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97. 失踪者の行方

「何なの、コイツ!」

「エメラ、一旦離れた方がいい!」


 地面に擬態していた凶魔とやらが正体を現したことによって、足下が不安定になった。軟体動物のようにぶよぶよとして、微妙に蠢いているため歩きづらいのだ。しかも、その体表から幾つもの触手を伸ばしてこちらを捕まえようとしてくる。このまま、コイツの上にいるのは不利と見て、エメラに退避を促した。


「な、何? 立ち上がろうとしてる?」

「わからんが、今のうちに飛び降りた方が良さそうだ!」


 立ち上がる……と言っていいのかはわからんが、凶魔は体を起こそうとしているようだ。ヤツの体のヘリまできたが、地面まではすでに5mほどの高さがある。まだ平気だが、このままではいずれ落下ダメージが発生するほどの高さになるだろう。


「ははは、逃がすなよ、凶魔!」


 ネイルが高笑いしながら指示すると、無数の触手たちが一斉に襲いかかってきた。ペルフェを剣にしてそれらを切り払う。幸いにして強度はそれほどでもないようだ。ほとんど抵抗もなく触手は本体から切り離される。


『ジンヤ! あれ、本体に吸収されてるよ!』

「ちっ! ダメージはなしか?」

「くくく! そんなものが凶魔に効くか!」


 切り離された触手は、凶魔本体に落ちると取り込まれて消えていく。ノーダメージかどうかはわからないが、大した痛手ではなさそうだ。減らしたはずの触手も、すぐにまた生えてきた。


「エメラ、跳べ!」

「くぅ……高いところは苦手なんだよぉ!」


 そんなことを言いながら、勢いよくエメラがジャンプする。高さはあるが、ガラデンのタフさとエメラの身のこなしがあれば平気だろう。


「ますた?」

「俺たちも跳ぶぞ!」


 エメラの着地を見届けることなく、俺もルゥルリィを抱え上げて中空へと身を投げ出す。高さは10m近くになっているが、【跳躍】と【念動】があればどうとでもなる。伊達に、毎日のようにコークスローの防壁を上り下りしているわけではないからな。


「逃げる気か? 逃げる前によぉく見た方がいいぞ。凶魔の姿をなぁ!」


 よほど自信があるのか、ネイルは俺たちが凶魔に恐れをなして逃げる気でいると勘違いしているらしい。得体の知れない化け物の上ってのが落ち着かないだけで、今のところはそれほど脅威を感じてはないのだがな。動きは遅いし、図体がでかいだけだ。


 まあ、言われなくても観察はする。魔物は予想不能な攻撃をしてくることもあるが、そういうのは稀だ。大抵は姿形(すがたかたち)から攻撃手段が予測できる。戦う前……いや、戦っている最中でも、敵を観察するのは重要なことだ。


「なっ!?」

『げげっ!?』

「人、いっぱい」


 地面から見上げる凶魔は地獄のような光景だった。高さは20mに届きそうなくらいだろうか。ちょっとしたビルくらいの高さになっている。このサイズだと最早魔物には見えない。見たままを表現するなら、赤黒い台地。異様な肉の塊が小山のように聳え立っていた。


 赤黒く蠢く肉の壁。そこから生える無数の触手。その触手に吊され拘束されているのは、たくさんの人間だ。ヒュムもいればサルボもガラデンもいる。おそらくは、コークスローから失踪した探索者たちだろう。


 探索者たちは、肉壁に取り込まれようとしていた。いや、すでに取り込まれている者も多い。まさしく、贄だった。


 完全に取り込まれた者は、おそらく手遅れだろう。大半の者が人の姿を保てていない。とても正視に堪えない状態だった。だが、それでも視線をそらすことはしない。敵前でそれをすれば、勝利を手放すようなものだ。


『ねえ、あれ……』


 ペルフェが呟く。それが何を指しているのかはすぐにわかった。


 肉壁はスライムのような物質なのか薄らと透けている。厚みがあるので奥まで見通せるわけではないが、表層に近い場所なら中身が窺えた。


 肉壁の中に、ときおり浮かぶ青い結晶体。あれは、おそらく、スキル結晶体だ。凶魔はスキルを奪うために人を溶かしている……。


「ニーデル!」


 エメラが叫ぶ。その視線の先には、触手に吊されたサルボの姿があった。項垂れているので顔まではわからないが、服装などには見覚えがある。ニーデルで間違いなさそうだ。


「くくく……お前はコイツらを助けにきたんだろ? じゃあ、逃げるわけにはいかないなぁ? そんな力を持ちながら雑魚を助ける考えは理解できんが……おかげで、俺がその力を手にできるというわけだ。くく……」


 ネイルが凶魔の上から俺たちを見下ろす。その声には優越感が滲んでいた。自分の勝利を疑ってもいないらしい。


 実際、俺たちには不利な状況と言える。ニーデルを含め、探索者たちを人質にとられたようなものだ。彼らを助けなければ、こちらからは攻撃もままならない。迂闊に強力な攻撃を放てば、探索者たちを巻き込んでしまう可能性がある。


 となれば、まずはネイルを打ちのめすのが先だな。指示者がいなくなれば、この凶魔というヤツも大人しくなるかもしれん。すでにニーデルの居所がはっきりした以上、手加減する必要もないしな。


「はっ、俺に勝てる気でいるのか? こんな化け物に頼らないと何もできない偽チートが? 笑わせるな!」


 とりあえず、様子見に挑発してみる。何故かチート自慢になっているが、これがヤツには一番効くだろうと考えてのことだ。


「き、貴様ぁ!?」


 予想通り、ヤツは簡単に激高した。だが、挑発に乗って単身で飛びかかってくるほど単純ではなかったようだ。代わりにヤツが放ったのは岩石の砲弾。高所からの攻撃ということもあり、次々と襲いかかってくる巨石はぶつかればただではすまないだろう。避けるのは難しくないのだが、こちらから攻撃する隙がない。


 凶魔から降りたのは失敗だったか? いや、知らずに凶魔ごと攻撃していたら、探索者たちに被害がでていたはずだ。今の状況こそがベストなはず。


 ま、何しろ、やるしかない!


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