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72. 不審なサルボ

 翌日。


 俺は探索者ギルドの前でコークスローの街をぼんやりと眺めていた。今日はジンヤとして活動することに決めている。定期的に顔を出さないと、失踪したと勘違いされるからな。


 実際、以前少しだけ活動をともにしたイゴットたちに心配された。わざわざ、俺が使っている宿屋に訪ねてきたらしい。宿ではジンヤで過ごしているので誤解は解けたが、もう少しジンヤとして活動をしようと反省した次第である。


 何でも、コークスローでは探索者が失踪する事件が頻発しているらしい。探索者なので死はつきもの……とも思うが、どうやらそういう話でもないようだ。


 普通、探索活動中に死亡したのなら、パーティーごと失踪することになる。そうでなければ、生き残りから事情が伝わるから、失踪とは認識されないだろう。


 だが、コークスローでの失踪事件は事情が異なる。パーティーの中の一人が、ある日突然いなくなるようだ。活動を終え、同じ宿屋に泊まり、なのに朝にはいなくなっている。怪事件の類だ。


 被害者はそれなりの数に及ぶ。が、大々的な事件とはなっていない。というより、エルネマインには捜査機関のようなものがないのだ。強いて挙げるならば衛兵隊がそうだが、せいぜいが探索者同士の諍いに介入する程度。犯罪調査などは行わない。なので、探索者自身が自衛しなくてはならない。


 俺がこうして街中でぼうっとしているのもある意味では自衛の一環でもある。身を守るためではなく、犯人扱いされないための、だが。街で活動しているはずなのに、日中姿が見えない不審な奴と思われたらまずいからな。


 時刻は朝と昼の間。多くの探索者はすでに狩り場へと出かけたらしく、街は少し落ち着いている。俺もいつまでもこうしているつもりはなく、このあと、イゴットたちと一緒に狩り場へと移動するつもりだ。


 エルネマインでは珍しい地下ダンジョンがあるらしいので、案内してもらえることになっている。たまには魔物寄せの香なしでゆっくりと狩りをするのもいいだろう。


「……ぐわぁ!」


 ふいに、すぐ近くでバチンと何かを叩く音が響いた。ほぼ同時に誰かの呻く声。何ごとかと思えば、地面から生えた蔦が見知らぬサボテン……ではなく、サルボと対峙していた。そのサルボは地面に転がり込んだ頬を押さえている。


「……何事だ?」

『何か、ますたに、悪いことしようとしてた!』

「悪いこと?」


 蔦といえば、ルゥルリィだ。彼女が何かしたのだろうと小声で尋ねてみれば、返ってきたのはそんな言葉だった。おそらく、このサルボが俺に何かしかけようとして、それを察したルゥルリィに反撃を受けたのだろう。


「い、いきなり何をするんだ!」


 サルボの――声から判断すればおそらく――男が立ち上がって叫ぶ。が、俺と蔦との関係がはっきりしないせいか、どちらに向かって怒ればいいのか戸惑っているようだ。そのせいで、どうにも迫力に欠ける。


 とりあえず、ルゥルリィに蔦を戻すように指示してから、サルボを睨みつけた。


「それはこちらの台詞だ。この腕輪は悪意に反応して自動的に蔦で反撃をする。お前、俺に何をしようとした?」


 もちろん、はったりだ。だが、ルゥルリィと見知らぬサルボ、どちらを信じるかといえば、言うまでもない。


 そして、図星だったのだろう。サルボの顔にはそうとわかるほどに動揺が浮かんだ。視線が泳いでいるのが丸わかりだった。その辺りの仕草は種族共通なのでわかりやすい。さすがに顔色まではわからないが。


「い、言いがかりはよせよ! 何の証拠があって、そんなことを……! き、気分が悪い!」


 旗色が悪いとみたのか、サルボの撤退判断は素早かった。それだけを言い捨てると、逃げるように去って行ったのだ。


 明らかに怪しい態度。とはいえ、別に何をされたわけでもない。追うまでもないかと、その背中を見守っていると、背後から名前を呼ばれた。


 そちらにいたのも、サルボ。ただし、こちらは知り合い。イゴットのパーティーに所属している唯一の魔法職、何かと苦労してそうな神官のニーデルだ。その背後にはイゴットたちガラデンの四人もいる。


「……彼と知り合いですか?」


 ニーデルが、サルボの男が去って行った方向を見ながら聞いてきた。


「いや、よくわからないが、何かちょっかいをしかけてきたので問い詰めていただけだ。ニーデルこそ、知り合いか?」


 聞き返すと、ニーデルは曖昧な笑みを浮かべて頷く。


「ええ、一応は。彼と同じ時期に転生してきたのです。結局、彼は五年で借金を返済できず奴隷落ちしたはずですが。……ここに来ていたんですね」

「親しかったのか?」

「いえ、ほとんど交流はありませんでした。彼は……あまり素行が良くない探索者だったので、最後にはどこのパーティーからもつまはじきにされていました。奴隷落ちしたあとも、借金を肩代わりしてまで引き取るパーティーがいないということで、そのあとのことは全く。だから、少し驚いてしまって」

「そうか」


 消息の知れなかった同郷の人間を偶然目撃して少し驚いたという程度のことらしい。そのあとは、特に気にすることもなく、話はこれから向かうダンジョンのことになった。


「いやぁ、ジンヤさんが来てくれて助かりますよ! 魔法が必須級の魔物が多いので、私一人じゃ大変だったんですよ」


 あはは、と上機嫌に笑うニーデル。イゴットは苦笑いで、エメラはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。兄弟ガラデンのロンズとルバーは未だにどちらがどちらかわからないが、二人して拳を突き上げて見せた。よくはわからんが、頑張ろうぜということらしい。


 コイツら、ダンジョンを案内してやるとか言っていたが、俺を戦力として使い倒す気満々じゃないか!


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