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67. 全力というからには

 岩石飛ばし、突進、そして、両腕による地面殴りが巨石ゴーレムの主な攻撃手段だ。


 このうち厄介なのが、巨体を生かした突進攻撃。攻撃面の強化がないとはいえ、まともに食らえばしばらくは身動きがとれない。仲間のフォローがなければ、雑魚魔物に集られて命を失うことになるだろう。もちろん、探索者たちも十分承知しているので突進攻撃は確実に避ける方針だ。


 地面殴りも隙がない。広範囲をランダムで殴りつけるため、攻撃を避けようと思えば距離をとらざるをえないのだ。


 というわけで、攻撃のチャンスとなるのは岩石飛ばしのタイミングとなる。岩石飛ばしは隙が大きい上に、攻撃範囲も狭い。タンク職が離れた場所で攻撃を引きつければ、ほとんど被害もなく捌ける。この隙に、前衛職がゴーレムの足を乱打するのが基本方針らしい。


「お、岩石飛ばし、くるぞ!」

「前衛部隊、突撃ぃ!」

「受けは?」

「俺が受ける! 離れてろ!」

「法術かけます!」


 今も岩石飛ばしの兆候を見て取った探索者たちがにわかに号令を飛ばし始めた。ちょうどいいタイミングだ。俺も便乗させてもらおう。


「ファントム!?」

「邪魔させてもらうぞ」

「……っち。まあ、黒豹が許可したんなら仕方ねえな」

「余計なことは気にするな! 各人仕事を果たせ!」


 俺の姿を認めた探索者たちの反応は様々。驚く者、不満そうな者、淡々と役目を果たそうとする者。だが、戦いなれした真っ当な冒険者だけあって、無意味に突っかかってきたりはしない。これもコマタの統率力だろうか。


 おっと、余計なことを気にしている場合じゃないな。岩石飛ばし中は隙ができるとはいえ、それほど長い時間ではない。今のうちにドレインしてしまわないと。


 狙うのはもちろん【凶魔侵蝕】だ。アーツを発動してスキルを奪う!


「な、なんだ!?」

「……見たことがないアーツだな」

「結晶体? クレアテ結晶体に似てるけど色が……」


 ざわつく探索者たち。注目を集めることになってしまったが……まあ仕方ないな。さすがにスキルを盗んでいるとまでは思わないだろう。それよりも、驚きで攻撃の手が止まっているのはいただけない。


「俺のことを気にしている場合か? それよりも自分たちの務めを果たせ!」

「言われなくても!」

「攻撃再開だ! あまり猶予はないぞ!」


 俺が発破をかけると、探索者たちが攻撃を再開する。ガツンと響くハンマーの音に変化はないが、果たして――……


「攻撃が……通った!?」

「おお、いけるぞ!」


 探索者たちから歓声が上がる。やはり、【凶魔侵蝕】は何らかの強化スキルなのだろう。スキルを奪ったことで、攻撃が通るようになったらしい。


「おい、ファントム。お前、いったい、何をした?」


 探索者の一人がぎろりと睨んでくる。当然の疑問だろうが、こちらとしては手の内を明かすつもりはない。そもそもバグ職の能力だからな。おおっぴらに言えるものじゃない。


「さてな。おっと、次の攻撃に移りそうだぞ」

「っち!」

「退避! 総員退避だ!」


 タイミングよく別の攻撃へと移る兆しが見えたので、それを理由に質問を切り上げることができた。


 さて、コマタたちが苦戦する元凶となった【凶魔侵蝕】は奪った。あとは、彼らに任せておけば、ほどなくしてゴーレムも倒れるだろう。だが、せっかくだ。ついでに【ハードボディ】とやらも奪っておこう。彼らの手助けにもなるし、俺はスキルが手に入るのだから、一石二鳥だ。


 というわけで、次の岩石飛ばしのタイミングで【ハードボディ】も確保。これで、俺の仕事は終わりだ。そう思ったのだが。


『むぅ。僕が活躍できてない! ルゥルリィばっかりずるい!』


 ペルフェがわがままを言い始めた。ボス格モンスターが二体というのがよくないのだろうな。一体しかいなければ諦めもついたのだろうが、ここにもう一体いる。自分に倒させろと言うのだろう。


「おい、ペルフェ――」

「ファントム、何をしている!? 逃げろ!」


 ペルフェを諭そうとしたところで、切羽詰まった叫びに遮られた。ふと視線を上げると、巨岩が……いや巨石ゴーレムの拳が迫っている。どうやら、攻撃の切り替えタイミングで逃げ損ねたらしい。


『チャンス! ジンヤ、やっちゃおう!』


 ペルフェはやる気満々だ。このタイミングからでも避けることはできるが、そうなるとペルフェの不満も解消されないだろう。あとで愚痴を聞かされるのは面倒だ。


 仕方がない、やるか。


 意識を切り替える。ペルフェを握りしめ、〈剛獣ノ心〉で筋力アップ。【強撃】スキルの〈岩石砕き〉で迎え撃つ!


「やるなら、全力だ!」

『オッケー、全力だね! 殲滅ぅ~!』


 今の言葉は決して指示ではない。ただの決意表明みたいなものだ。だが、故意かそうでないかは不明だが、ペルフェは俺からの指示と誤認した。そして、不穏なことを口走っている。


 ちょっと待てと思うも遅かった。巨石ゴーレムの拳を打ち返す直前に、俺の心に狂気が宿る。ペルフェの奴が殲滅衝動を発動させたのだろう。


 ガツンと骨に響く衝撃。だが、抵抗は予想外に小さい。弾き返されてもおかしくないはずだが、何故か俺の腕は振り抜かれている。どうやらゴーレムの腕を粉砕したらしい。


「はぁ!?」

「嘘だろ、おい……」


 探索者の驚きの声が遠くに聞こえる。が、俺の衝動は収まらない。続けて、振り下ろされる左の拳も、同じ要領で砕く!


「これが、ファントムの強さ……」

「化け物か」


 ドン引きされている。そのことを頭の隅で認識しながらも、体は止まらない。気がつけば、ゴーレムの足下までダッシュしていた。


『いえ~い!』


 いえ~い、じゃない。止めろ、と思いながらも、全力でペルフェを振り回し、右足も粉砕。バランスを崩したゴーレムの巨体が傾き始めた。


「ちょ!?」

「一人で破壊するのかよ! いきなりすぎるだろ!」

「そこは危ないぞ! こっちに待避しろ!」


 慌てふためく探索者たち。

 すまない。だが、俺のせいじゃないんだ。すまない!


「おい、いい加減に止めろ!」

『あとひとつ! あとひとつだから!』


 ようやく声が出たが、ペルフェは止まらない。そのまま左足も粉砕したところで、ようやく衝動が収まった。……のはいいのだが。


「げっ!? 倒れる方向が変わったぞ」

「くそ、ファントムの野郎!」

「逃げて逃げて!」


 探索者たちは倒れゆくゴーレムから逃げ惑っている。すまない。本当にすまない。


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