52. 新たな都市へ
アースリルはエルネマインのとある大陸の南西に位置する都市だ。他の都市に向かうには、北東に位置するゲートを越える必要がある。ゲートとは言うが、出入りは自由だ。初心者エリアとそれ以外を分けるための境界という意味合いしかない。
ゲートを越えた先の推奨レベルは20くらい。平民階級にあがったころにアースリルを発つのが妥当なレベルらしい。
ちなみに、俺もついに借金を完済して平民階級だ。システムカードも自動的に更新されて白色になった。その気になれば貴族階級の男爵にはなれるが……今のところ、あまりメリットが見いだせないので見送っている。意味もなく貴族になったところで、税金が増えるだけだからな。
『ええと、次の目的地はこっち?』
ゲートを越えたところで、腰に下げた剣――ペルフェがひとりでに浮き上がって、剣先を南東へと向けた。
「ああ、そうだぞ」
ここから近い都市は幾つかあるが、俺は南東のコークスローを目指す方針だ。といっても、俺の望みというよりはセプテトからの指示……というかお願いである。ハリソンへの対処では協力してもらったので、借りを返す必要があった。
口約束なので無視することもできるが……今後を考えると得策ではない。セプテトは若干ポンコツなところがあるが、それでも御使いという立場は強力だ。敵に回せばおそらく厄介で、味方にできれば有益である……はず。協力関係はできるだけ維持しておきたい。
そんなわけで、俺たちはコークスローを目指す。道なりに進めば迷うこともないのだが、それでは面白くない。せっかくの新天地なのだから、魔物とも戦ってみたいところだ。ハリソンから奪ったスキルの性能も確認したいからな。
というわけで、少し街道から外れた場所を歩いた。この辺りは平原で、ぽつぽつとまばらに木が生えている。黄色く背の高い草が生い茂り、視界は悪い。魔物が潜伏するには都合が良さそうな地形だった。
『ますた! 敵、いるよ!』
ドライアドの宿環からルゥルリィの警告の声が発せられる。魔物らしいのだが、俺にはその姿を見つけられない。
「どこにいる? 数は?」
『一匹。蔦、攻撃していい?』
「ああ、いいぞ」
許可を出すと、少し離れた場所をルゥルリィの操る蔦が貫いた。それに合わせて、草むらがガサリと揺れる。
「そこか。なんだ? カメレオンか?」
ルゥルリィの蔦は避けられてしまったが、潜んでいた何者かを炙り出すことには成功したようだ。敵の体色は黄褐色。周囲の草むらに溶け込むように、潜んでいたらしい。今は目で追えているが、油断するとまた見失ってしまいそうだ。
さっさと倒してしまった方が、面倒はないのだが、相手は初めて遭遇した魔物だ。まずは、やることがある。
「さあ、スキルチェックだ!」
カメレオンを視界に入れた状態で【看破】スキルのアーツ〈スキル看破〉を発動する。ハリソンから頂いた便利スキルだ。
看破は成功。俺の脳内に、カメレオンが所持しているスキルが浮かび上がった。
【擬態】【魔避役の舌撃】【水魔術】【飛びかかり】【登攀】
すぐに、ペルフェが興味津々といった様子で聞いてくる。
『どう、いいスキルはあった?』
「微妙だな」
『え~、残念!』
【登攀】はあれば便利かもしれない。が、戦闘向けではないな。少なくともペルフェは興味がないだろう。あと気になるのは【擬態】くらいだ。こちらは、俺が習得できないか、習得できたとしても弱体化する気がする。ペルフェとルゥルリィはどうだろうな。まあ、いくつか確保しておくか。
「ペルフェ、ルゥルリィ。拘束してくれ!」
『りょうか~い!』
『あい!』
カメレオンは結構素早い。だが、ペルフェとルゥルリィの連携はなかなかのものだ。二人が協力して追い込むことで、カメレオンを逃すことなく拘束することができた。
「よし、よくやった。さっそく、スキルドレインだ」
『さくっと盗って、次に行こうよ!』
「ああ、すぐ終わらせる」
さて、スキルドレインだが、【看破】スキルを得たおかげで、かなり便利になった。なんと〈スキル看破〉を使った相手を対象とすると、奪うスキルを指定することができるのだ。これで、いらないスキルを奪ってしまってガッカリすることもない。不要スキルもエルネに換金できるとはいえ、すでに金には困ってないからな。
ハリソンから奪ったスキルの恩恵は他にもある。【看破】と並んで便利なのが、【消費マナ軽減】だ。その名の通り、アーツの消費マナを抑える効果がある。アーツが使えるようになったりはしないが、常時発動なので非常に便利だ。しかも、レベル42という高レベルなので、軽減率もなかなかのもの。30%以上軽減されるので、スキルドレインみたいにマナ消費が大きいアーツを使う場合には特にありがたく感じる。
というわけで、スキルドレインを二度使うことで、【登攀】と【擬態】を効率よく奪うことができた。
ついでにマナドレインでマナを回復。回復量は、使ったマナの30%程度だな。
「よし、もういいぞ」
『オッケー! じゃあ、刻んじゃうよ!』
「ルゥも叩く!」
スキルも盗ったし、カメレオンは用済みだ。俺が手を下すまでもなく、ペルフェたちが張り切って始末してくれる。ルゥルリィに至っては、わざわざ宿環から現れてからぺしぺしと叩いているな。なかなか好戦的になったものだ。まったく、誰に似たのやら。
ほどなくして、カメレオンは消滅。クレアテ結晶体だけが残った。初心者エリアを脱したとはいえ、一匹ではこんなものか。




