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64. 舞い上がる

 砂嵐恐竜が巻き上げる砂塵の中では視覚はほぼ役に立たない。それでも【気配察知】のおかげで、奴がどこにいるのか、おおよその見当がつくのがありがたい。そうでなければ、状況を把握できずに踏み潰されていたなんてこともありうるぞ、これ。


 いや、それ以前に、並の探索者なら砂嵐の継続ダメージに耐えられないのではないか。俺はサブクラスバグによって通常より高いステータスと【操砂術】スキルのおかげで影響が小さいが、そうでなければ相当に苦戦していたはずだ。こいつ、普通の探索者が20~30のレベル帯で戦うには強すぎないか?


 気配を頼りに、どうにか奴の足下に近づくことはできたのだが、そこからがまた厄介だった。


『ジンヤ、上から来るよ。逃げて!』

「ちっ!」


 図体がでかいくせに、砂嵐恐竜の攻撃は的確だ。視界の悪さなど物ともせずに、俺を踏みつけようとしてくる。そのせいで、なかなかスキルドレインを使うチャンスが得られない。


「ルゥルリィ、一旦、戻ってろ」

「あぅ」


 巨体から繰り出される攻撃は緩慢に見えて、その実、素早い。しかも、巨大な足による踏みつけとなると、攻撃範囲も広いのだ。俺はまだいいが、ルゥルリィが避け続けるのは厳しい状況だった。一旦、宿環に戻ってもらった方が良いだろう。少し残念そうにしていたが、仕方がない。


 さて、どうするか。スキルドレインは発動までに多少時間がかかる。奴の足下でちょろちょろしていてもチャンスは巡ってこないだろう。とにかく、踏みつけ攻撃の範囲外に出なければ話にならない。それでいて、ドレインを使うには奴に接触する必要がある。となれば。


「奴の背中に飛び乗る!」

『えぇ、めちゃくちゃ高いよ!?』

「高さはどうにかする! ペルフェは念動で援護を!」

『ジンヤを動かすの!? 重すぎるよ!』


 馬鹿を言うな。これでも元の世界の体よりはかなりスマートなんだぞ。


 それはともかく、恐竜の背中に飛び乗る方法だ。おそらくは4~5mの高さ。【跳躍】スキルがあるとはいえ、普通にジャンプした程度ではとても届かない。一応、手は考えてあるが、うまくいくかどうか。


『ジンヤ!』

「ああ」


 タイミングよく踏みつけ攻撃が来た。今までは全力で回避していたが、それを心持ち控えめに避ける。直後、すさまじい風切り音と風圧が俺を襲った。思ったよりもギリギリだったらしい。少し肝が冷えたが……好都合だ。


 俺は即座にアーツを発動する。風魔術の上位アーツ〈バーストストーム〉だ。発動地点は振り下ろした奴の足――――つまり俺の目の前だ。巻き上がる旋風は勢いを増し、俺の体を宙に浮かせた。渦巻く風が刃のように俺をも切り裂く。仕方ない、これは必要経費だ。


“ペルフェ、念動だ”


 そう言ったつもりだが、果たして言葉になったかどうか。轟々とうるさい嵐の中では自分の声でさえ聞き取ることが難しい。


 だが、少なくとも意図は伝わったらしい。不意に、俺の体を不自然な加速が襲った。ペルフェの念動だ。もはや前後左右の感覚もわからない状況だったが、ペルフェは正しく力を使ってくれたらしく、どうにか暴風から抜け出すことができた。


 そのまま自由落下。だが、着地はすぐだ。


「くふ……!」

『ふぅ……重かった!』


 背中から落ちたそこは緩やかに丸みを帯びている。地面ではなく、恐竜の背の上であることはすぐにわかった。首尾良く飛び乗ることができたらしい。


「うまくいったな!」

『うまくいったな、じゃないよ! こんなことするなら言っといてよ!』


 成功したというのに、ペルフェが喚いている。まあ、いきなりだったからな。とはいえ、砂嵐の中で悠長に説明するのも難しかった。仕方がないことだ。


「愚痴は後で聞く。まずはスキルだ」

『むぅ……』

『ペル、よしよし』


 ペルフェを慰める役はルゥルリィに任せて、俺は恐竜からスキルを奪うことに専念する。〈スキル看破〉で恐竜のスキルを盗み見れば、予想通り【操砂術】のスキルがあった。続いて、〈スキルドレイン〉だ。確保したいスキルは幾つかあるが、まずは厄介な砂を止める。


『ますた、首!』


 発動後、すぐにルゥルリィの声。当然ながら、俺への解雇通知ではない。危機を知らせる警告だ。


 砂嵐恐竜は首が長いタイプの恐竜だ。そのせいで、首が背中まで届くらしい。噛みつき攻撃でもしようというのか、奴の頭が俺をめがけて突っ込んできた。避けることはできるだろうが、そうするとドレインを中断しなければならない。


『僕がやるよ!』


 対応を迷う間もなく、ペルフェが迎え撃つべく念動で飛んだ。


 真っ正面からのぶつかり合い。その衝撃に怯んだか、悲鳴とともに恐竜は頭を引き戻した。奴の生命力からすれば、大きなダメージとはいえないだろう。だが、攻撃を止めさせたのは大きい。牽制するようにぐるぐると周囲を飛び回るペルフェを警戒してか、手を――いや首を出しかねている。


 そして、今。俺の手の中には、青い結晶体が握られている。視界を遮る砂嵐は少しずつ勢いをなくしていく。


 最終的に砂嵐の勢いはかなり小さくなった。それでも、消滅するには至らない。


「完全には消えないのか」

「ルゥの蔦と同じ!」


 俺の疑問には、再び姿を現したルゥルリィが答えた。意図するところは、自分の蔦と同じ種族特有の能力だということだろう。スキルがなくなったことで操作精度は落ちるが、完全に無力化することはできないようだ。


 まあ、【操砂術】はこちらも持っているので、この程度の砂嵐ならば実質無害だ。あとはじっくりとスキルを吟味させてもらうとしようか。



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