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73. ダンジョン攻略開始

 目的地となる狩り場は、コークスローの東側の荒地にある。そこには地面に幾つかの穴が空いており、その全てがダンジョンへとつながっているそうだ。


「で、俺たちが攻略を目指しているのは、この穴のダンジョンだ」


 とある大穴の前で、イゴットが猛々しい笑みを浮かべた。どうやら、ダンジョン攻略に並々ならぬ意気込みがあるようだ。


だが、俺としてはいまひとつピンとこない。


「攻略っていうのは、どういうことだ?」


 ダンジョンということならば、エルネマインの狩り場はいずれもダンジョンである。こちらに転生してすぐにそう教えてもらった。エネルギー湧出量が多く、魔物や宝箱が自然発生する場所をダンジョンと呼ぶのだと。


 探索者の目的はダンジョンで魔物を狩ることであって、攻略することではない。クレアテ結晶体やドロップ素材をいくら集めたところで、ダンジョンを“攻略した”とは言わないのだ。


「この穴のダンジョンの奥には特別な宝箱があるんだよ。それを取ったら攻略ってことね」


 俺の疑問に答えたのはエメラだ。だが、その答えがさらなる疑問を呼ぶ。


 エルネマインが転生者を集めてどれほど経過したのか知らないが、少なくとも一世代は経過しているはずだ。レベルの高い探索者ならばダンジョン踏破などたやすいだろうし、未攻略のダンジョンなんて存在しているものだろうか。


 尋ねると、ニーデルが頷く。


「その疑問はもっともですね。ですが、この手のダンジョンは復活するんですよ」


 ニーデルが言っているのは、奥地に宝箱が設置してある攻略するタイプのダンジョンらしい。多くは、ここの大穴ダンジョンのように地下迷宮のような構造のようだ。


 その最大の特徴は、最奥にボス格モンスターが居座って、宝箱を守っていること。ボスを倒して宝を手に入れれば攻略は完了。雑魚魔物も出現しなくなるらしい。だが、それはあくまで一時的なことで、ある程度の時間が経過すれば、ボスも宝箱も再出現する。それをダンジョンの復活と呼んでいるそうだ。


「ここのダンジョンは、攻略してしばらくすると消えてしまうんですが、別の場所に新しい穴ができるんです。そのたびに内部構造も変わるので攻略も一筋縄ではいかないのですが、その分、奥地の宝箱はなかなか良い物が手に入るそうですよ」


 にこりと微笑んでニーデルが締めた。俺はそれに頷く。


「なるほどな。挑む価値はあるってことか」


 エルネを稼ぐだけなら、普通の狩り場でも十分に稼げる。わざわざ、穴の中なんていう動きづらい場所に潜る必要もないのだ。


 だが、宝箱を見つけたいと思えば事情は異なる。通常の狩り場でも宝箱が見つかることはあるが、その頻度はさほどでもない。それが、攻略型ダンジョンでは最奥に到達できれば確実に手に入るのだ。しかも、途中の宝箱出現率も、通常の狩り場よりは高いらしい。ならば、挑む価値は十分にある。


 なにせ、強力な装備品は、宝箱から入手するのが最も確実な方法だからな。


 単純な攻撃力でいえば、職人製の武具でも良品はあるのだが、それらには特殊効果がついていない。性能を極めるならば、やはり宝箱から入手した武具一択(いったく)となる。


 となると、当然ながら、多くの冒険者は装備品を手放したがらない。まれに出回ったとしても高額の上、すぐに売れてしまう。狙って手に入れるのは難しいのだ。俺がハリソンから借金の(かた)として譲り受けた装備類も、まともに買い取っていたら恐ろしい値段になっていたことだろう。


「そういうことだ。それに、このダンジョン攻略ってのが、コークスローでは一種の力試しになっていてな。ま、ここがクリアできれば一目置かれるってところだ。だけどなぁ……実は、俺たちはまだ攻略できてないんだよ」

「そうなのか?」


 それはなかなか意外な話だった。イゴットたち『パワー&パワー』はコークスローでは名の通ったパーティーである。実力も十分。他の探索者とほとんど交流のない俺の耳にさえ評判の良さが聞こえるほどの優良パーティーだ。そのイゴットたちが攻略できないならば、コークスローのほとんどのパーティーも同様なのではないかと思えてしまう。


 だが、彼らが攻略できない理由は明白だった。


「物理攻撃に強い魔物ばかりが出るんです……」


 ニーデルが表情のない顔で言う。彼以外は魔術を不得手とするメンバーだ。その分、ニーデルに負担が集中するのだろう。いつか、酒場で愚痴っていたのは、このダンジョンの攻略が進まないせいだったに違いない。


 この大穴ダンジョンをクリアできなくとも、すでに彼らはコークスローの探索者たちから認められている。そういう意味では無理に攻略にこだわる必要もないはずだが、プライドや面子もあるので攻略しておきたいといったところか。


「そんなわけで、ジンヤさんが協力してくれるのは非常に助かります! ありがとうございます!」

「まあ、事情はわかった」


 俺もゲーマーの(さが)として理解はできる。未攻略のまま残しておくのは据わりが悪いよな。頻繁に駆り出されるのは困るが、たまに協力するくらいなら(やぶさ)かではない。


「それじゃあ、いくぞ!」


 イゴットの号令を合図に、大穴の中を降りていく。緩やかな坂になっているので、上り下りに問題はなさそうだ。先頭はイゴット。エメラ、ニーデル、俺と続き、ロンズとルバーが後方を警戒する。


 入り口付近ということもあり、魔物と遭遇することもなく、数分ほど歩いた。穴の中に射し込む日の光はかなり減り、すでに辺りは薄暗くなっている。


「ランタンを用意します」


 ニーデルがランタンを用意して火を灯す。ガラデンもサルボも特に夜目が利くわけではないらしい。


 ゆらゆらと揺れる炎は、光源としては頼りない。開けた場所ならともかく、見通しの悪い穴の中を照らすには不十分だと言わざるを得なかった。だというのに、何故ランタンを使うのか。


「光魔術は使わないのか?」


 率直に聞くと、ニーデルはしかめっ面で首を横に振った。


「もちろん、そうした方が良いのはわかっています。光源を多数用意するのは、もしものときの備えとしても有効ですから。ですが、これもマナの節約です。私一人ですと、照明魔術分のマナも無駄にはできません」

「マジか……」


 言わんとすることはわかるが……照明魔術なんて、マナコストは大したことはないぞ。そこまで切り詰めないとならないのか。視界確保はかなり重要なことだと思うのだが。


「だったら、俺が出すぞ」


 確認もとらず、光魔術のアーツ〈フローティング・ライト〉を使う。ふよふよと追従する光球が俺の頭上に浮かんだ。攻撃力は皆無で、ただ周囲を照らすだけの魔術だ。それでも、ランタンの灯りよりはよほど明るい。装備類でマナ回復効率が上がっているので、マナ消費もほとんど負担にはならないのだ。使わないという手はなかった。


「ジンヤさん、あなたは救世主です! まさか光魔術まで使えるとは!」


 たったそれだけのことなのに、ニーデルは大げさに喜んだ。彼だけではなく、イゴットたちも“これならいける!”と盛り上がっている。たかが、照明魔術一つにここまで喜ぶなんていったいどれほど劣悪な環境で探索を続けていたのだ、こいつらは。



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