する。僕が仮眠室で寝ていたのは、たまたま部屋が空いていなかったからで臨時の処置だ。そして先輩が指示した昨日の続きというやつは、ガラクタ置き場となっていた部屋を、僕が寝泊りする部屋にする為の片付けの事である。
ガラクタと言っても、それは僕と同じくこの工房に住み込みで働いている6人の先輩方の持ち物だから捨てる訳にはいかない。だからと言って先輩方の部屋に返すのも些か関係を悪化させる原因となる為、僕はもうひとつ空いていた部屋も片付け、効率よく収納し直す事でスペースを確保する。
まぁ、僕はどうせ短期の臨時雇いだから、そんなに広いスペースは必要ない。寝る場所さえ確保できればいいのだ。だからまずは新たな収納場所となる隣の空き部屋の片付けから手を付けた。そしてそれは昨日の内に大体終わっている。だから今日は僕の部屋から不用品を移し変える作業だ。
とは言ってもひとつひとつの荷物は大きくない。中には何でこんな物があるんだと頭を傾げる荷物もあったが不要な詮索はしてはいけない。そっと移動しておくのが処世術である。
そんな感じだから午前中に備え付けのベッドの上にあった荷物は大方移し替える事が出来た。床に散乱している物も午後には移動できる。他にも大物とかはあるけど、これは動かさない事にした。ベッドの上とそこへの導線さえ確保できれば十分だからである。
その後は、積もった塵を叩いて、床を掃除をすれば部屋の片付けは完了である。ここで注意すべき事は、あまり早く作業を終わらせない事だ。なんせ僕は突然闖入してきた予定外人員である。しかも、何が出来るという訳でもない中卒1年生だからね。下手に終わりました。他に何かやる事がありますか?なんて聞かれても先輩方も困るはずなのだ。
これがベテラン辺りなら、何か作業を任せられるのだろうけど、1年生の新人に頼める仕事などまずない。結局、片付けや倉庫整理くらいしか頼める事がないはずなのだ。簡単な仕事があったとしても、内容の説明はしなくちゃならないし、時々確認する必要もある。頼んだはいいが品質的に使えない物を作られたりしたら、その修正が先輩たちに圧し掛かってくるからね。そんな手間を掛けるくらいなら初めから頼まない方が実は楽だったりするのだよ。
そして昼飯の時間となり、僕は工房のみんなが休憩場所に使っている工房の隣の部屋へ降りていった。因みにこの工房では近くにある食堂から料理の出前が運ばれて来るそうだ。当然支払いは生じるけど、月末にまとめて払うらしい。だからツケが効くので僕の分の昼飯も当然運ばれてきていた。部屋にはスープのいい匂いが漂っている。うん、おいしそうだ。
「おっ、来たな。どうだ、結構ごちゃごちゃしていて大変だろう。」
部屋に入ると先輩が声を掛け来る。そして隣の席を叩いてここに座れと仕草で示してくれた。
「いい機会だから、いらなそうなのは全部捨てていいからな。こいつら注意されないのを言い事に何でもかんでも放り込みやがって。」
先輩はそう言って、ここに住み込みで働いている他の先輩たちに目をやる。睨まれた先輩たちはまずいと思ったのか僕に手を併せ謝る仕草をしてきた。
「ありがとうございます。でも僕ってこちらにご厄介になるのは2ケ月くらいだと思いますので、取り合えず寝る場所さえ確保出来れば構わないので気にしないで下さい。多分今日中には片付けられます。」
「そうか、なら明日からは仕事の方を手伝って貰おう。ロッチ!良かったな。後輩が出来たぞ。」
「へいっ、了解っす。よろしくな、アルベール。おいらはロッチだ。」
先輩にロッチと呼ばれたのは僕と同じくらいの年齢と思われる少年だった。
「まっ、ロッチも入ってまだ3ケ月だ。多分お前と同い年だよ。仲良くやってくれ。」
成程、だとしたら中卒か。でもガードナー魔法工房に中卒で入るくらいだから優秀なんだろうな。もしくはコネか?
