55. セプテトの余計な悪戯
サブクラスシステム。それが、セプテトの開発している新システムらしい。
「サブクラスというからにはメインの戦闘職業に加えて、サブの戦闘職業を設定できるってことでいいのか?」
尋ねると、セプテトは大袈裟な仕草で頷く。
「その通りだよ。メリットとしては、サブ職業のクラス特性が利用できる点だね」
クラス特性というのは、各戦闘職業に設定されている特性のことだな。俺のバグ盗賊ならば、【盗賊技能+】【魔術技能+】【特殊技能:盗む】【特殊技能:幻惑】がそれにあたる。例えば戦士をサブ職業に設定すれば上記に加えて【近接戦闘+++】が追加されるわけだ。
「もし、メインとサブを同じ戦闘職業にしたらどうなる?」
「特性が強化されるね。といっても、強化率はそれほどでもないから、効率がいいとはいえないけど」
なるほど、特化型にすることもできるらしい。けれど、セプテトの言い方から判断すると、単純に効果が二倍になるなんてことはないようだ。【盗賊技能+】をふたつ重ねると【盗賊技能++】になるくらいだろうか。いや、そもそも“+”の数が増えると、どれだけ効果が強化されるのかもわかってないんだがな。
だが、わずかでも強化されるのなら一考の価値はある。【盗む】スキルなんて、今のままでも十分にチートだ。これが強化されたら――……
「あ、君の職業をサブにも設定するのは無理だよ。そこはちゃんと修正するから!」
「そうか……」
俺の妄想は口に出す前に否定されてしまった。まあ、元々イレギュラーな戦闘職業だ。本来ならばメイン職業にも設定できないのだから、高望みしても仕方があるまい。……非常に残念だが。
「レベルやステータスはどうなるんだ?」
「そのままだね。ステータスの成長傾向は、サブ職業の影響を受けるようになってるけど」
「影響? どんな影響だ?」
「サブ職業の成長傾向に従って、ステータスが若干上乗せされる形だよ」
つまり、サブ職業を設定した状態でレベルアップすると、その成長特性に応じた加算値が得られるということだな。そういうことなら、絶対にサブ職業は設定しておきたいところだ。
だが、この仕組みでは低レベルのうちからサブ職業を設定した方が断然有利だ。そうなると、高レベル探索者から苦情が入るんじゃないか?
指摘すると、セプテトは眉根を寄せて唸った。
「うーん、そうかな?」
「そりゃあな」
少なくともゲームなら非難囂々だろう。いや、エルネマインの探索者だって、嫌がるはずだ。高レベル探索者は借金なんてとうの昔に返し終えているはず。にもかかわらず、高レベルになるまで狩りを続けるってことは、生活がどうのというより探索者としての活動を楽しんでいるのだろう。ほぼ廃ゲーマーみたいなものだ。そんな探索者たちが、僅かな差だったとしてもステータスで不利になる状況に不満を抱かないはずがない。
力説してやると、セプテトは顔を青くして天を仰いだ。
「そんな。高レベル探索者を怒らすのはまずいよ。もし、彼らがストライキでもしたら、しかもそれが僕のせいだとなったら……」
高レベルになるほどエネルギー採掘の貢献度は高いのだ。それが一斉にストライキをしたとなると、責任問題となるのは免れないだろうな。
仕方がないので助け船を出してやる。せっかくのサブクラスシステムが不採用になるのは面白くないし、俺自身すでにレベルアップした分の加算値が得られないのは不服だからな。
「サブ職を設定したときに、ステータスを再計算して不足分を加算するのは無理なのか?」
「無理っていうか、ステータスを上昇させるにはエネルギーが必要なんだよ。サブクラス設定にもエルネは必要になるんだけど、高レベル探索者のステータスの再計算なんかしたら、それとは比べものにならないほどのエルネが必要になるんだ!」
「といっても、高レベル探索者なら稼ぐのは難しくないんだろ?」
「そりゃあね。でも、余計なエルネが必要になるんだよ? 不満に思うんじゃない?」
たしかに、レベル1からサブ職業を設定していれば、再計算で余計なエルネを消費せずに済むわけだからな。多少は不満に思うかもしれない。
だが、ゲーム内通貨は無限リソース。時間をかければ確実に稼げるのだ。もちろん、エルネマインはゲームではないのだが、金銭面に関していえば感覚はゲームとさほど変わらない。ステータスで不利になる状況に比べれば格段に不満は少ないはずだ。少なくともストライキが起こるほどではないと予想される。
そう説得すると、セプテトは納得したらしい。それは良かったのだが。
「そういうことなら、サブ職業設定のときに、エルネを消費してステータスを再計算するように修正するよ。ちょっと待ってて」
と、その場で修正作業を始めた。急な仕様変更……高確率でバグが起こるやつである。
「おい、急ぎじゃないなら、もっと落ち着いて考えた方が……」
「大丈夫! 大丈夫だって!」
なんと当てにならない“大丈夫”だろうか。だが、奴がやるというのなら、俺にできることはないのだ。
不安を抱きつつも修正を見守っていると、数分後にセプテトの作業が終わった。かつてのデバッグ作業を考えると、比べものにならないほどの作業スピードだ。余計に不安になる。
「これで大丈夫! さあ、君のシステムカードを貸して」
「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな……」
「まあ、バグがあったらすぐに修正するから! 大丈夫だから!」
もはや、“大丈夫”と連呼するほどに不安が募るのだが、それでもサブ職業に魅力には抗えない。俺は不安と期待の入り交じったよくわからない心持ちでシステムカードをセプテトに差し出した。ニヤニヤと笑いながら、セプテトがそれを操作する。
「はい、これでいいよ。システムカードにサブクラスの項目を追加しておいたから、操作してみて」
「ああ……」
システムカードを操作してみれば、たしかに“サブクラス”というタブが追加されている。
「じゃあ、あとで感想を聞かせてよ。僕は忙しいから帰るね!」
バグがあったら修正すると言っておきながら、セプテトはすでに帰り支度を始めていた。その顔には相変わらずニヤニヤと悪戯な笑みが浮かんでいる。
「そうそう。サブクラスのお試し版は、設定できる戦闘職業が特殊になってるけど、それはバグじゃないからね!」
「あっ、おい!」
「ばいば~い!」
そう言い残して、セプテトは空間の歪みに飛び込んでいった。
「なんなんだ、いったい……」
不審に思いつつも、システムカードの操作を続ける。サブ職業を選ぶ画面になって、奴のニヤニヤ顔の理由が判明した。
そこに表示された戦闘職業は五つ。
◆ セプテトの配下の戦士 ◆ ☆
◆ セプテトに仕える密偵 ◆ ☆
◆ セプテトの忠実な騎士 ◆ ☆☆
◆ セプテトに従う魔術師 ◆ ☆☆
◆ セプテトを崇める神官 ◆ ☆☆
特殊な戦闘職業って、こういうことか。アイツ、絶対に遊んでいるな。
こういういらないことをするから、バグがなくならないんだよ!




