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8、迷宮へ

 ランディから古代の記憶のことを聞かされた。元々は、人と魔獣はそれぞれの生活圏内から出ることは無かったのだという。迷宮の大半は古代の都市や神殿が時と共に変化したものらしい。迷宮の中には核(コア)が存在してる。それには強力な魔力が込められており、迷宮を複雑化させている原因でもあるそうだ。複雑化した迷宮では、魔獣や精霊などが住むようになり現在に至る。

 迷宮探索で得られる素材や鉱石、魔石などを活用できるとわかり、冒険者が探索したりして魔獣の生活が脅かされるようになり凶暴化したとランディは言った。

 ランディには、自分が転生したときのことや元の現実世界のことなどを話した。ランディは興味深く熱心に聞いてくれていた。元の世界に戻れるなら戻りたいかと聞かれたが、今は特にそんなことは考えてはいないと答えた。

 すっかり話し込んでいると、いつの間にか夕食の時間が近づいてきた。あたりは夕闇に染まり街の明かりが灯り始めた頃、母親が仕事を終えて帰ってきた。ランディを見て最初は驚いてはいたが、事情を話すと一緒に暮らすことを許してくれた。ランディと自分と母の生活が始まった。

 それから1週間くらい経った頃、母親の手伝いで簡単な在庫の確認と商品の陳列の手伝いをしていた頃、私服のイーサンが母親を訪ねてきた。

 『クリスティーナ、ここにいたのか。無事で何より。新しい土地で慣れない事もあるだろう。魔獣はあのときに討伐したが復興に時間がかかると思う。君たちの家は残念ながら、崩壊してしまった。すまない。俺らの力が及ばなかったせいだ』

 『いいえ、家はまた建てればいいですし、無くなった主人はいつも前向きな人だったのはご存知でしょう?今は戻れなくても、ここでの生活が楽しいですし、商会の皆さんが優しくしてくれて、最近こうやってアルも手伝ってくれて心強いですわ』微笑む母親の顔は明るかった。

 『それを聞いて安心したよ。アルも少し大人の顔つきになってきてこれからの成長も楽しみだ。今日はここらへんでお暇させてもらうよ。二人の元気そうな姿を見られて安心した。それじゃ、また』

 彼は、安堵したような顔で微笑んで店を出ていった。母親は接客にもどり、自分はそのまま仕事をしていた。店にあるものは大体どこに置いてあるかは把握できるようになった。店を手伝うことで母親やその他の従業員も接客に専念できると思って始めたことだが、一番の目的は魔道具に触れることだ。通常、どこの家庭で使っている調理器具のような物ではなく、冒険者が使うようなものを取り扱っていることから専門的な知識を得られると考えたからだ。仕事の合間に、魔道具のことを仕入れている行商の人から聞いたりすることもできた。

 仕事を終えて、寝るまでの間は先日購入した魔方陣の解説書を読むことが日課になっていた。地図は大事にしまっている。商会にくる行商人や買い物にくる冒険者に聞いた迷宮の場所や、危険な場所を買ってきた地図に書き込んでいった。

 ここから北にある王都までの道のりで迷宮は8つ、南の貿易港まで行く街道に3つ、東の山脈の麓に2つ、西の元居た町の森林地帯のほうには4つ迷宮が存在している。一番近い迷宮は南の湖畔に近い迷宮だろう。比較的、魔獣も少なく拓けていて初心者冒険者がいくようなところであるらしい。ランディもそこなら大丈夫だという。近いうちに散歩がてら行ってみることにした。

 店の定休日、商会全体も休日扱いになり、いつも賑わっている声や忙しくしている従業員の人影もなく穏やかな日だ。

 母親に散歩にいくと言い、ポーチにナイフやパンなどの食料や地図を詰め込み、ランディを肩に乗せて迷宮のある湖畔を目指した。天気はよく晴れていて空が高く、雲はゆっくりと流れていく。街を出る門のところまでやってきた。期待と不安が入り混じった感情で、一歩また一歩と歩きだした。街の外に出るのは、魔獣がやってきたとき以来。

 街道を行き来する人々は、大きな荷物を背負っている人や馬車、武器を持った冒険者など人種も職業も様々だ。ランディはあくびをしながら、風景をぼーっとみているようだ。暇そうにしているランディはふとつぶやくようにきいてきた。

 『なあ、アルよ。迷宮に行って何をするのだ?冒険者でもない君があえて危険を冒してまでいくことは無いだろう?商会でも魔法に関することはできるわけなのに』

 『ランディ、たしかに君のいうことはわかる。でも、君と出会って迷宮のことを知りたくなった、ただそれだけさ。遺物があるかもしれないじゃないか』

 『変わったやつだ。まぁいい、主はアルだ。どこまでも付き合うぞ』

 『よろしく頼むよ』

 しばらく歩くと、湖畔への道へと分かれている分岐まできた。右にいくと貿易港、左にいくと湖畔だ。湖畔のほうからは冒険者グループが歩いてくる。おそらく駆け出しの新人だろうか。互いの装備について話している。ソロでこの迷宮で挑むものは、そう少なくない。

 初心者がこの迷宮で、ある種のトレーニングみたいなものになるからだ。魔獣も低級のものやスライムくらいしかいない。入り組んだ街道を抜けた先に突然、広場のような開けた場所に出た。

 まるで、神殿のようなつくりの大きな入り口で、中はたいまつの火が灯っている。深呼吸をして迷宮へと入っていく。静まりかえった迷宮の奥へと進んでいった。


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