71. 知らないスキル
コークスローでは、初日に泊まった宿をそのまま使っている。ガラデンの主人がいい感じに適当なので、過ごしやすいのだ。そして、この宿で毎日のように続けていることがあった。それが、セプテトの呼び出し。初日以来音沙汰がなかったのだが、ついに今日、奴が呼び出しに応えた。
「お前、何をやってたんだ。こっちは何度も連絡したんだぞ」
「僕だって、暇じゃないんだ! バグ修正とかで大変だったんだからね! そもそも、御使いをそんな風に簡単に呼び出したりしないでよ!」
御使いは、この世界を運営する存在。神の使徒。本来なら、たしかにコイツの言うとおり、気軽に呼び出して良い存在じゃないのだろうが……何故だろう、コイツを見ていると、全くそんな気がしない。
「バグって、あれだろ。どうせサブクラス関連の」
「な、なんのことかな……?」
「ステータスの再計算とか予定になかったのに、急遽実装したりするから……」
「いや、それは……」
「サブクラスの付け替えだって、ちゃんと仕様としてあったのか? 思いつきで実装したんじゃないのか?」
「それは、違うよ! サブクラスの再設定は元々、条件付きで可能とする予定だったんだ。まあ、テストが足りなかったのは確かだけど……」
「それじゃ駄目だろ」
「うぅ……」
俺の説教にセプテトは肩を落としている。御使いの威厳など全くない。まあ、変に威張り散らされるよりはよほどいいのだが。
「あのな。新システムにバグがつきものなのは俺だってわかる。多少、検証に付き合うくらいなら構わないんだ」
「そうなの?」
セプテトが小首を傾げて聞いてくる。男がやるには少し可愛らしい仕草だが、コイツには妙に似合っているな。
「まあ、俺にもメリットはあるからな。だから、変に隠したりするな。連絡が取れないのも困る。気づいたことがあったらすぐに報告するから」
「そっか! じゃあ、これからは協力してもらおうかな! いやあ、助かるな」
協力を約束すると、セプテトは急に機嫌が良くなった。まあ、これでバグ修正が原因で連絡がとれないなんてこともなくなるだろう。明らかにバグがありそうなときには事前に指摘もできる。相談を受けるという形で、それとなく俺に有利なシステムに誘導することもできるかもしれない。
まあ、開発に協力するのだ。それくらいの役得があってもいいだろう。
「まあ、それはともかく。サブクラスの名前は即刻修正しろ。な?」
「あっ、はい」
【偽装】で変更できるとはいえ、そのままにしておくつもりはないからな?
「うわぁ……ステータスが酷いことになってる。これ、レベル20台のステータスじゃないよ……」
「だろうなぁ」
サブクラスの修正をするために必要と言うことで、システムカードを手渡したあと、セプテトは頭を抱えた。サブクラスの適用なしだとレベル40台の探索者でも上位のステータスに相当するらしい。道理でボス格モンスターでも粉砕できるわけだ。装備も強化されているからなぁ。
「サブクラスの修正が入ると、このステータスはどうなるんだ?」
「うーん、普通に修正するとなると、このまんまだね。これは君の魂に定着した創造エネルギーの総量が関係しているから。個別に引っぺがすこともできるけど……」
セプテトは少し考えるような仕草をしたあと、軽く頷いて続けた。
「まあ、迷惑をかけたわけだし、君のステータスはこのままでいいか。これ以降のサブクラスの付け替えでは加算されないように修正するけどね」
「いいのか?」
「ふふ、僕としても、協力者は強い方が都合がいいからね」
ニヤリと笑うセプテト。
なるほどな。今回のセプテトの要請であるコークスローでの魔物狩りでも、バグによるステータスアップのおかげでかなり捗った。これからも、俺を協力者として使うつもりなら、奴にとっても好都合ということか。
それに、メリットがあった方が俺からの協力を引き出しやすいという思惑があるのかもしれない。俺が打算ありきでセプテトに協力するように、セプテトも見返りをちらつかせることで協力を求める。まあ、悪くない関係だ。どちらかが一方的に損をする関係よりはよほど健全だろう。
セプテトとの協力関係についてはそれでいいとして、話しておきたいことは他にもある。というか、そのために、セプテトを呼んだのだしな。
「コークスロー周辺での魔物狩りは続けているが、異常が収まる気配はないぞ」
「そうみたいだね。湧出量は依然として多いままだ。正直、君が暴れ回ってなければ、もっと大変なことになっていたと思うよ。でも、このままじゃ原因の調査は難しいね……」
異常が収まっていないという認識はセプテトにもあるようだ。だが、手が回らないらしい。その原因がバグ修正というのもどうかと思うが。
「実は、そのことで気になることがあってな。つい最近、ボス格モンスターを二体討伐したんだが、そいつらは通常よりも強い個体だったらしい。しかも、二体ともが不気味なスキルを持っていた」
「不気味なスキル?」
「これだ」
インベントリから【凶魔侵蝕】のスキル結晶体をとりだして手渡す。受け取ったセプテトは、それをしげしげと見つめてから素頓狂な声を上げた。
「なに、このスキル! こんなスキル見たことがないよ!?」
「お前でもそうなのか?」
「う、うん。少なくとも僕が実装したものではないし、報告も受けていないよ」
セプテトの御使いとしての役割は、探索者たちの戦闘職業や特性、スキルの実装・管理である。スキルシステムのひな形を作ったのもセプテトだが、全てのスキルを作ったわけではないらしい。
「探索者のスキルは僕が実装したものがほとんどだけどね。逆に、魔物独自のスキルなんかについては、ほとんど僕は関与してないよ」
「じゃあ、【凶魔侵蝕】は別の御使いが実装したものなのか?」
「いや、どうだろう。さっきも言ったけど、そんな報告は受けていないよ。まだ、試験段階の可能性もあるけど……実装する意図がよくわからないしなぁ」
「自然に発生した可能性もあるのか?」
「……さすがにそれはないと思うけど」
調べてみるよと言い残して、セプテトは去った。
結局、【凶魔侵蝕】が今回の異常事態に関連するかどうかもわからずじまいだ。しばらくは、魔物狩りを継続するしかないな。




