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雑文ラノベ「王立魔法学校高等部の優等生」  作者: ぽっち先生/監修俺
出会い編
10/52

ああっ、懐かしきかな夏休み

その後もジャックは、僕が踏んづけた転移魔法陣について色々な考察を思いついては、自分で否定するを繰り返した。ん~っ、優秀なやつらってみんなこんななのかな。しかも何だか楽しそうだよ。考えるのが楽しいだなんて信じられん。まっ、そこが中卒たる僕とエリートたるジャックの差なのか・・。


「しかし、その魔法陣には興味をそそられるな。うんっ、もう少ししたら夏季休暇に入るから尋ねてみたいね。」

僕はジャックの言った夏季休暇という言葉にしんみりする。そう夏季休暇、つまり夏休みの事だ。ああっ、夏休み!心躍る自由時間っ!朝起きてから夜寝るまで何をやるのも自由なパラダイス!


でも残念ながら僕にはもう夏休みはない。だって僕ってもう社会人だから。社会人には夏休みはないのだよ。いや、1週間程度の夏季休暇は大抵の工房ならあるんだ。・・僕の所属する工房にはないらしいけど。


だけど学生時代のようなまるまる1ケ月のロングバケーションは当然ながらない。仮にあったとしてもちょっと不都合がある。だって、次の月に賃金が支払われないしな。これまた当然だ。だって働いていないんだから。


つまり真の意味での夏休みとは学生だけに許された聖なる時間なのである。もっとも僕の中学時代の夏休みは孤児院の手伝いで殆ど潰れていた。まぁ、これはしょうがない事である。だってシスターたちにはそもそも休暇自体がないのだから。そんなシスターたちを横目に僕だけ遊び呆ける訳にはいかない。


それでも夏休みは心躍る期間だった。僕は孤児院の小さいガキんちょたちを引き連れて毎日のように探検へ出かけた。そうする事によりシスターたちはちょっとだけ僕らの世話から解放され羽根を伸ばせるのだ。傍から見たら僕はガキんちょたちと遊んでいるだけのように見えたかもしれないけど、あれだって立派な仕事だったのだよ。


もっとも孤児院では普通の時だってそれぞれが役割を与えられ働いていた。そうしなければ生活が成り立たないからだ。僕のいたアミダニアン孤児院は大体20人ほどの子供が常にいた。それに対してシスターは4人である。まぁ、普通の家でも子供が5人くらいいるのは当たり前だから一人当たり5人の頭数はそんなに多いとは言えない。


でも、大抵の家にはジジ、ババがいるからな。それを勘定に入れればシスターたちの苦労は並大抵のものではないだろう。しかもシスターたちにとって僕らは他人だ。自らの血を分けた子供ではない。だけど彼女たちは己の信念や、情愛から僕らに愛を持って接してくれる。勿論それは、甘やかしてくれるという意味ではない。時には厳しく、いや、ほぼいつも厳しく僕らを律してくれていた。まぁ、それは仕方のない事だろう。だって僕らって20人もいるんだから。ひとり当たりに割ける愛情も時間も限られているからね。


だからと言う訳ではないが、僕らは小さい内から自立する気構えを鍛えられる。身の回りの事から、孤児院内での役割分担までそれぞれが出来る範囲で仕事を持っているのだ。時には軋轢から大喧嘩が起こることもあるけど、大抵はその場限りで気が晴れて後には引かない。そうしなければこんな大所帯では暮らしてゆけない事を僕らは身を持って感じ取っていたのだ。


それでも中にはそんな状況に馴染めない者も出てくる。そんなやつは大抵自分の殻に閉じ篭って他の子たちと隔絶する。そうなったやつは悲惨だ。僕らだって天真爛漫で無垢な天使ではない。自分を拒絶する相手に手を差し伸べるなんてとんでもない無理ゲーだ。だからそんなやつは子供たちの間でも自然と無視されるようになる。


相手をわざ虐めるような行為は年長の者やシスターたちが叱るが、それ以外は大抵放置だ。そして構われなくなったやつはますます内に篭もり、やがて自滅する。厳しいと思うかも知れないがそれが現実である。自分の足で立てないやつはその場に置いて行くしかないのである。


まっ、今更そんなやつの事を話しても仕方がない。運よく僕はそちら側には落ちなかった。まぁ、だからと言って何もなかった訳ではないが、それはあそこにいた子供たちみんなが経験した事だと思うしね。僕らは助け合って生きてきた。勿論それは僕らだけのチカラではない。シスターたちの無償の愛あればこそだろう。だから僕はそんなシスターたちの恩に報いる為、魔法中学を卒業した後、奉公にでたのだ。


あれ?そう言えば先月の給金をまだ貰っていないな。あれ?給料日って毎月5日だよな?あれれ、もう過ぎている?


「ぐわーっ!今月の給料日が過ぎているぅーっ!」

突然叫び声を挙げた僕にジャックは驚いたようだ。だけど僕はそんな事に構っていられない。あの親方の事だ。絶対無断欠勤のツケとか言って僕の給金から差っ引くはずだ。ここからウエストキャナルまでは、歩き続けたとしても1ケ月は掛かるよ。うわっ、駄目だ。先月分の給料は絶対貰えないな。


「ぎゃーっ、孤児院に仕送りできねぇーっ!」

再度僕は叫び声を挙げる。ああっ、何故不幸は連鎖するのだろう。先月分の給金が見込めないと考え落ち込んだ途端、また別の問題を思い出してしまった。それは僕の唯一の誇りである孤児院への仕送りが今月は出来そうもない事だ。


くっ、確かに大した額ではないけど、孤児院への仕送りは僕の社会人としてのステータスだったのに。それがあったからこそ、あの親方の理不尽な仕置きも我慢が出来ていたのに。ああっ、こんな事があっていいのかっ!神は何処におられるのだ!文句を言いたいからちょっとここに来いっ!


その後僕は、僕の叫び声で起き出してきたレオンたちと失意の内に見張りを交代する。でも彼らも僕が落ち込んでいる理由は理解できないらしい。う~んっ、さすがは名門どころの学生だ。金に不自由した事なんかないんだろうな。


さて、不幸の連鎖はまだまだ続いているらしい。不貞寝を決め込んだ僕の頭にまたまた別の不安材料が浮かび上がる。


あれ?そう言えば僕って今、金を持っていないよ?あれれ?これからどうやって食べていくんだ?それに僕ってウエストキャナルへ帰る道すら知らないぞ?


ぐはっ!駄目だ!僕って実は今、すげーまずい状況なんじゃないか?文無しで且つ、住んでいた所から千キロも離れたところにいるんだよな?しかも無事帰れたとしても、あの親方との対決が待っている・・。


あーっ、止め、やめ。悩んでも腹は膨れないや。もう寝よう。もしかしたら、起きたら全て夢だったなんてオチかもしれないからな。うんっ、寝よう!

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