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49・最後の復讐

「——冒険都市グーベルグ領主フェイクよ。そなたは領主の身でありながら、サザラント最強の名誉を得たことをここに表する」


 戦いが終わった後、俺はサザラント城に呼び出され王様から表彰を受けることになった。


「なかなか大袈裟だな……」


 今、俺はサザラント城のバルコニー的な場所で王様と対面している。

 城の前には先が見えなくなるくらいまで、びっしりと人が集まっており俺に視線を集めている。


「大袈裟ではない。そなたはそれくらいのことをしたのじゃ」


 口髭を撫で、偉そうなことを言う王様。


 ——こんな時にも偉そうな態度を崩さないんだな。

 王様の顔を見ていたら、だんだんイライラしてきた。


「……そんな大したことじゃないと思うんだがな」

「いや……また後でそなたと二人きりになった時に言うが、実はサザラントは未曾有の危機なのじゃ」

「そうなのか」


 そりゃそうだろうな。

 リュクレース王女失踪に騎士団長死亡。

 このことがバレたら、他国から侵略を受けてもおかしくない。


「そのサザラントにおいて、そなたに舵取りの手伝いを頼みたい。なあに、そう難しいことではない。国政に関しては儂が主導となってやるのじゃからな」

「…………」

「まずは軍事を強化しよう。資金については……増税すれば作り出せるじゃろう。民には少し負担を強いてしまうが、これくらいは仕方のないことで……」

「……異世界人なんて召喚させなかったら、もっと金には余裕があったんじゃないのか?」

「そうじゃ——ん?」


 王様の訝しむような表情。

 王様の傍らには警備の兵もおらず、俺達の会話の内容は大歓声によってかき消されている。

 だからここで話す内容は俺と王様の間だけのこと。


「そなた……今なんと?」

「異世界人なんて召喚させなかったら良かったじゃねえか、って言ったんだよ。そんなことするからいくら金があっても足りない。それに異世界人はサザラントにおいて、なんの戦力にもなっていない。すぐに放逐したんだもんな?」

「そ、そなた……一体、なんでそのことを知っておるっ!」


 王様の語気が強くなる。


「——決まっている。俺が異世界人だからだ」

「——!」



 ——変装の超能力解除。



 これにより、俺本来の顔に戻る。

 しかし城の前から俺達を見つめる人達には背中を向けているので、王様の目にしか姿は映っていないだろう。


「そ、そなたは——異世界からの召喚者。だ、脱走の際に兵に殺されたのではなかったのか!」


 わなわなと震え、後退する王様。

 その様子に対して、城の前にいる人達も察した者がいたのだろう。

 わーっという歓声がざわざわと不穏なものになる。


「はあ? 俺が殺される? よく考えてみろ。俺がそう簡単に殺されるわけがない。なんせこの異世界には『雑魚ざこ』しかいないんだからな」

「あ、あり得ん! お前は魔力ゼロだったはず。魔力ゼロでこの世界に放り出されてもまともに生活出来ないはずじゃ」

「魔力なんてくだらなくて欠陥だらけの指標で俺を計るんじゃねえよ」


 そろそろ決着を付けよう。

 王様が城の中で待機しているであろう兵士を呼び出したら、面倒臭いことになるしな。

 俺の最終的な目的が果たせなくもなってしまう。


「お前には言いたいことが山ほどあるが、一言だけに集約させてもらおう」


 手をパーにして、王様に向ける。



「死ね」



 ——そう言って、ギュッと拳を握りしめる。


「——!」


 王様が胸を押さえ、フラフラと歩き回る。


「ま、魔力ゼロ……なのに、そのような魔法を……」

「だから魔法じゃないって」


 見開かれた瞳は真っ直ぐと俺を見つめている。

 やがて——王様の体がゆっくりと倒れていき、バルコニーの床に伏せた。



 ——直死の超能力。



 そうなのだ。

 今までサイコキネシスとか身体強化とか、様々な超能力を使ってきたが、結局のところ俺にはこのチート超能力がある。


 この超能力の効果はたった一言。

 発動すれば相手が死ぬ、というものである。


 直死の超能力によって倒れた王様の目は信じられないものを見たかのように開ききっている。


 ここで——後ろから観客の悲鳴。



「陛下!」



 異常に気付いたのか城の中から兵士であったり、メイドっぽい人達がぞろぞろとやって来る。


「き、貴様! なにをやった!」


 殺気に満ちた兵士の一人が俺の胸ぐらを掴み上げ、唾がかかるくらい顔を接近させてくる。



「——よせ。その者は悪くない」



「へ、陛下っ?」


 王様はむくりと起き上がり、そう震えた声を出した。

 起き上がったもののフラフラで、今にももう一度倒れてしまいそうだ。


「そなた等には言っていなかったが、儂は持病を抱えておる。今回、サザラント最強決定戦を開催したのも——儂がいつ死んでもいいように後釜を捜したかっただけに過ぎない」

「へ、陛下? それは本当のことで——」

「本当じゃ——グボッ!」


 口から血を吐き出す王様。

 それに対し、周囲の人間が心配して王様を支える。


「……これより先、サザラントの将来はその者に任せる」

「そ、そんな! こんな一領主に……」

「実力はトーナ、メントで、見たじゃろ? 誰よりも強き力を持ったその者なら、きっとサザラントを良い方、向、に……」

「陛下ぁぁぁぁああああああ!」


 最後まで言葉を口に出来ず、王様の瞼が閉じられる。

 その顔は先ほどまでの歪んだものではなく、不安が取り除かれたような安らかな表情であった。


「ククク……計算通り」


 みんな、王様に注目しているものだから最早俺の方なんて誰も見ていない。

 それを良いことに、俺は下を向いてほくそ笑んだ。



 ——操作の超能力。



 さっき王様が喋っていたように見えたと思うが、正しくは俺が喋らせていたのだ。

 いくら俺でも死んだ人を生き返らせられる超能力なんて使えない。


 そう——死んだ王様を操り人形として、台本通りのことを喋らせたに過ぎない。

 場は騒然としており、数人の医者っぽい人が王様に駆け寄ったりしている。



「救世主だ……」



 そんな中。

 やけに通る声で誰かがぽつりと呟いた。



「救世主……王がなき後、サザラントを導けるのはグーベルグの領主しかいない」

「いや、この瞬間から彼こそがサザラントの王だ」

「救世主だ! 王がなき後、その絶対なる力で世を治める救世主が現れたんだ!」



 わーっと後ろから歓声が巻き起こる。

 どっかの誰かさんの一言によって、連鎖的に意志が広がったのである。


 ——俺をサザラントの王として持ち上げるために、だ。



「皆の衆! 落ち着くがいい!」



 後ろを振り返って、俺はそう声を張り上げた。


「——良かろう。この俺がサザラントを治めてやる。安心するがいい。サザラントの今以上の発展を約束しよう!」


 地が震えるとはまさにこのことだろう。

 鼓膜が破れてしまいそうな大音量の歓声。



「フェイク! フェイク! フェイク!」



 俺の名をみんなが大合唱してやる。


「これで——全てが終わったな」


 その光景を——先ほどまで王様が座っていた椅子に腰掛け、気持ちよく眺める。


 異世界を好き勝手に生きてやる。

 同時に騎士団長、リュクレース王女、サザラント王への復讐を果たす。

 今まさに俺はその目標を達成したのだ。


「異世界ってのも案外大したことがないんだな」


 ——こうして俺はとうとうサザラントの王へと成り上がったのだ。

明後日最終話あげます!

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