11、遺物
しばらく休んだ後、下の階層へと歩みはじめた。疲れはあるものの怪我はすっかり魔法で治癒されている。他の冒険者の姿はなく、魔獣もあれ以降遭遇していない。よほど強い固体だったのか、この階層も戦闘した痕跡があちこちにある。
5階層を過ぎたところ、何人かの冒険者らしき人影があった。声をかけようと近づくと、向こうから話しかけてきた。
『やあ、初心者冒険者かな?俺たちは冒険者ギルドから派遣された、いわば見回りをしているパトロール隊みたいなものだ。最近、この迷宮で強い魔獣が出没すると報告があがっていたので調査をしているところだ。今まではこんなことはなかったのだが、コア付近で何かあったかもしれん。万が一、強力な魔獣に遭遇したらすぐに逃げることだ。わかったかな?』そういって獣人族の彼は言った。
『わかっています。探索と簡単な採取でここに来ただけですので、魔獣に出会ったら引き返します。親切にありがとうございます』軽く会釈をして、先に進んだ。あの戦闘のことは言わずに黙っていた。あとで色々聞かれるのも面倒だからだ。
最終階層まであと1階層のところまできた。遺跡のような空間が広がっている。現代でいえばマチュピチュのような石造りの廃墟と化した町並みだ。ランディが突然立ち止まった。
『アル、このあたりに妙な魔力を感じる。魔獣ではなさそうだが、少し調べてみないか?』
『わかった、このあたりを調べてみよう。手分けして探そう。ランディはあの建物から探してみてくれないか?俺は反対側の建物から探してみる。30分後またここに集合しよう』
ランディはうなずいて、身軽に建物へと入っていった。アルも反対側の建物の探索を始めた。人が生活していた後はなく、がらんと何もないただの空間だけが広がっている。他の建物も同じようなつくりだ。屋根はなく、ただ囲われているような感じの建物だ。
遠くからランディが呼ぶ声が聞こえた。何かを見つけたのかわからないが、声の方向へと向かう。
『アル、こっちだ!この床の下から、魔力を感じる。あけてみてくれ』そういって床の木製の蓋らしきものを、持ち上げて開けた。
中には、古い手帳くらいのサイズの本と指輪が入っていた。本も指輪も埃まみれで、白くなっていた。ゆっくりと手に取り、埃を払い本の中身をみた。
相当古いものなのだろう、表紙にかいてある文字は読めないくらい風化している。中身を見てみると、日記のようなことが書かれている。日付は書いていない。一番最後に興味深いことが書いてあった。
[この指輪は、長い間王家の丘の地下にあったものだ。すでにこの指輪の持ち主はおらず、王の御霊とともに封印されたものだと。言い伝えによれば、魔獣はひれ伏し、悪しき魂は王の力によって光をもたらすであろう。-アレル・カステウス-]
指輪はシルバーとゴールドの二重螺旋のような形をしている。一箇所にはルビーのような赤い魔石がはめ込まれている。ほかにはこれといって文字などは刻まれておらず、派手な装飾もない。ランディー曰く、この指輪が魔力を帯びているらしく、特別な力を感じるという。ひとまずこの指輪と手帳をポーチにしまって、先に進むことにした。
最終階層。何もなく大きな模様が書かれている扉だけがある空間だ。この扉の奥が迷宮のコアが安置されている部屋なのだろう。ギルドの許可がないと入れないようになっている。何重にも魔法錠で封印されている。
『今回はここまでだな。帰ろう、アル』
『そうだな、帰って休もう。クタクタだ』
くすっと笑って、来た道を引き返すことにした。今回の収穫は大きい魔石と指輪だ。最初の冒険では上出来といっていいだろう。魔石は鑑定に出すとして、この指輪をどうするか考えないといけない。売るにしろ、リスクはある。ましてや、迷宮にくることを母親にいっていない。
考えながら歩いているうちに、あっという間に出口へとついた。夕焼けの日差しが、アルとランディを照らしている。
『アルよ、指輪をどうするつもりだ?おそらく魔道具の一種だと思われる。鑑定してもらったらどうだ?』
『そうしたいが、迷宮に来たことすら俺の母親は知らない。おおごとになるのもごめんだし、指輪の情報とナイフに宿った加護の漏洩はさけたいな。ひとまずどこかに隠しておかないと』
ランディーは少し考えたあと、自分の魔法で空間をつくりそこに収納するのはどうかと提案してきた。容量には限りがあるそうだが、現時点は最善策であろう。ランディにナイフと指輪を渡すと、空間魔法で作り出した収納場所にしまってくれた。
商会が見えてくる頃にはすっかり暗くなっていた。母親が待つ家へともどった。心配そうにしている彼女の顔が目に入った。
『ただいま、母さん。おそくなってごめんなさい。湖のほうまで行って帰りが遅くなった』
『アル!もう、ホント誰に似たのかしら。好奇心旺盛なところ。早く着替えていらっしゃい、ご飯できてるわよ』母親はキッチンで鍋を温めはじめた。
部屋にもどって着替えた後、暖かいスープと牛肉と香味野菜の炒め物を食べた。帰ってきたんだと安堵した。ランディーも勢い良くご飯を食べている。
食べ終わって他愛のない話をして、ベッドへと倒れ込み寝てしまった。




