13・ドラゴンを換金しましょう
そう言うと、お姉さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「どういうことだ? さっきの説明ではGランクが最低じゃなかったのか」
「ええ……でも魔力ゼロというのは初めてのことでして……ギルドマスターがあなたを例外としてHランクにしろ、と」
「おい、そのギルドマスターを出せ」
「ダ、ダメです! ギルドマスターなんて、普通の冒険者は顔すら見れないんですからね!」
こいつ……いや、ギルドマスター。
俺のことをバカにしやがって。
「カッハハ! これはとんだ笑い種だ!」
「Hランクなんて初めて聞いたぜ? どんだけ無能なんだよ」
こらえきれなくなったのか、周囲の笑い声は爆発的に大きくなる。
「……まあ我慢するとしよう」
俺は我慢強い男だからだ。
いちいちキレていたら、堪忍袋が持たない。
「それで……早速、クエストを受注したいんだけど?」
「は、はい。ではあなたが受注出来るクエストはこれだけです」
と言ってお姉さんが三枚の紙を手渡してきた。
・迷子の子猫探し
クエストランク フリー
報酬金(達成) 1000G
・エリオネルさん家のお手伝い(畑耕し)
クエストランク フリー
報酬金(達成) 800G
・エグバードさん家のお手伝い(子どもの世話)
クエストランク フリー
報酬金(達成) 500G
「……気のせいかな。とても冒険者がするような仕事に見えないけど」
「い、いえ! 立派なお仕事です。危険もないですし、お手頃なクエストだと思うんですけど」
お姉さんが誤魔化すようにして手をバタバタとさせる。
「クックク、おい無能。お前じゃGランクのクエストも受注出来ない、ってことだよ」
「勝手にクエストに行って、勝手に死なれることを心配されているんだよ」
「てめえは迷子の子猫ちゃん探しくらいしか出来ないですよ〜」
俺をバカにする周囲の声で、どういうことかは理解出来た。
「じゃあなにか? Hランクじゃ、Gランクのクエストすらも受注出来ないってことか」
「は、はい……すみません」
お姉さんが顔を伏せる。
……ったく、仕方ないな。
このお姉さんだって、上から言われていることを伝えてくれているだけだろう。
ここで怒鳴っても、お姉さんが可哀想だしな。
「仕方ない。俺は美少女の味方だからな」
「はい! ありがとうございます」
パッ、と花が咲いたようにお姉さんが笑う。
「仕方ないから、取り敢えず迷子の子猫ちゃん探しでもやろうと思うよ」
「は、はい! じゃあこれが子猫の姿でして……」
子猫のイラストを渡され、打ち合わせをしていたら急に思い出す。
「そうだ、忘れてた。そもそもこのギルドに来たのは別の理由だったんだ」
「なんでしょうか?」
「ここに来るまでにモンスターを倒したんだ。そのモンスターを持ってきたから、素材の買い取りってのをお願いしたい」
「はい! もちろんです。スライムかなにかでしょうか?」
魔力ゼロでも、スライムくらいなら倒すことも出来る——ってことなんだろうな。お姉さんの反応を見るに。
「まあそれと似たようなものだ」
「それで……そのモンスター、もしくは素材は? 持っているように見えないんですが?」
「ああ、これだ」
俺は亜空間に閉まっていたドラゴンの死体を出す。
「——っ!」
あっ、なにも建物の中で出さなくてもよかったな。
ドラゴンが大きすぎて、床や壁がバキバキと割れてしまう。
「な、なんだ〜!」
あっ、さっきからバカにしてきた連中も下敷きになっている。
「こ、これは!」
「ドラゴンだよ。これを換金したいんだが?」
「そんなわけないじゃないですか! でも……これは確かにドラゴン……
」
ギルドの中央に置かれたドラゴンの死体を見て、お姉さんは目を丸くする。
「へへん、本当にドラゴンですよー、だ。マコトさんが倒したんですよ?」
「あっ、エコーさん。まだいたんですか」
「酷い!」
俺もエコーの存在を忘れていた。
だって喋らないんだもん。
「ちょっと待ってくださいね……あの! 鑑定士の方はいらっしゃいますか!」
他の職員も出てきて、ギルド内が騒然とする。
——結果。
ドラゴンの死体だ、ということは信じてもらえた。
でもなにもない空間から急に現れたことから、どうやらこのドラゴンは俺が持ってきたものではなく、女神からの思し召しということになってしまった。
「は? ちょっと待ってよ。俺が本当に倒した……」
「いや〜、不思議なこともあるものですね」
「じゃあ俺へのお金は?」
「なにを言っているんですか。女神様から頂いたものなんですよ? あなたにどうしてお金を支払わなければならないんですか」
顔は笑顔のまま。
でもお姉さんから冷たく対応される。
「ちょっと、待ってください! マコトさんがドラゴンを倒したことは、私が確かに見ましたよ」
「そうだそうだ! 証言者もいるんだぞ」
「はいはい。エコーさんの目を信じるわけないじゃないですか」
「酷い!」
どうやらエコーはギルド内から信頼を得られていないらしい。
まあ……いっか。
これくらいのモンスターなら楽に倒せるしな。
今度、ドラゴンを倒した時はもっと別の方法で持ってこよう。
今日の俺ってなかなか寛容だよな?
いや、元からだったかもしれないが。
言い争うのが面倒臭いということもある。
「ちっ……仕方ねーな。とにかく子猫を探してくるか」
まだ騒然としているギルドを後にして、子猫探しに街へと繰り出す。
「ちょっと待ってください! 私も手伝いますよ」
「付いてくるな。足手まといだ」
「またまた〜、先輩冒険者がいて心強いでしょう——って置いていかないでください!」
エコーが後ろから付いてくるのを、無視して歩き続けた。