57. マイペースなルゥルリィ
翌朝。
早い時間から、俺はコークスローを出た。本当は街を見て回ろうと思っていたのだが、予定変更だ。サブ職業の設定でどれくらい能力が上がったのか、試してみたい。
向かった先は西側の山岳地帯。アースリルの南の山岳地帯から繋がっているが、途中にある急峻な山々が行き来を阻んでいるらしい。
『スキル♪ スキル♪ いいスキルはないかな~♪』
「ルゥ、お花のスキル、欲しい!」
「まあ、落ち着け」
新しい魔物と戦えるとあって、ペルフェとルゥルリィはウキウキだ。まあ、俺も人のことは言えないのだが。ステータスが約二倍……いったい、どうなることやら。
戦いの前に、まずは準備だ。実はペルフェを別の武器に移し替えようと思っている。というのも、コークスロー周辺には斬撃や刺突に強い魔物が多い。剣では有効打が与えにくいのだ。俺は魔法を使えばいいが、それだとペルフェが不満に思うだろう。
「というわけで、ペルフェにはこっちに移って貰う」
『むぅ。まあ、しょうがないか』
渋々といった様子で応じるペルフェ。存在値が分散するので、好ましくないと思っているようだ。
だが、魔物によって使い分けることを考えれば、複数の武器種で存在値を蓄積しておくのは悪くないことだと思う。それに、乗り換え先はかなり強力な武器だ。ペルフェも気に入るに違いない。
【霊亀王の魔鎚】〈アーマニア:ペルフェ〉
◆分類◆
武器・鈍器(槌)
アーマニア
◆攻撃性能◆
物理補正:A 魔法補正:B
◆特殊効果◆
使用者の魔力に依存した無属性の魔法ダメージを追加で与える
あらゆるダメージを僅かに軽減する
生命とマナの自然回復速度が少し上昇する
『おぉぉ、すごい! これはすごいよ、ジンヤ!』
案の定、ペルフェはテンションが上がっている。清浄の青刃も良い武器だが、それに比べてもかなり強力だからな。
アースリルでハリソンを借金地獄に落としたとき、俺はいくつかの装備を接収している。貴族級の探索者の装備品だけあって、かなりの良品揃いだった。その中でも一際強力なのが、この鎚だったのだ。
「ペル、強くなった?」
『そうだよ! すごく強くなったよ!』
「良かったね!」
『うん!』
ルゥルリィとペルフェが仲良く話している。ペルフェはルゥルリィを子分にするというようなことを言っていたが、今の二人の関係は仲の良い友達のような感じだ。多少はライバル心みたいなものがあるかもしれないが、関係は良好と言っていいだろう。
「それじゃあ、魔物を探すぞ」
『よーし、僕の強さをみせてやるぞー!』
「ルゥも!」
お喋りを切り上げて、探索を始める。この辺りは、大きな岩がゴロゴロと転がっているので、視界が悪い。物陰に隠れている魔物から奇襲を受けないように、気をつけながら歩いていると、不意に魔物の気配を感じた。
「……なんだ? 地中に何か潜んでいるのか?」
目を凝らしてみるが、特に不審なところはない。普通の地面だ。だが、たしかにそこから何者かの気配を感じる。今までならば決して気付くことはなかっただろう。おそらくは新たに習得した職業スキル【気配察知】のおかげだ。
『どうする?』
「近づいてみるしかないな」
ペルフェに問われるが、地中に攻撃する手段がないので、無視するのでなければ近づくしかない。先制攻撃を取れないのは惜しいが、不意打ちされないだけで十分だ。
慎重に歩みを進め……魔物まであと数歩というところで、地面が隆起した。いや、違う。魔物が飛び出てきたのだ。
「キギギギ!」
姿を現したのは、化け物を模した石像だ。それとも、石像の化け物と言うべきか。体長は俺とほとんど変わらない。二足歩行で、鋭い爪がある。不意打ちに失敗したあとは、後退してこちらの様子を窺っているようだ。
「いくぞ、ペルフェ!」
『了解!』
「ルゥ、止めるね!」
俺はペルフェを握りしめて駆ける。ルゥルリィはその場で、蔦による拘束を試みるようだ。
だが、拘束は上手くいかない。奴は意外にも素早い動きで躱すと、追い縋るような動きをみせる蔦を爪で切り裂いた。
「うぅ!」
ルゥルリィが悔しげな声を上げる。だが、その行動が無駄であったかといえば、そうではない。蔦から逃れるために、石像の注意が俺から一瞬逸れた。
僅かな隙。だが、それで十分だった。サブ職業バグのおかげで強化された俺は自分でも驚くほどのスピードで石像へと迫る。
「ペルフェ!」
『強打!』
振りかぶっていた鎚を思いっきり石像の横腹へと打ち付けた。同時にペルフェが【格闘】スキルの〈強打〉を発動。ペルフェが発動した場合、打撃には効果が乗るはずなので、ダメージがいくらか加算されるはずだ。
石像はまともに避けることもかなわず、無防備な腹に強烈な一撃を受けることになった。その結果……バンという激しい破裂音とともに上半分が吹き飛ぶ。
「はっ……?」
『うわぁ!?』
一瞬、何が起きたのかわからなかった。石像の残骸が光の粒に変わるのを見て、ようやく状況を理解する。今の一撃で、魔物を粉砕したのだと。
「や、やばいな……ステータスが上がりすぎたか?」
『僕が強くなり過ぎちゃったのかも!』
「ああ、それもあったか」
二倍近くになった筋力に、【近接攻撃+++】という職業特性、ペルフェの強化。それに、もしかしたら石像の魔物は打撃が弱点だったのかもしれない。それらが複合的に影響したことで予想以上の破壊力になったのだろう。
と、まあ、冷静になれば理由はなんとなくわかるのだが、あまりに予想外だったので少し動揺してしまった。そんな俺を余所にルゥルリィが残念そうに呟く。
「スキル、盗めなかったね……」
ああ、うん。
ルゥルリィ、お前、マイペースだな。




