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46. 不気味に光る目

 乱暴な闖入者の出現に、俺たちは身構えた。ステータスのおかげか、壁の瓦礫によって、大きな傷を負った者はいないようだ。壊された壁とは逆側に固まって、ハリソンと対峙する。


 ハリソンはアースリルの住人の中では年嵩の部類だ。エルネマインに20代前半の肉体で転生したとするならば、おそらくは20年以上はこちらで過ごしていることになる。つまり、それだけの経験を積んだ猛者であるということに他ならない。人の形はしているが、その覇気は今まで対面したどんな魔物よりも鮮烈に感じられた。


 仕立ての良さそうなコートを纏い、短杖を手にしたその姿は、格好だけみれば地球の貴族を彷彿とさせる。だが、奴はあくまで探索者。それらも、探索者としての武具に過ぎない。


 奴はアースリルに住み着いて以降、狩り場に顔を出すようなこともないので、戦闘スタイルを知ることはできなかった。が、短杖を持つことから判断すれば魔法職だろうか。


 ハリソンの印象が強烈すぎて気付くのが遅れたが、壊れた壁の向こうには他にも三人の男が立っていた。キョウヤを陥れた奴ら、ルドルフ、ジョウジ、ヴィハーンの三人組だ。


 なるほど。奴らがキョウヤの解放条件を大幅に緩めたのは、尾行して俺たちの居所を探るためか。


 本来ならば、賠償金を軽減してまで、そんなことをする理由はない。キョウヤの協力者が誰であれ、奴らにとっては金さえ手に入れば良いのだから。


 となると、これはハリソンからの要請ということになるだろう。実際、三人組は落ち着かない様子で、すぐにでもこの場を去りたそうにしている。


「そ、それでは俺たちは、この辺で……」

「あぁん? まあ、いいか。案内ご苦労だったな」


 ハリソンの言葉にホッとする様子の三人。だが、奴らが立ち去る前に、ハリソンが追加で言葉を投げかけた。


「ああ、ちょっと待て。ヴィハーン。お前が盗られたってスキルは強撃だったか?」

「は、はい。そうです」

「そうか。もう行っていいぞ」


 今度こそ、三人組はそそくさと去って行く。関わり合いになりたくないと言わんばかりの態度だ。アイツらこそが当事者のはずなのだが、すでに主導権はハリソンが握っているらしい。


 できることならハリソンと直接対峙するような事態は避けたかったのだが、行動に出るのが少し遅かったようだ。


 それにしても、手下の揉め事にハリソンが直接動くとは予想外だった。奴にとって手下たちは金を集めるための手駒にすぎない。信頼関係のようなものは皆無だ。それだけに、あのルドルフとかいう探索者連中が騒いだところで、ハリソンがその話を真に受けることはないと思っていたのだ。


「こんなことをして、ただで済むと思っているのか! 貴族階級とは言え、ここまですれば衛兵隊がお前を捕らえるだろう」


 激昂したハルヨシさんが、ハリソンを糾弾する。だが、奴はうるさい羽虫でも見るかのような表情で一瞥したあと、軽い口調で言った。


「壁のことなら、あとで補償するとでも言やぁどうとでもなるさ。別に、俺はお前たちをどうしようってわけでもない。用事があるのは、ファントムって奴だけだ」


 ハリソンの瞳にギラリと強い光が宿る。


「どういう手段か知らねえが、奴はスキルを消すことができるみたいじゃねえか。手下どもがどんな目に遭おうが俺の知ったことじゃねえが、俺が標的にされちゃあ堪らねえからな」


 どうやら、奴はファントムの標的とされる前に先手を打とうと思い立ったらしい。近日中にお邪魔するつもりだったので、適切な判断だと言わざるを得ない。俺にとっては残念な話だが。



「ここにファントムはいない。無駄足だったな!」

「それを判断するのは俺だ。ちょっと黙ってろ」


 なおも言い募るハルヨシさん。それに苛立ったハリソンが、短杖を軽く振った。その瞬間、空気を切り裂くような音が響く。同時に、ハルヨシさんの体が吹き飛んだ。


「ぐ……!」

「ハルヨシさん!?」

「ああ、騒ぐな騒ぐな。言ったろ、用があるのはファントムだけだ。衛兵連中が面倒だからちゃんと加減してる」


 ハルヨシさんは苦しそうにしているものの、目立った傷もない。ハリソンの言うとおり、先程の攻撃は手加減されていたのだろう。


 一瞬の……それも無造作な一撃で、ハルヨシさんが動けなくなるほどの攻撃を放った。しかも、手加減をしてそれだ。ハリソンの実力は隔絶していると言わざるを得ない。


「まあ、大人しくしてな。そうすりゃあ、無駄に怪我をせずに済む」


 ハリソンはそう言うと、俺たち一人ひとりを睨みつけていく。そのたびに、奴の目が怪しく光った。おそらく、何らかのアーツを発動しているのだろう。


 嫌な予感がする。だが、ここで奴の目を引くような行動もできない。そんなことをすれば、俺がファントムであると言っているようなものだ。


 どうすることもできずにいると、ついにハリソンの目が俺を捉えた。


「ほぅ……。この【盗む】ってのは怪しいよな? それに【強撃】まで持ってるとなりゃ間違いねえな。お前がファントムだな?」


 青白く光る目のまま、ハリソンがニヤリと笑う。

 【強撃】だけならハッタリの可能性はあるが、【盗む】にまで言及するとなれば、間違いない。奴は人のスキルを盗み見る手段を持っている。


 そんな方法があるのなら、言っておけよ、セプテト!



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