63. ボス格モンスター早狩り競争
“コークスローの勇者”なる称号は初めて聞く……というか、おそらくコマタが自称しているだけだろう。なんでそんなものを賭けて争う羽目になったのか。わからないまま、狩りを続ける。まあ、勝手にしてくれと、そんな心境だ。
戦況に変化があったのはさらに小一時間ほどが経過した頃だった。
「おい、この音!」
「ああ、ボスだな。まあ、この人数がいれば勝てなくはないだろ」
「初見のやつは手を出すなよ! 無理に戦う必要はない! 他の魔物を引きつけてくれ!」
周囲の探索者たちが騒ぎ始めた。どうやら、ボス格モンスターが現れたらしい。
そう言われてみれば、強大な魔物の気配が近づきつつあることに気づく。
こんなに強烈な気配を見落とすとはな。【気配察知】があっても、戦いの最中に戦域全体の状況を把握するのは難しいということか。特性を得たばかりの俺では、経験を積んだ斥候職には遠く及ばないようだ。
「って、おい! マジかよ!」
「こんなことあり得るのか!?」
「なんだ? どうしたんだ?」
「もう一体だ! もう一体、ボスが近づいてきてる!」
「なにぃ!?」
再度のざわめき。先ほどは余裕がありそうだった探索者たちにも動揺が見られる。それもそのはずで、ボス格が同じ狩り場で二体同時に出現するなど聞いたこともない。紛うことなき異常事態だった。
おそらくは、異常発生と同様、創造エネルギーの湧出量が増えすぎていることが原因だろう。セプテトの要請に従い、かなりのペースで魔物を狩っていたつもりだが、事態を沈静化するにはまったく足りていなかったわけだ。
やがて、魔物達をかき分けるように巨大な物が二体、その姿を現した。一体は、砂塵を纏った大型恐竜。そしてもう一体は、巨石のゴーレムだ。
探索者たちは浮き足立っている。こんな状況でボス格と戦うことになれば、思わぬ不覚をとるかもしれない。何なら逃げ出してくれても構わないのだが、取り決めのことが頭にあるせいかそれもできずにいるようだ。
仕方がない。少し動きやすくしてやろう。
「おい、黒猫!」
「誰が黒猫ニャ!」
あえて猫と呼べば、コマタが期待通りの反応を示す。
「勝負がどうのと言っていたな! それなら、こいつらで白黒つけるのはどうだ?」
「どちらが先に倒すか、ということか? いいだろう、乗った!」
なかなか話が早い。無意味に反発することもなく、コマタが即断する。もしかしたら、同じようなことを考えていたのかもしれないな。目的は勝負……ではなく、探索者たちをスムーズに戦いに誘導すること。“勝負”というわかりやすい行動原理があった方が、人は動きやすい。
「よぉし! 私はストンブレイディアに挑む! 私に味方する者は続け!」
「「「おお!」」」
コマタが宣言し、魔物を蹴散らしながら巨石ゴーレムへと迫る。呼応した探索者たちが、それに続いた。というか、全パーティーが向こうに行った。
なかなかのカリスマだ。決して、俺が嫌われているからではない……はず。俺は一人の方が戦いやすいので、問題はない。問題はないのだが……少しだけ、寂しさを覚えるのは俺の心が未熟だからだろうか。
これがコークスローのマスコットを決める勝負だったなら、この時点で勝負がついている。潔く負けを認めるとしよう。お前がマスコットだ。
「っと、アホなことを考えている場合じゃないな」
近くで戦っていた探索者たちが離れていったため、分散されていた魔物の攻撃が俺へと集中することになる。能力的には格下とはいえ、油断していては思わぬ手傷を負いかねない。
『僕も暴れるよ! いいでしょ!』
『ルゥも! ルゥも出る!』
「そうだな。まあ、構わないだろ」
ペルフェとルゥルリィからの参戦表明。多少は距離ができたとはいえ、視認できる範囲に探索者たちはいる……が、構うまいと許可を出した。コークスロー周辺で活動する限り、見られることは避けられないのだ。ずっと、こそこそ攻撃しているだけでは二人がつまらないだろうからな。
ペルフェは【幻惑】スキルの、<アイテム偽装>で見た目を変更している。ジンヤのときとは見た目を区別しているので、ファントムの特殊装備だと思ってくれるだろう。ルゥルリィに関してはファントムのときだけ姿を現すようにしておけば問題ない。ただ、一応、蔦攻撃は控えてもらうことにしよう。あれは、イゴットたちに見られているので。
「いくぞ!」
『うん!』
「あい!」
俺たちは残されたボス格、砂嵐恐竜へと向かう。手間が省けることに、奴も俺たちをターゲットとして認識しているようだ。周囲の魔物を巻き込みながら、ドスドスと足音を響かせ、こちらに向かってくる。
でかい。頭までの高さはおそらく10m近く。首が長くひょろりとしてそうだが、近くで見ると丸太なんかよりもよほどに太い。そして、足の太さはそれ以上。踏みつけられただけで大ダメージは避けられない。立ち回りをミスったら厳しいな。
「ギュァァアアア!」
さらに近づこうとしたところで、砂嵐恐竜が咆吼を上げた。それと同時に、奴の纏う砂嵐が影響範囲を拡大し、俺たちを飲み込もうとしてくる。
「くそ、厄介な!」
「ルゥ、やっぱり帰っていい……?」
『そしたら、ルゥルリィの出番はなしだね』
「ぬぅ……ペルの意地悪!」
……うん、緊迫感がないな。
まあ、この砂嵐はきっと【操砂術】だろう。ドレインすれば、脅威ではなくなるはずだ。




