9、迷宮突入!
迷宮の中から冷たい風が吹いてくる。ランディも肩から降りて、あたりを警戒しながらアルの側を歩いている。いつからか忌み嫌われるようになった迷宮も、かつてそこに住居や神殿、商店街だったり、生活をしていたのであろう痕跡はある。ただ、それはあくまで仮定の話だ。魔物が住み着き、迷宮自体も生きているようなそんな気配がする。
迷宮内部は、各階層に分かれているものや洞窟のようにひたすら奥に続くものもある。ここの湖畔の迷宮は階層になっており、8階層までしかないという。魔獣も比較的低レベルものばかり。
駆け出しの冒険者パーティーの野営訓練や討伐訓練などに使われているそうだ。魔獣を倒してもレアなアイテムがドロップすることはない。魔石かその素材が報酬の価値を決める。
『アル!少し待て、ここの壁に刻まれている魔方陣、擦れて見えにくくなっているが古代魔法のひとつだ、ここに何か仕掛けがある』ランディは1階層と2階層の間の壁を尻尾で指した。
[汝、封印を解き放つとき、偉大な王の怒りに触れるであろう]
古代の魔方陣の隅に、殴り書きのような汚い字で書いてあった。かすれた魔方陣は、風、水を用いた陣形で一部が欠損しているようだ。
『封印解くと、なんかやばいらしいって書いてるが?ランディ』そういってランディをみた。
『ふん、どうせ後に誰か書いたものであろう。術式もたいしたことないものだ。アル、続きを書いてみたらどうだ?なにか起こるかもしれんぞ?』
ランディはからかうような言いっぷりで、煽ってくる。もしこれがトラップだったらと思ったが、中が気になるのは間違いない。
アルはポケットからナイフを取り出し、魔方陣の続きを書いた。すると魔方陣が起動し、壁だったところに、新しい通路が現れた。
『さあ、どうする?下にいくかここを通るか。我はどちらでも構わんぞ』
『せっかく開いたんだ、いくしかないだろう』
『わかった、我が前をいこう。危険だと判断したらひきかえす。いいな?』
『あぁ、それでいい』
ランディを先頭に進むことにした。中は真っ暗で、たいまつ代わりにランディの尻尾が光っている。ぼんやりと照らされる壁や天井は石でできており、風化した様子はなく綺麗なものだった。
魔獣の気配は無く、一本道だ。奥に進むたびにかび臭いような匂いが強くなってくる。5分くらい歩いたときに行き止まりの壁が現れた。扉も何も無いただの壁。
『行き止まりだな』ため息交じりでランディが辺りを見回している。本当に何もないのだろうか。注意深く突き当たりの壁をみた。
『ランディ、もうすこしそこの壁を照らしてくれ』尻尾が壁を一段と強く照らされた。すると一部の壁の石が影になっている。出っ張っている証拠だ。
その石を押してみた。轟音を立てて何かが動くような音が響き渡る。目の前の壁がゆっくりと開いていく。
見えてきたのは階段だった。下へ通じている階段で、再びランディを先頭に進むことにした。階段をおりると、広い空間へと出た。
石碑みたいなのが中央にあるだけで他はなにもない。ランディはしばらくその石碑を見つめていた。石碑には古代文字でなにか書かれているようだが、読めなかった。
『アル、この石碑に手を当てて魔力を流してみろ』ランディは一歩下がった。
言うとおりに手を当て、魔力が流れるようなイメージで右手に意識を集中させた。石碑はぼんやりと輝きだし、声が聞こえてきた。
『君がこの封印を解いてくれたんだね。私はかつて炎の精霊つかいだったもの。同士に裏切られてここに封印されて、力も失ってしまった。肉体は滅び、魂だけとなってしまったがこうして自由になれた!礼を言うよ。ありがとう。君のこれからの冒険を見守っているよ。せめての加護に、君の持っているナイフに特殊な魔法をかけよう。いざとなったときのお守りに』
ポケットに入れていたナイフが強く光りだした。それと同時にぼんやりと輝いていた石碑は光を失い崩れ去った。
『戻ろうアル。ここには用は無い』ランディは物悲しそうに、来た道を引き返していった。そのあとにアルも続いて歩いていく。
2階層の階段のところまで戻ってきた。あれから会話もないまま、先へと進んでいく。2階層は1階層よりも入り組んでいるようだった。所々に野営した痕跡があった。
比較的、せまい上に身を隠せるような形で岩などが点在しているからだ。辺りを探索しながら3階層への階段を探す。
途中、怪我をしているソロで討伐しにきたと思われる、初心者冒険者に出会った。
『新人か?この先は危険だ。凶暴化した魔獣が見栄えなく暴れている!!引き返せ!!あれは上位ランク以上の冒険者じゃないと討伐できない!!にげろ!!』声を荒げたせいか、咳き込んでそのまま気を失ってしまった。
『アル、この者の言うとおりだ。引き返したほうがよさそうだ』
『でも、この人をこのまま放置してはいけない』
『どうなってもしらんぞ』
覚悟を決めて、3階層におりていくことにした。




