61. 勧誘とお断り
「エメラ。そのコマタという探索者はどういう人物なんだ?」
「コマタの旦那か。悪い人じゃないけど、ちょっと変わり者だねぇ」
エメラの人物評によれば、コマタは悪辣な人物というわけではないらしい。
彼のパーティーメンバーは、全員奴隷で構成されている。シャスカの他にはヒュムとガラデンが一人、サルボが二人だ。ここまで多種族で構成されているのはなかなか珍しい。
「そもそも、異種族の奴隷を引き受けるってのが珍しい話だからね」
「そうなのか?」
「いや、なくはないんだよ。でも、五人引き受けて全員が異種族っていうのは珍しいね」
たしかにそうかもしれない。俺自身、奴隷を引き受けるとなったとき、特に理由がなければヒュムを選ぶような気がする。他種族を忌避しているわけではないが、やはり同種族の方が安心感があるからな。価値観の違いも少ないだろうし。
まあ、こうして話す限り、ガラデンもサルボも見た目ほどには習慣の違いはなさそうだが。おそらく、エルネマインの御使いたちも、その辺りのことを考慮して近い場所に転生させたのだろう。
「奴隷の扱いっていうのはどうなんだ?」
「奴隷の扱い? それは主人によるでしょ。コマタの旦那のとこのことなら、まあ普通だよ。エルネの扱いは旦那が一括してやってるけど、それ以外は割と自由みたいだしね」
ふむ。そうなると、シャスカも手酷く扱われているわけではないようだな。夜に単独行動していたくらいだし、自由を奪われているというほどではないのか。
少し気がかりなのは、首輪のことだ。聞いた話によれば、奴隷という身分を示すのはシステムカードの色くらいだったはず。それなのに、首輪を身につけることを強要しているのだとしたら、少し趣味が悪い気がする。
「あの首輪はなんなんだ?」
「ああ、あれね。ヒュムとしては気になるか。奴隷の象徴みたいな感じに思えるんだよね?」
「ということは、他の種族では必ずしもそういうわけではないのか」
「んー、ガラデンもサルボも多少はそういうところはあるよ。だけど、ピュトンはそうでもないみたいなんだよね」
なんでも、ピュトンにとって、主人や親類が首輪を渡すのは信頼の証なんだとか。少なくとも、コマタに悪意はないらしい。
「コマタという人物は悪い主人というわけではないんだな?」
「悪くはない……とは思うよ。困ったところはあるだろうけど。パーティーメンバーに黒豹のコマタと呼ばせて喜んでるらしいよ」
「な、なるほど」
もしかして、異種族の奴隷を集めているのはそれが原因か。同族だと呆れられてしまうから、とか。だが、異種族のエメラにすら呆れられているから、あまり意味はなさそうだ。
「ま、シャスカが悪い扱いを受けてるってことはないよ。安心した?」
「ああ。心配していたつもりはなかったが……まあ、安心したのかな」
この世界の仕組みとして、奴隷制度がある。正規の手順として奴隷となったのなら、俺ができることは何もない。だが、そうとわかっていても、やはり同族が奴隷として扱われることに思うところがあったのだろうな。言われてみれば、話を聞いて少し気が楽になった気がする。
「私らも最初は心配したからね。でも、あそこはうまくやってるよ」
「そうか」
コマタのパーティーにはガラデンとサルボもいる。エメラたちも今の俺と同じような気持ちを抱いたことがあるのだろうな。
「ははは。まあ、その話はそれくらいでいいだろ! エメラもジンヤももっと飲め! 食うでもいいぞ!」
話が一段落すると、イゴットが陽気な声で酒の入ったカップを掲げた。俺とエメラが話している間に、だいぶできあがっているようだ。
「アンタが私に話を振るから、飲めてないんでしょうが!」
「ああ、そうか。すまんすまん!」
エメラが睨むが、イゴットは気にした様子もない。エメラは首を振って切り替えたようだ。代わりに、自分のカップを一気に呷った。意味のない抗議よりも飲むことを選んだらしい。イゴットはそれを満足そうに見てから、今度は俺へと視線を向けた。
「おお、ジンヤ。そういえば、おまえはソロで活動してるんだよな?」
「ああ、そうだが」
「だったら、俺たちのパーティーに入らないか? 俺たちは魔法攻撃の面で弱いんだよ」
なるほど。好意的に迎えてくれたのも、それが狙いか。
ガラデンは種族的に身体能力には優れているが、魔法適性は低いらしい。イゴットたちもみな完全な物理攻撃職だ。彼らの攻撃力は、物理耐性を持つ魔物すらねじ伏せるほど圧倒的ではあるが……まあ、それはそれとして魔法攻撃の手札は確保したいのだろう。
「是非是非、お願いしますよ、ジンヤさん。魔法関連を私だけで支えるのはつらいです!」
ニーデルもイゴットに賛同した。パーティーでただ一人の魔法系統職だ。しわ寄せが、彼にいくのだろうな。そのせいか、ニーデルはかなり必死に見える。もしかしたら、この勧誘は彼からの要請なのかもしれない。
彼らはそれなりに経験を積んだベテランパーティーのようだ。今回の魔物の異常発生でもその実力の一端を垣間見ることができたが、あれが全てではないだろう。一般的な探索者パーティーというものを知るためにも、臨時パーティーを組むくらいなら構わない。
だが、正式にパーティーを組むのはなぁ。実力を抑えたまま戦うのはやはり窮屈だ。バグ職の秘密が漏れる恐れもある。何より、彼らに合わせた状態では、セプテトの要請に応えるのは難しいだろう。異常発生を止めるためにも、ガンガンと魔物を狩らないとならない。
「すまないな。俺はソロでやるのがあってるんだ」
「そうか。いや、無理にとは言わんさ」
イゴットは残念そうな表情を浮かべたが、重ねて勧誘はしてこなかった。代わりにニーデルは大いに嘆く。
「そんなぁ! 私を見捨てるんですか、ジンヤさん!」
いや、見捨てるって……。
よくわからんが、苦労しているらしい。酒くらいなら付き合うから勘弁してくれ。




