51. アースリルからの旅立ち
あれから、数日。
ハリソンは金策に奔走したが、奴に手を貸す者は皆無だった。大量にいた奴の手下も、同じだ。連中は手のひらを返すかのように、ハリソンとの関わりを断った。
まあ、無理もない話だ。俺に装備を剥ぎ取られた上に、レベルダウンの影響で覇気もない。そんな奴が鬼気迫る表情で金を集めているのだ。ハリソンが落ち目であることは、誰がどう見ても明らかだった。
手下連中からすれば、貴族でなくなるハリソンに用はない。 “自分たちには関係ない”ということだろう。
とはいえ、だ。奴らがそう思うのは勝手だが、ハリソンの後ろ盾で好き放題していたという事実は消えない。ここ数日で連中にも天罰が下ったという噂だ。なんでも、レベルが激減して、幾つかのスキルが消えたらしい。おお、怖い怖い。
まあ、それはともかく。ハリソンの金策は難航した。手下どもには頼れない。隠し資産も、売却すれば決済システムの履歴でバレる。低レベルで、装備もスキルもなしでは、狩りもままならない。
結局、奴は俺への借金を返済できないまま、税の支払日を迎え、奴隷に落ちた。
平民階級ならば、奴隷を所持することができるが、奴を引き取ろうとする者は誰もいなかった。奴に恨みを持つ人間も含めて誰一人、だ。理由は単純。奴が莫大な借金を抱えて奴隷になったからだ。
奴隷を引き取る場合、主人となる人間は、奴隷の税の支払い、および、借金の引き受けが必要となる。税の支払いはともかく、ハリソンの借金はまだ数億エルネも残っていた。少なくとも、アースリル周辺で活動する探索者にどうこうできる額ではない。
唯一、引き受け可能なのは債主である俺だが……低レベルでスキルもないおっさんの主人になってもいいことはないので、当然ながら受け取り拒否だ。
引き受け手がない奴隷は、御使いの預かりになるらしい。何でも、ユイットという御使いが引受人になったという話だ。
「せっかく、僕の手勢にしようと思ったのに! 職業システム担当のアンタに、手勢なんて必要ないでしょ、だって! ユイットのやつぅ~!」
セプテトにそんな愚痴を聞かされた。どうも、御使い同士でも、あまり仲が良いというわけではないらしいな。
ともあれ、アースリルには平和が訪れた。ほとんどの時間を狩り場で過ごしていた俺には実感がなかったが、ハリソンらの横暴な振る舞いは街に住む者たちを鬱屈とさせていたようだ。ハリソンがいなくなり、無法者たちも大人しくなったことで、街の雰囲気は俺にもわかるくらいに明るくなった。
そんなアースリルでは、とある噂がまことしやかに囁かれている。曰く、“ハリソンたちはファントムに裁かれた。彼は御使いの関係者である”と。
ハルヨシさんたちにはそんな風に説明したし、ある意味では事実でもある。特に否定する必要もないが、ファントムとしてアースリルで活動するのは少し難しい……というか面倒になってきたのは事実だ。
だから、俺はアースリルを去ることにした。
例の対策会議を開いたメンバーには、旅立つ直前に別れを告げてある。出立の日、彼らは俺を見送ってくれた。
「今まで本当にありがとうございました」
「ジンヤさん。あなたがいなければ、俺はまだ牢獄の中か、奴隷になっていたと思う。本当にありがとう」
アイリとキョウヤはそう言ってくれた。他の面々も、それぞれに感謝やお別れの言葉を口にしてくれる。チートアーツのこともあって、探索者から距離を置くつもりだったのに、こんな風に言ってもらえる関係を築けるとは想像もしていなかった。そう思うと感慨深いものがあるな。
「俺がやりたいことをやりたいようにやっただけだから気にしなくていいさ。俺にとってもメリットはあったしな」
ニヤリと笑顔を返すと、彼らの顔に苦笑いが浮かんだ。
俺がファントムであること、ハリソンに転移させられたあとのこと。それらについては明言はしていない。薄々察してはいるだろうが、彼らは俺に問い質すことはなかった。俺の正体に触れるつもりはないと、態度で示しているのだろう。
『疾風爪牙』と『精霊の守護者』はまた一緒に活動することにしたようだ。コルネリアも含めて、六人パーティーとなる。コルネリアは「本当はファントムさんとの繋がりをもつために潜り込んだつもりだったんですけどね~」と言っていたが、離れる気はないようだ。一緒に行動しているうちに情が湧いたのだろう。面倒見は悪くないらしい。
「今度は仲良くな。困ったらコルネリアを頼れ。意外と強かな奴だから、頼りにはなるだろう」
「強かって、どういうことですか~! それ、褒めてるんですか~?」
「んー……微妙だな」
「はぁ。まあ、いいですけど~」
コウヘイ、キョウヤが少しやんちゃをしていたが、今では落ち着いている。リョウトとアイリはしっかりしているし、レイナも精霊と契約を結んでからは元気だ。まだまだ人生経験が足りないが、それはコルネリアがフォローしてくれるだろう。
「ジンヤ君。僕たちも、もうしばらくしたら、アースリルを発つよ。また、どこかで会うかもしれないね」
ハルヨシさんも旅立ちを決めているらしい。彼は平民階級になっている。ということは、おそらくレベルも20ほど。アースリル周辺では物足りないということだろう。
「はい。またどこかで」
エルネマインは広い。だけど、探索者を続けている限り、再会する機会はあるはずだ。もちろん、アイリたちとも。




