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69. とげ!

 コークスローの北西。アースリルへと向かう街道から少し離れた場所に俺たちはいた。この辺りの魔物はコークスロー周辺では一番弱く、狩りの効率も良いとは言えない。そのせいか、比較的人が少ないのだ。まあ、通りを行く探索者が少ないながらもいるので、全く目立たないというわけにはいかないが。


 格好はいつものファントムスタイル。ルゥルリィも宿環から出て俺の隣に立っている。二人して何を見ているかと言えば、やたらと棘の生えた霊亀王の魔鎚。つまりはサボテンの刑を実行中のペルフェだ。


 ペルフェは当然ながら【サボテン擬態】のスキル結晶体を使うことを嫌がったが、お仕置きを受け入れなければしばらく使わないと宣言すると、渋々ながらに従った。アーマニア的には棘だらけよりも使わずに放置の方が堪えるらしい。


「なんか凶悪そうだな。しばらく、そのままでいいんじゃないか?」


 【サボテン擬態】はパッシブスキル。柄の部分まで含めて勝手に棘が生えてしまうので、持つことができなくなってしまう。だが、今のペルフェなら念動で動けるのだ。つまり、サボテン擬態状態でも十分に戦える。むしろ、棘の分だけ攻撃力が上がっているんじゃないだろうか。


『いやだよ、カッコ悪いよ!』


 だが、ペルフェには不評だった。アーマニア的には攻撃力が正義かと思ったが、見た目にもこだわりがあるらしい。まあ、たしかに不格好だからな。


 とはいえ、これはあくまでお仕置き。しばらくはそのままにしておこう。


 ……と思ったのだが。


「ルゥも! ルゥも棘欲しい!」


 ルゥルリィが思わぬことを言い出した。


「いや、これはペルフェのお仕置き用だからな」

『反省してる! 僕はもう十分に反省してるよ! ルゥルリィもこう言ってるしさ?』


 【サボテン擬態】なんて使い道がないと思って一つしか残していなかった。ルゥルリィに与えようと思えば、ペルフェから剥がさないといけない。それがわかっているので、ペルフェも積極的に勧めてくる。


「本当に反省してるか? 【殲滅衝動】は危ないから、俺が指示するまでは使うなよ」

『わかってるって。もうやらないよ!』


 若干信用ならないと感じつつも、まあいいだろうと、スキルドレインでペルフェから【サボテン擬態】を抜き出す。


「で、ルゥルリィ、本当に使うのか?」

「うん、ますた! 使う!」

『助かったけど……ちょっと趣味が悪いよ、ルゥルリィ』

「とげ♪ とげ♪」

「……大丈夫なんだろうな?」


 というか、ルゥルリィから棘が生えたらどうなるんだ。サボテン人間のサルボみたいになるのか?


 まあ、スキルドレインで取り外しできるのだから、大した問題はあるまいと、ルゥルリィに結晶体を手渡す。受け取ったルゥルリィは嬉しそうにそれを掲げた。


「とげ!」


 宣言と同時にスキル結晶体が崩れ落ちる。どうなる、と身構えたが……ルゥルリィには何の変化も見られなかった。


「あれ、効果がなかったか?」

「んーん。あるよ」


 ルゥルリィはぶんぶんと首を横に振ると、右手ですぐ近くの地面を指した。直後、地面からサボテンが生えてくる。


「サボテンを生やす能力になった……? いや――」


 ルゥルリィが生やしたらしいサボテンは、何故かゆらゆらと揺れていた。その動きには見覚えがある。


「蔦がサボテンに擬態しているのか」

「そう」


 俺の言葉に、ルゥルリィがにこりと笑う。正解だったらしい。それを証明するかのように、サボテンがいつもの蔦へと見た目を変えた。


「え? 切り替えもできるのか?」

「うん。もっと、できる!」


 そう言うと、ルゥルリィは【サボテン擬態】を使った技を披露してくれた。蔦とサボテンを別々に生やしたり、蔦のまま棘を生やしたり、蔦の先端からサボテンの花を咲かせたり。


 戦闘面で役に立つかと言われれば、まあ多少はといったところだろう。サボテンの棘よりも、蔦本来の吸命効果の方が強力だ。蔦をサボテンに見せかけるメリットもあまり思いつかない。


 ただ、完全に外れスキルだと思っていた【サボテン擬態】が多少なりとも使い道があったことが興味深い。


「凄いな。ペルフェにはできなかったのか?」

『できるならトゲトゲのままになってないよ! ルゥルリィはドライアドだから特に相性が良いんだと思うよ』

「えへん!」

「種族適性ってことか。弱体化じゃなくて強化されることもあるんだな」


 それが知れただけでも、ルゥルリィに【サボテン擬態】のスキルを取得させた価値はあったな。


「ドライアドは植物系のスキルが得意なのか?」

「うん!」


 にぱっと笑って、ルゥルリィが頷く。そういうことなら、植物系の魔物が多いエリアでスキル集めをしても面白いな。


「アーマニアはどんな系統のスキルが得意なんだ?」

『僕たち? そりゃあ、戦闘系のスキルだよ。まあ、他の精霊と違って特化していないから、特別強化されるってことはないけどさ』

「なるほどな」


 ルゥルリィには魔術スキルを筆頭に幾つか取得できないスキルがあったが、今のところペルフェにはそういったスキルはない。戦闘スキルならばほぼ無制限で取得できるのがアーマニアの特性なのかもな。


 まあ、全ては手に入るスキル次第だ。まだ手に入れていない状態であれこれ考えても仕方ない。とりあえず、【サボテン擬態】は正式にルゥルリィが使うことになった。


『よし! これでもうトゲトゲにされる心配はないぞ』


 ペルフェが喜んでいるのが癪なので、一応釘をさしておこう。


「あとで追加の【サボテン擬態】を確保するか、別のお仕置き手段を考えておかないとな」

『なんで!?』


 それはもちろん、お前がまたやらかしそうだからだよ。

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