10、戦闘
3階層に到達。先ほどまでの階層とは違い、辺りは草原になっているが、身を隠せそうなものが比較的少ない。低級のスライムも見渡す限り数体。刺激しなければ襲ってはこない。
この階層には先ほどの冒険者が言っていたような強力な魔獣は居なさそうだった。気配もしない。ランディもおとなしい様子だった。
木陰のところで休むことにした。ポーチからパンを取り出し、半分にちぎりランディと分け合って食べた。少し堅くはなっていたが、商会のパンは香ばしくおいしい。くるみがいいアクセントになっている。
上を見上げると木の実がなっている。迷宮内での木の実は特定の種類は猛毒であるが、この木の実は食べられる。赤い実で少し酸味のが効いた甘酸っぱいベリー系の木の実だ。ランディは身軽そうに木に登り枝を折って、木の実が多くついているとこを落とした。
『アル、これは美味であるぞ。食べてみよ』拾い上げた木の実をひとつとり、口にいれた。熟した木の実は甘く、ぷちっとした歯ごたえと果肉のジューシーさが口の中で広がり美味しかった。
空腹を満たしたところで、次の階層へと進む。湖とまでいかないが大きな池がある。周囲には草が生い茂り、花が咲いている。ポーチと一緒にもってきた水筒に水をくみ上げ補充する。ランディもこの水で喉を潤している。周囲も静かで魔獣の気配はない。
池を迂回するように進んでいくと、洞窟があった。こういったところを寝床にしている魔獣も居るだろう。警戒をしながら入っていく。暗闇の中、ランディの尻尾が光り辺りを照らしている。鍾乳石や石筍のようなものがあたりに鋭く出来ているが、道になっているところには何もなっていない。
魔獣が通って出来たものなのか、冒険者が行き来して出来たのかはわからない。途中人骨のようなものも落ちてはいるが、古そうだ。
下の階層への階段が見えてきた。疑問に思うのが各階層は割りと自然なものが多いのにこの空間だけが人工物なのか、ここの迷宮だけなのだろうか。ぼーっと考えながら歩いているとランディが急に立ち止まった。
『気をつけろアル、この先嫌な気配がする。きっと強い魔獣がいる』一気に緊張が走る。ゆっくりと降りて、階層があるフロアに到達した。
神殿のようなつくりで、周囲はたいまつが灯って明るい。奥になにかの影が見える。はっきりとは見えないが、張り詰めた空気がその場を支配している。
ポケットからナイフを取り出して、強く握り締める。実際問題、こんな果物ナイフのようなものでなんとかなるとは思ってはいないが、抵抗はできるはず。
奥にいくと影に見えてたものがはっきりと見えてきた。鎧のような硬い皮膚で覆われた狼のような魔獣だ。ランディも鋭い目つきでその魔獣を睨みつけている。
『こいつは厄介だな。ウォーウルフの上位固体の魔獣だ。逃げたほうがいい!こちらを警戒している、いつ襲ってくるかわからないぞアル!!』うなり声をあげ、威嚇している魔獣は臨戦態勢になっている。
逃げようとして振り返った瞬間、魔獣が襲いかかってきた。すると、ナイフが光だし魔獣をはじき飛ばした。
ー下がれ、暗き世界の魔中よ
頭の中に声が聞こえたような気がした。持っていたナイフは、光の短剣へと変化している。これが加護なのか。これなら戦える。
魔獣は再び襲ってくる。短剣を構えて攻撃に備える。魔獣の鋭い爪の攻撃を仕掛けてくる、その爪を短剣で受け流して、反撃をする。
鈍い音と共に、魔獣の前足を少し切った。それでも魔獣は襲いかかってくる。無我夢中で、短剣を振り回した。魔獣の牙が、腕をかすり血が出ている。自分が興奮しているためなのか、痛みは感じない。魔獣も傷のせいで、動きが鈍くなってきている。
長期戦になればこちらが不利になる。決定打になるとすれば、やはり心臓か頭部を狙うしかないのかと思っていた。魔獣の口の辺りに魔力が集まり、魔法攻撃をするつもりだ。魔法攻撃にたいして防御はできない。
魔獣から雷撃が放たれる。するとランディが目の前に飛び出して魔法障壁を展開、魔獣の攻撃を防いでくれた。
『くっ、我でもこの雷撃を防ぐが精一杯だ。今のうちに魔獣のコアとなっている額の魔石を攻撃しろ!今が好機だ。その短剣なら貫けるはずだ』
『わかった、やってみる』
魔法の障壁から飛び出して、魔獣との距離を一気につめる。魔獣も雷撃魔法を止め、こっちに向かってくる。噛み付こうとしたそのとき、短剣を開いた口へと突き刺した。
短剣は上あごを貫き、魔石のある頭部へと達し魔獣はその場に倒れた。魔獣の体は消え去り、魔石だけが残った。赤色の綺麗な魔石で、手のひらより少し小さいくらいのサイズだ。
息をきらして、その場に座り込んだ。緊張がほぐれたせいか、受けた傷がじわじわと痛みだしてきた。ランディが、ゆっくりと歩み寄ってくる。
『よくやったアル、怪我は我が治癒してやろう』そういって治癒魔法で、怪我を治療してくれた。傷が消えていくと同時に痛みもなくなっていく。
『少し休んでから、次の階層へといこうランディ』いつの間にか短剣は元のナイフへと戻っていた。ナイフを鞘におさめて、そのまま横になり先ほどの戦闘を思い返した。不思議な声の主はあの精霊だったのだろうか。異世界に転移してから、はじめての戦闘だった。
興奮していた気持ちは、少しずつ冷めていき荒くなっていた呼吸も落ち着いていった。




