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59. 人目を気にするのは大変

 さて、どうするか。少々気が緩んでいたこともあって、今は白面をしていない。つまり、俺はアースリルからやってきたばかりの駆け出し探索者ジンヤとして活動していることになる。この状態のまま、全力戦闘をするのはまずいだろうか。


 ガラデンやサルボという異種族に人間――ヒュムの見分けはつかない可能性はある。少なくとも、ガラデンの顔を見分けろと言われても俺には無理だ。だが、身体的な特徴を加味すると、ある程度は判別できそうな気もする。


 やはり、控えめに戦っておくべきだろうな。少ないとはいえ、コークスローには俺がアースリルから出てきたばかりだと知る者もいる。そんな駆け出しがこの数の魔物に無双したら……やはり不審に思われるだろうからな。まさか、バグのせいで強くなっているとまでは思わないだろうが、変に悪目立ちするのは避けた方がいい。


 となれば、ある程度力を抑えて戦うしかない。


 襲いかかってくる石像もどきの攻撃を受け流し、粉砕しないように細心の注意を払いつつ、撫でるように反撃する。それを防いだ石像の爪が砕けた。だ、大丈夫。まだ消滅はしていない。ぎりぎりセーフだ。


 ……結構、神経を使うな、コレ。ある意味良い修行になるかもしれん。


「すまん、助かる!」

「気にするな! 協力して対応するって、取り決めになってるんだからな!」


 石像もどきの攻撃を捌いて余裕ができた……と見えるようなタイミングで無難に加勢への礼を言うと、盾を構えた大柄のガラデンが、そんな言葉を返してきた。


 取り決め? 何のことだ?


 よくはわからないが、その取り決めとやらに従って、このパーティーは俺に加勢しているらしい。


「リーダー! ソイツ、見ない顔だ。たぶん、こっちきたばっかりだよ」


 長剣を手にしたやや小柄な――と言っても、俺と同じくらいの背丈はあるが――ガラデンが言った。他のガラデンに比べると甲高い声だ。おそらく、女性なのだろう。そう思えば何となく顔立ちも柔らかい気がする。……いや、やっぱり変わらんか?


「ああ、それじゃあ、取り決めについては知らないか。まあ、詳しくはコレを凌いだあとだ!」


 返事をしたのは盾のガラデンだ。彼がリーダーらしい。


 今の会話から想像するに、取り決めというのはコークスローの探索者全員で共有しているようだ。おそらく、今のように魔物が大量発生した場合は、協力して魔物を排除するとかいう内容なのだろうな。セプテトがコークスロー周辺の創造エネルギーの湧出量が増えていると言っていたから、魔物の異常発生がすでに何度か起きているのだろう。


 助っ人パーティーの実力は高い。大量の魔物に囲まれても、うまく捌いている。盾ガラデンが引きつけ、ハンマー装備の屈強なガラデン二人が大振りの一撃で敵を粉砕するという戦術だな。ハンマー二人は攻撃の隙が大きいが、それを長剣ガラデンがうまくカバーしている。残るサルボはサポート役らしい。ときおり、法術で回復したり、補助アーツを使っている。


 さて、俺はというと、物理攻撃はやめて魔法攻撃に切り替えている。ペルフェが強力すぎて殴り攻撃では手加減が難しいのだ。


 ついでに【鉄壁の構え】スキルの新アーツ〈防御スタンス〉を使っている。発動中は被ダメを軽減する代わりに攻撃力が大きく下がるというアーツだ。本来ならば防御に専念するときに使うアーツなのだが、今は与ダメを抑えるために使っている。まさか、こんな使い方をすることになるとは思ってもいなかった。


 この状態なら、適当に魔術を放っても、それほど酷いことにはならない。たぶん、レベル相応の魔術師に見えることだろう。装備は鈍器だが。


「おい、そこの! 魔術師なら無理をするな! 俺たちの後ろに下がれ!」

「あ、ああ! すまない!」


 盾ガラデンに指摘されて、今更ながらに気付く。たしかに、魔術師が敵の真っ只中で平然と魔術を放つのはおかしいな。全然魔術師のふりができていなかった。防御面に不安がある魔術師は、普通なら前衛に守られながら戦う者だ。実際には、防御スタンスによって、防御はガチガチなんだが。たぶん、この盾ガラデンよりも硬いぞ。


 まあ、あれだ。魔法戦士だってことにしておけば、誤魔化せるだろ。きっと。


 俺はガラデンたちの後ろに下がって、サルボの隣に並んだ。そこから、状況を見て魔術を放つ。使う魔術は火魔術に限定しておこう。あまり強いアーツを使うのも怖いので〈バーストフレイム〉で様子見だ。


 魔物が押し寄せてくるのは主に前方。そのおかげで、包囲されずに済んでいる。魔術での支援もやりやすい。とにかく現れる魔物をガンガン焼いていると、神官職っぽいサルボが大きく目を見開いてこちらを見ていた。どうやら驚いているらしい。この辺の仕草はヒュムと同じようだ。


「よくマナがもちますねぇ」


 神官サルボが感心したように言う。


 しまったな。攻撃の威力については気にしていたが、マナについては気にしてなかった。少々、魔術を連発しすぎて不審に思われたか? 適当に言い訳しておこう。


「装備の効果でマナの回復が早いんだ」


 嘘ではない。幾つかの装備はマナの回復速度が上昇する特殊効果があるからな。


「そういえば、ずいぶんと良さそうな武器ですね」


 げ、墓穴を掘ったか?


 霊亀王の魔鎚は高ランクの武器だけあって、見た目も上等そうだ。というか、高レベルのアイテムは、独特の存在感があるので、鑑定せずともある程度良い武器だということがわかるんだよな。


「あ、ああ。たまたまな。たまたま、手に入ったんだ」


 苦しい。苦しすぎる言い訳だ。明らかに、俺くらいの探索者がたまたま手に入れることができるランクの武器ではない。なんとか誤魔化さなくては。そういえば【幻惑】スキルでアイテムの見た目を誤魔化せるアーツが――……


「おい、魔術師!」


 そのとき、盾ガラデンが叫んだ。なんだと思った瞬間、俺の左腕に軽い衝撃が走る。どうやら、いつの間にか格闘カンガルーが忍び寄ってきていたらしい。奴の右ストレートが、俺の体を捉えている。


 といっても、防御スタンスの効果もあってほぼノーダメージだ。何の問題もない。


 ……いや、問題あった!


 クリーンヒットもらって、微動だにしないってどういうことだよ! やばい、反応を間違えた。ここは大袈裟に声をあげて、転げ回るのが正解だったか。


 どうする? 今からでも――……


「な、なんですか、それ!?」


 今度は神官サルボが叫ぶ。何事かと思えば……地面から生えた蔦が格闘カンガルーを絡め取っていた。カンガルーは必死にもがくが逃れることはできず、少しずつ生命を削られ……消滅した。


 ルゥルリィだ。俺が攻撃されたので、反撃したのだろう。


 い、言い訳を。言い訳を考えないと!


「う、腕輪の特殊効果が発動したみたいだ! ダメージ無効と自動反撃の効果だな! 助かった!」

「よくわからんが、無事なんだな!」

「ああ!」


 めちゃくちゃ説明口調だったが、ひとまずガラデンたちはスルーしてくれたようだ。神官サルボは目を丸くしたままだが。


 とにかく、どうにかこの場を切り抜けないと!

 内心で慌てる俺とは対照的に、のんびりとしたルゥルリィの声が頭に響いた。


『腕輪じゃなくて、ルゥだよ?』


 知ってるよ!

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