58. お構いなく
石像の魔物を粉砕してしまった衝撃は大きかったが、予めわかっていれば動揺はない。向上したステータスにも慣れてきたので、ある程度なら手加減もできる。
マナドレインでの回復量も上がったことだし、マナの最大値そのものが増えたので、スキルドレインが使える回数も増えた。【看破】のおかげで無駄スキルを掴まされることもなくなったので、スキル集めはすこぶる順調だ。
新規入手で役に立ちそうなスキルは二つ。
まずは、【鉄拳】スキルだ。このスキルを確認するため、俺は白鬼長の籠手をつけて、久々の格闘スタイルで戦っている。
「よっ!」
「ギャウ!?」
石塊を纏った蜥蜴のような魔物を殴りつけた。威力は十分らしい。筋力が向上していることもあって、アーツすら使っていない通常攻撃で、石蜥蜴は動かなくなった。消滅していないところを見ると死んではいないようだが、おそらくは気絶したのだろう。
【鉄拳】スキルは、格闘……特に拳での攻撃における反動ダメージを抑え、威力を向上させるスキルだ。白鬼長の籠手の特殊効果がスキル化されたようなものだな。ペルフェが強力なので格闘攻撃をする機会は減ってきたが、それでもこのスキルがあれば十分に攻撃手段として使える。
さらに、このスキルの恩恵を受けるのは俺だけじゃない。
『あははは! ふんさ~い!』
「ルゥも!」
念動で浮き上がったペルフェが、別の石蜥蜴に攻撃する。宣言通り、一撃で粉砕だ。アーマニアの殴り攻撃には【格闘】が適用される。おそらく、【鉄拳】の効果も上乗せされるのだろう。
意外なところでは、ルゥルリィにも役に立った。【鉄拳】を取得した前後では、蔦の強度が明らかに違う。石像の化け物の切り裂き攻撃にも少しは耐えるようになったので、ルゥルリィはご満悦だ。もしかしたら、ドライアドにとって、蔦は腕の延長なのかもしれないな。
もうひとつは【操砂術】というスキル。
このスキルは、どうも【土魔術】の拡張機能らしい。【土魔術】の基本アーツは“土”属性といいつつ、ストーンバレットやバーストストーンズといった岩石をぶつけたりするタイプの攻撃が多いが、【操砂術】があれば砂を操る系統のアーツが使えるようになるらしい。
今のところ使えるのはサンドストームという砂嵐を巻き起こすアーツのみ。これが何とも使いづらそうなんだよな。
「まあ、試してみるか」
『いひひ、オッケー! 魔法補正が高くなったから、きっと魔術もうまく使えるよ!』
「ルゥも! ルゥも使う!」
「いや、まずは一人でいいから」
種族適性に問題はなかったので、【操砂術】は全員が習得済みだ。ちなみに、ドライアドであるルゥルリィは一部の魔術に関しては適性がなく習得できないが、土魔術は習得済み。まあ、自前で蔦攻撃や葉っぱの手裏剣が扱えるので、あまり魔術を使うことはないのだが。
相談の結果、ペルフェが使ってみることになった。【気配察知】を頼りに魔物を探す。ターゲットはすぐに見つかった。【鉄拳】スキルの持ち主、格闘カンガルーだ。奴もこちらを視認したのか、ダッシュで近寄ってくる。
『じゃあ、いくよ!』
「ああ」
合図のあと、ペルフェが<サンドストーム>を発動させた。砂の嵐が格闘カンガルーを中心に発生する。
だが、思いの外に効果範囲が広い。舞い上がる砂塵はみるみるうちに広がっていき、俺たちをも飲み込む。
「おい範囲……ぶふぇ!」
『ご、ごめん!』
『……ルゥ、お家にいるね』
やばい、やばい!
視界が一面、黄色がかっている。迂闊に目も開けられない。ペルフェに文句を言おうとしたら、口の中に砂が飛び込んできた。最悪だ。
ルゥルリィは要領よく宿環に戻っていった。無駄に消耗する必要はないので、賢い行動なのだが……少し恨めしい。
ペルフェはすぐにアーツの発動を止めたようだが、砂嵐はしばらく続いた。細かい砂粒が体を打ち、体力を奪う。
アーツとしては強力だ。範囲内の視界を奪い、行動を阻害する。その上、継続ダメージまで与えるのだから。だが、やはり使いづらいな。
砂嵐が止んだとき、格闘カンガルーの姿はなかった。遠くにクレアテ結晶体が転がっているので、おそらく消滅したのだろう。想像以上に、ペルフェの魔法攻撃の威力もあがっているようだ。まさか、砂嵐だけで魔物を消滅させるとは。
「だが、そうなると、防御効果の方は有効だったみたいだな」
『ああ、影響を低減するって奴?』
「そうだ」
【操砂術】には砂系統の攻撃の影響を低減する効果もあるらしい。ペルフェの発動した砂嵐に巻き込まれても、さほどダメージを受けなかったのは、スキルによる低減効果の影響もあったのだろう。アーツの使い勝手は良くないが、防御スキルとしてみればまあまあ優秀だ。所持しているだけで効果が発揮されるわけだからな。
狩り場の特徴もわかったし、有用そうなスキルは確保できた。となれば、あとはガンガンと魔物を狩るだけだ。セプテトからも要請されているからな。
さっそく、魔物寄せの香を使おう。大量の魔物が出ても、今のステータスならば余裕で対処できるはずだ。香の煙とともに、どこからともなく魔物が現れる。
さあ、戦いの始まりだ……というところで、俺は何者かの気配を感じた。これは魔物じゃないな。コークスロー側から駆け寄ってくる気配……探索者か!?
「おい、大丈夫か! 助太刀するぞ!」
現れたのは五人組のパーティーらしい。鉱石人間のガラデンが四人、サボテン人間のサルボが一人の混成パーティーだ。大量の魔物に囲まれている俺を心配してくれているのだろう。見た目からは判断できないが、なかなか人の良さそうな連中だ。
だが、どうぞお構いなくってのは……さすがに無理か?