「よろしく、ロッチ。」
「仕事の説明は明日な。まっ、大した事は頼まれないから気楽にしてくれ。大抵はカインズ先輩たちの失敗作の片付けだから。」
ぱこん。
軽口を叩いたロッチは隣に座るカインズ先輩に軽く叩かれる。まぁ、それも含んだ戯言だったのだろう。上に立つ者としての注意ではない。
「アルベールはウエストキャナルから転移魔法陣を使って跳んで来たんだろう?そこんとこ詳しく教えてくれよ。」
ロッチの儀式で場が和んだのか、別の先輩が僕に話しかけてきた。彼らにしてみたら僕はレイチェルお嬢さまのひも付きだ。興味があるのだろう。それに2ケ月程度の短期就業と僕の口からでたので、長い付き合いにはならないと気の張りも緩んだのかも知れない。
「そうですね、実はウエストキャナルの側にあるCランクダンジョンに魔石を取りに行ったのが事の発端だったんですけど・・。」
僕がお昼を食べながら説明を始めたその時、工房の入り口を手荒に開け放って数人の男がなだれ込んできた。
「アルベール・ドレステンとはどいつだ!」
男たちの中で指揮官と思しき男が何故か僕の名前を口にする。えーっ、なんで?この町で僕の名前を知っているやつなんてほんの一握りしかいないはずなんだけど?
「なんだ、貴様ら。いきなり入ってきて大層な口の聞き方じゃないか。場合によっちゃ、叩き出すぞ!」
男たちの高飛車なもの言いに先輩がドスの効いた声で言い返す。ほうっ、先輩って結構武闘派なのか?
「我々は国家安全対策省だ!反抗すると全員しょっ引くぞっ!」
そう言うと指揮官らしい男は胸の裏ポケットから証明カードを取り出して先輩に見せ付ける。先輩は相手の素性を知るとちょっとビビったようだが、平然を装って真っ当な問い掛けをした。
「国安だと?罪状はなんだっ!」
「アルベール・ドレステンには違法魔法行使の容疑が掛けられている。隠し出しすれば、貴様らも共犯とみなすっ!」
「違法魔法だと!馬鹿な、アルベールはまだ子供だぞ!」
指揮官の言葉に先輩は反論する。だけど、そこにいた工房のみんなは驚きの表情で僕の方を見た。いや、みなさんそんなに見つめないでよ。僕って中卒魔法使いだよ?そんな違法魔法なんか使える訳ないじゃん。
そうは言っても容疑を掛けられたのなら晴らさなくてはならない。取り合えず僕は自首する事にした。
「あの・・、僕がアルベールですけど・・。」
「確保しろっ!」
僕が返事をした途端、指揮官の命令に後ろに控えていた男たちが僕に殺到する。しかもご丁寧にアイテムを使って拘束魔法まで掛けてきた。
「ぐはっ!」
男たちは拘束魔法を使っているにも関わらず僕を乱暴に床へ押し倒した。そして手錠を後ろ手にはめて来る。
「確保しました。エンゲル捜査官。」
「よしっ、連行しろ!」
「はっ!」
男たちの動きは迅速で無駄がなかった。拘束魔法で動けない僕を担いで外に連れ出そうとする。
「おいっ、いきなりやって来て連行とは横暴じゃないか!令状はあるのかっ!」
「緊急逮捕に令状はいらん。つべこべ言うと貴様たちもしょっ引くぞ!」
「くっ!」
国家安全対策省の伝家の宝刀、緊急逮捕をちらつかされては先輩たちも黙り込むしかない。僕はなす術も無く男たちに連れて行かれる事となった。背後では先輩たちの慌てた様子が聞こえてくる。
「おいっ、工房長に連絡だ!連絡がついたら状況を説明して社長に説い質せろ!後、この事は口外禁止だからな!」
う~んっ、お世話になったばかりなのに早速迷惑を掛けてしまった。すんません。




