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96. フェイント

 ネイルが如何にしてチートを手に入れたのか。気になるものの、最初に問うべきはそのことではない。


「お前が【凶魔の贄】というスキルをまき散らしていた元凶だな?」


 ほぼ間違いないだろうが、確認は必要だ。あ、いや、本当のことを話すとは限らない。スキル看破を使った方が手っ取り早いか。


「くくく……その通り! あれも俺の力だ。どうだ、素晴らしい力だろう? お前もなかなかやるようだが――」


 だが、俺がスキル看破を使う前に、殊勝にもネイルが自白を始めた。やはり、コイツの仕業だったらしい。


 それはいいのだが……いきなり饒舌になったな。なんで、この手の奴らは語りたがりなんだ。律儀に聞いていたら長くなりそうだ。止めよう。


「能力自慢は結構だ。聞かれたことだけ答えてくれ」

「ぐぇ!?」


 口で言って止まるとは思わなかったので、近寄って足払いをしかける。すると、ネイルはお手本のように綺麗に崩れ落ちた。何のお手本かと聞かれると困るが。


「な、何をする!」


 いや、明確に敵対関係にあるのだから、攻撃されないと思う方がおかしいだろ。むしろ、単なる足払いだったことに感謝した方がいい。


「ルゥもぺちってする?」

『ボクがドーンって叩こうか?』


 ほら。過激派の二人がアップを始めてるぞ。ペルフェの声は聞こえてないと思うが。


「時間の節約だ。お前の話が長いのが悪い」

「長いと言うほど喋ってなかっただろうが!」


 理由を説明してやったら、激しく抗議してきた。そういえば、まだ話しはじめだった気もするな。展開が容易に予測できたので、先手必勝で黙らせたのだった。我ながらナイスな判断だ。


「無駄な時間をカットしてやったんだ。感謝しろ」

「とんでもないヤツだな!」


 おいおい。ヤバそうなスキルをばら撒いているようなヤツに言われたくはないぞ。


「まあいい。次の質問だ。お前はそのスキルで探索者を攫っているな? ニーデルをどこにやった」

「ニーデル……?」


 ニーデルのことを問い詰めるが、ネイルは怪訝な表情を浮かべた。知らぬふりには見えない。コイツにそんな演技ができるとは思えんしな。


 どういうことだ? コイツが黒幕ではないのか?


 いや、【凶魔の贄】をバラまいているのはコイツなのだ。無関係とは思えない。


「ふざけるなよ! アンタが慣れ慣れしく絡んでたヤツだよ! ニーデルをどこにやったんだ!」

「あぁ、思い出した。アイツのことかぁ」


 これまで静かに見守っていたエメラが声を荒らげる。それがきっかけになったのか、ネイルがくつくつと笑いだした。


「何がおかしいんだよ!」


 その笑い声が(かん)(さわ)ったのか、エメラが食ってかかる。


 だが、その直後にネイルは表情を一変させた。冷たく見下すような目をエメラに向けると、土魔術と思われるアーツを放つ。


「黙れよ、この石クズが!」

「くっ!?」


 ネイルに迫ろうとしていたエメラはこれを避けられない。結果として、エメラはショットガンのように飛散する無数の石弾を、まともにくらうことになった。


「エメラ、大丈夫か!?」

「ああ、平気だよ。ジン……ファントムの魔術に比べると大した威力はないみたいだね」


 声をかけると、エメラは意外に余裕のある声音で返事をした。さすがは、タフなガラデンだ。


 ついでに言えば、ヤツのステータスはさほどでもないと言うことだろう。おそらく、コークスローで活動する標準的な探索者と同程度。つまり、レベル20半ばといったところか。油断しなければ……そして、よほどの隠し球でもなければ俺が負けることはない。


 問題は、ニーデル含め失踪者の居所が掴めていない点だ。それを今から吐かせないとならないわけだが、肝心のネイルの様子がおかしい。


「どいつもこいつも俺を見下しやがって。俺はチートを手に入れた。手に入れたんだ! お前らなんかの雑魚とは比べものにならないほどの力を手に入れた。それなのに……それなのに!」


 ヒステリックに喚き散らすネイル。コイツから情報を聞き出すのは骨が折れそうだ。だが、それでもやらねばなるまい。そのためにも、ヤツの無力化が必要だ。


 まずはスキルを奪おう。最優先で狙うべきは、ヤツのスキル奪取能力。おそらく、俺の【盗む】に相当するスキルを所持しているのだろうと考え、スキル看破を発動させたのだが――――ヤツはそれらしきスキルを所持していなかった。


 スキルの数は多い。俺よりもよほど。魔物だけではなく、探索者から奪ったようなスキルも多数ある。ヤツがスキルを奪えるのは疑いようがない。となれば、奪取能力はスキル由来ではないということか。


 さて、そうなると困った。ヤツの能力の発動条件がわからなければ、迂闊に尋問もできない。俺の【盗む】が奪われる可能性も否定できないからな。


 だが、俺の逡巡とは関係なく事態は進む。


「くく……くくく……! お前も贄にすればいいのだ! そうすればお前の力も奪える! さあ、食らえ、凶魔よ! そして俺に力を寄越せ!」


 ネイルが空を見上げて叫ぶ。何かを呼び出すつもりらしい。言葉からして“凶魔”という存在だろう。不意を打たれないよう、油断なく空を見上げて――……直後、地が揺れた。


「何だ!?」

「ますた、地面!」

『うわぁ、気持ち悪!? コイツ、魔物じゃん!』


 どうやら俺たちが立っていたのは凶魔というヤツの上だったらしい。ネイルの呼びかけに答えて、動き出したようだ。


 動揺する俺たちを見て、ネイルが得意げに笑う。


「くく……くくく! 驚いたようだな! これが俺の本当の力だ!」


 そりゃあ、驚くだろ!

 空に呼びかけて、地面から出てくるのは反則だ!

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