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53. 寄り道をしていたばかりに

「ちょっと、張り切りすぎたか」


 魔物狩りに夢中になっていると、周囲はいつの間にか闇に覆われていた。おかしい。ちょっと、この辺りの魔物の強さを確かめてみようと思っていただけなのに。


 周囲の草むらが邪魔なので、風魔術の〈ウインドカッターⅡ〉でごっそりと刈り取ったのがいけなかったのだろうか。あれで、周囲に潜んでいた魔物たちが一気に押し寄せてきたからな。


 少し焦ったが、太刀打ちできないなんてことはなかった。むしろ、大した強さじゃなくて拍子抜けしたくらいだ。まあ、ゲートを越えたからといって、魔物が突然強くなるわけでもないということだな。アースリル周辺の魔物には余裕で対処できるようになっていたから、それより少し強い程度なら、俺たちの敵ではないのだ。


 まあ、それで調子に乗って魔物寄せの香を使ったのは失敗だった。控えるべきだとはわかってはいたのだが、ついつい気分が良くなって、魔物狩りに勤しんでしまった。明るいうちにコークスローまで辿り着く予定だったのになぁ。


『真っ暗になっちゃったね。人間は暗いと先が見えなくなるんじゃない?』

「スキルがあるから見えなくはないが……まあ、明かりくらいつけておくか」


 アースリルでの一件で不良探索者から奪ったスキルに【暗視】がある。暗闇の中でもある程度の視覚が確保できるようになるスキルだ。とはいえ、昼間と同じようにとはいかない。ただ歩くだけなら不自由はしないが、戦闘になると心許(こころもと)なかった。


 それに、明かりもつけずに歩いていると、怪しい人物だと判断される可能性がある。そろそろコークスローは近いはずだ。一応、気にしておいた方がいいだろう。


 そんなわけで、インベントリからランタンを取り出して、魔法で火をつけた。それを左手で掲げながら歩く。手が塞がるので戦闘を考えればあまり良い方法とは言えないが、辺りを照らすにはやはり手で持った方が便利だ。


 さすがに街へと急いだ方がいいな。魔物との遭遇を減らすために、まずは街道に出る。そのまましばらく歩いたところで、道の向こうから明かりが近づいてくることに気がついた。


 自分のことは棚に上げるが、こんな時間帯に街から離れて街道を行く存在がまともであるはずがない。自ずと警戒心が湧き上がってくる。


 俺は、小声でペルフェに尋ねた。


「ペルフェ、何が近づいてきているかわかるか?」

『ん? 人間だよ』

「人数は?」

『隠れてなければ一人だね』


 アーマニアの視界は暗闇の影響を受けにくい。そもそも、どうやって周囲を見ているのかが謎なのだが……ともかく、ペルフェには、道の向こうからやってくる存在が視認できているようだ。


「こんな時間に一人? 酔狂にも程があるな」

『ジンヤは人のこと言えないと思うけど』

「……そう言えばそうだな」


 ペルフェやルゥルリィがいるので一人という感覚はなかったが、客観的に見れば俺も酔狂な探索者だった。やはり、日が暮れはじめてからの魔物寄せの香は控えた方が良さそうだな。いや、そもそも魔物寄せの香を使っている時点で手遅れの可能性もあるが……。


 そんな風に反省したり、諦めたりと内心で忙しくしているうちに、酔狂な探索者がやってきたらしい。まだはっきりとは姿が見えないが、おそらく10mほどの場所で足を止めた。


「待ち伏せとは感心しないわねぇ。アタシに何か用?」


 聞こえてきたのはやや低いが女性の声だ。


 それはともかく、重大な誤解がある。暗闇で女性を待ち伏せとか、相当ヤバい奴じゃないか!


「おい、待て! 待ち伏せじゃない! 向こうから歩いてきただけだ」

「あら、そうなの? さっきから止まっていたように思えたけど」

「それは……警戒してたんだ!」


 実際、相手がどんな人物かわからないので、様子を見ていたという側面はある。まさか、そのせいで待ち伏せをする不審者と判断されるとは予想していなかった。


 幸いなことに、女性も本気で言っていたわけではないようだ。とりあえず、待ち伏せ男という不名誉な扱いは避けることができた。


「ふぅん。向こうからってことは、アナタ、ルーキーね。駄目よ、こんな遅くに一人で街道を行くなんて」


 警戒を解いたのか、女性が少し距離を詰めてくる。お互いの明かりで、ようやくその姿をはっきりと見ることができた。


 短めの銀髪で、女性としては少し背が高い方だ。スラリとした体格で、溌剌として生命力に溢れた人物に思える。格好は軽戦士風と言えば良いだろうか。革鎧を身に纏っているが、それ以外の防具は最低限。メインウエポンは細身の剣のようだ。素早く動くことに特化した戦士職といった印象である。


 目を引くのは、首元のチョーカー。ファッションアイテムというには、無骨で浮いている。


 まあ、仕方がないことではあるんだが。店で買うならともかく、宝箱から手に入るアイテムは見た目なんて選べない。性能が良ければ、多少見た目が悪くても使うことになる。ファントムの白面も、客観的に見ると趣味が悪いと思われているだろうからな。


「そういうアンタだって、一人で出歩いているだろ」

「アンタじゃなくて、シャスカ。アタシは平気よ。コークスローでの活動はそれなりに長いもの。この辺りの魔物に遅れをとることはないわ」


 それはそうなんだろうが。危険を冒して街を出てきたにしては、緊張感がない。アースリル方面にどんな用事があるのかと気になるところだが……この様子ならただの散歩だとか言いそうだな。


「俺はジンヤだ。俺の方も問題ない。少なくともこの辺りの魔物はソロでも倒せる」

「ふぅん。結構、腕は立つのね。でも、もうちょっと利口になった方がいいわよ?」


 そう言って、シャスカは笑った。嫌な感じはしないが、からかわれている気配がする。よくわからずに首を捻ると、シャスカは笑みをさらに深めて――言った。


「あのね、コークスローの正門は、もう閉め切られているわよ?」


 ……マジか!

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