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68. とんでもない奴

 両手両足を失ったゴーレムは横倒しになる寸前に消滅した。どうやら生命力を削りきったらしい。というわけで、逃げ遅れた探索者がいたとしても、ゴーレムの下敷きにはなっていないだろう。せめてもの幸いだった。


『ふぅ、やったね! どう、ジンヤ? 僕、大活躍だったでしょ!』

「お前、しばらくサボテンの刑な」

『へあ? な、なんで~!』


 サボテンの刑。【サボテン擬態】のスキル結晶体を強制的に使用させるお仕置きである。もしものときのために、結晶体をとっておいて良かった。


 まあ、俺の“全力”という言葉も良くなかったと言える。サボテンの刑は短めにしておこう。何より、俺も不便だしな。


 今後、【殲滅衝動】に関しては、明確に使えと指示したときだけ使うように言っておかないとな。さすがに、他の探索者がいるところで使われるとヒヤヒヤする。


 さて、ペルフェのことはそれでいいとして、この場をどう収めたものか。


 俺を見る探索者たちの目は冷ややかだ。それも当然だろう。獲物を横取りした挙句の迷惑行為。せめて、彼らの安全が確保された後なら、そこまで不満はなかっただろうが。


「終わったか、ファントム。さすがだニャ」


 重苦しい雰囲気の中、俺に声をかけてきたのはコマタだ。その周囲を彼のパーティーメンバーが囲んでいる。当然、シャスカもその中にいた。


「だが、やり過ぎではないか? 味方を危険にさらしてどうする」


 コマタが俺を糾弾する。が、これはある意味助け船でもある。彼が代表して不満を口にすることで、他の者たちが暴走するのを防いでいるのであろう。


 無意味に探索者たちと敵対するつもりもないので、ここは謝罪の一手だ。


「すまなかった。こいつの制御がうまくできなくてな」


 ペルフェを掲げてみせる。それだけで、コマタを含めて数人の探索者から納得するような声が漏れた。


「ああ、アーマニアか。なるほど」

「中にはやばいのもあるって話だからな」

「下手な呪い装備よりも厄介らしいぞ」

「あの威力も呪い装備ゆえか」


 さすがに、コークスローで活動するくらいの探索者ならばアーマニアのことを知っているらしい。呪いの装備のようなアーマニアも存在するというところまでが共通認識のようだ。


『何、その言い草! 納得できないんだけど!』


 探索者たちの言葉にペルフェが憤慨しているが……今のお前にそれを言う資格はないからな?


「故意ではないというなら仕方がないが……アーマニアの扱いには気をつけるんだニャ」

「わかってる。ああ、迷惑をかけた詫びにドロップはそっちで分けてくれ。俺は不要だ」

「お前が倒したデカブツのも、か?」

「ああ」


 露骨な点数稼ぎだが、やらないよりはマシだろう。周囲の探索者たちの厳しい視線も少しだけ和らいだ気がする。他の探索者と仲良くやるつもりはないが、無意味に反発されても厄介だからな。ドロップアイテムくらいで、多少の好感度が買えるなら安いものだ。


 一応は今回の騒動もこれでケリがついた。そのはずだが、コマタの表情は厳しい。というよりも、さきほどよりも一段と厳しくなった。


「さて、ファントム。お前には言っておくことがある!」


 小柄な猫の体で仁王立ちして、俺を睨み付けるコマタ。威厳たっぷり……なはずだが、威圧感よりもファンシーさがどうしても先行している。とはいえ、この状況でそれを表に出すわけにもいかない。神妙な態度で続きを促す。


「……なんだ?」

「うむ。実は私のパーティーメンバーの一人、シャスカがお前のことを気にしている」

「はぁ?」


 何のことだと、シャスカに視線を向ければ、彼女はいたずらな笑みを浮かべて、こちらに手を振った。この態度の意味がわからない。少なくとも、俺は“ファントム”として彼女に会ったことはないはずだが。


「ぐぬぬ……認めん! 私は認めんぞ!」


 俺の困惑をよそに、コマタは一人でヒートアップしている。シャスカはケタケタと笑い、他のメンバーは呆れたように首を振ったり、顔を手で覆っている。どういう状況だ、これ。


「ああ、シャスカ姐さんのアレか。面白そうな奴を見かけたら、黒豹の旦那をけしかける奴」

「……俺、ちょっとだけファントムに同情するぜ」

「コマタさん、悪い人じゃないんだけどねぇ」

「メンバー想いなのはいいことだけど……ね?」


 探索者たちの呟きから、なんとなく事情が知れる。どうして、コマタがライバル宣言をしたのか。それはシャスカが煽ったかららしい。

 

 さきほどまでは俺に対して薄らと悪感情を持っていたはずの探索者たち。今、その目に宿るのは同情だ。もし、シャスカが探索者同士の不和を嫌ってこの状況を狙ったのならば、なかなかの策士だ。だが、大笑いしている様子からはとてもそうは思えない。少なくとも、意図の半分以上は面白そうだから、だろうな。


「いや、あのな……」


 言い訳しようとしたところで、シャスカの顔に悪い笑みが浮かんだ。あろうことか、奴は俺にむかって投げキスを寄越してきた。しかも、コマタにもばっちりと見える形で。


「ニァアアア! 認めんニャ! 貴様のようニャ怪しげニャ奴との交際など! うちのシャスカと交際したければ、お前が真っ当な探索者であることを、この私に証明して見せることだ! それまでは、絶対に近づくことも許さんからニャア!」


 興奮しているせいか“ニャ”成分多めで言い捨てると、そのままパーティーを引き連れて離れていった。探索者たちも“まあ、頑張れよ”と俺に声をかけたあと、ドロップアイテムを拾いはじめる。


 残された俺はしばらくその場で立ち尽くすしかなかった。


 シャスカ……とんでもない奴だな……アイツ。

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