45. 和やかな雰囲気と吹き飛ぶ壁
キョウヤが解放されたという話を聞いた翌日、俺たちはいつもの場所に集まった。クズ探索者対策会議に利用している営業前の酒場だ。集まったのはいつものメンバー。俺と『疾風爪牙』、『精霊の守護者』、そしてハルヨシさんである。
「俺のために、力を貸してもらって、ありがとうございました」
集まって早々、キョウヤが頭を下げた。二週間囚われの身だったが、そのわりには元気そうだ。食事はきちんと出ていたそうだし、運動せずともステータスは低下しない。そのおかげだろうか。面会も許可されているので、定期的に学生組が顔を出していた。精神面でもそれほど疲弊せずに済んだのだろう。
衛兵隊はそのあたり寛容……というか興味なさげだった。あくまで仕事として指示されていることをやっているだけという印象だ。
「いや、僕たちも奴らには恨みがあるからね。同じ被害者として、できる範囲で協力しただけだよ」
「それでも、ありがとうございます。俺が解放されるにあたって、いくつかの素材を提供していただいたと聞いていますから」
どうして、急にキョウヤが解放されたのか。それは謎だったが、だからといって無条件ではなかったらしい。100万エルネと現状で集まったドロップ素材で手を打つという打診が、向こうからあったそうだ。打診を受けたコウヘイとリュウトが、すぐに連絡が取れた『精霊の守護者』に相談して、奴らの申し出を受けることになったというわけだ。キョウヤが礼を言っているのは、ドロップ素材の提供についてのことだ。
「あはは……僕らに関しては本当に気にしなくてもいいよ。むしろ、貴重なアイテムを譲って貰ったのにそれほど役に立てていないからね」
ハルヨシさんは謙遜しているが、当然ながら役に立っていないなんてことはない。どうやら、俺が提供したスキル結晶体の価値を高く見積もっているようだ。特に、魔術スキルの結晶体には驚いていた。
剣術スキルなんかは適当に剣を振っていれば、いつの間にかスキルを習得しているなんてことも多い。一方で、魔術スキルはそれが難しいのだ。なにせ、スキルがなければアーツが使えないのだから。
そんな事情から、魔術スキルはキャラメイク時を別にすると、習得機会が限られる。だが、スキル結晶体ならば使うだけで習得できてしまうのだ。ハルヨシさんたちにとっては、とても便利なアイテムに見えるらしい。
俺にとっては、ゴウルの魔術師からいくらでも奪えるアイテムだ。あまり貴重なものという印象はないが、まあ恩に感じてくれる分には問題ないか。
「アンタも……いや、ジンヤさんも、本当にありがとうございます。俺のために色々と力を尽くしてくれたと」
キョウヤはそういって俺にも頭を下げた。その態度には全く不真面目さを感じない。初対面のころとは凄い変わり様だ。まあ、あの当時こそ、舞い上がって普通じゃない状態だったのかもしれないが。
「気にしなくていいよ、キョウヤ君。一緒に、パーティーを組んだ仲じゃないか」
「え、ええ……」
軽い口調で返したら、微妙な表情をされてしまった。彼が負担を感じないように配慮したつもりだったのだが、何か外してしまっただろうか。
首を傾げると、キョウヤは苦笑いを浮かべて言った。
「ジンヤさん。俺のことはキョウヤでいいですよ。話し方も普通で。それが素というわけじゃないですよね?」
「え? ああ、うん、そうだけど。なんでわかったの?」
「時々、素が出てますよ」
「……え、本当に!?」
驚いて他のメンバーを見回せば、ほとんどがキョウヤと同じような苦笑いを浮かべている。ピンときていないのはハルヨシさんくらいのものだった。
「モンスターと戦っているときなんかは素が出てるよね」
「気付いてなかったんだね」
アイリとレイナがおかしそうに話している。どうやら、戦闘時に余裕がなくなると、素が出てしまうようだ。そう言われてみると、そうだった気もする。一応、元学生の彼らを怖がらせないように丁寧に接しようと思っていたのだが、あまり意味がなかったのかもしれない。
結局、『疾風爪牙』と『精霊の守護者』の面々とは、崩した言葉で話すように約束させられてしまった。それ自体は俺も構わないのだが。
「おや、僕には同じように話してくれないのかい?」
「あ、いや、ハルヨシさんは先輩ですからね。どうしてもというなら改めますが、こちらの方が自然な感じですね」
「そうなのかい。いや、無理に変える必要はないんだけど」
そう言いつつ、ハルヨシさんは不思議そうに視線を外した。その先にいるのはコルネリアだ。
そう言えば、ハルヨシさんとコルネリアは同期転生者だったか。それならば、コルネリアにも丁寧に話した方が自然ではある。
ただ、どうも、コルネリアについては、先輩という感じがしないんだよな。ハンマーを振り回して暴走するヤバい奴という印象が強すぎて。
「彼女にはあまり敬意を感じないので……」
「な、なんでですか~! それは聞き捨てならないですよ~! 敬語で話す必要はないですけど、ソレとコレとは別です!」
「……そういえば、ネルとジンヤさんって、ちょっと距離が近いような。時々目で通じ合ってるときがあるよね?」
「なんか怪しい……?」
「いや、怪しくないからな!」
「またまた~。コルネリアさんとの仲じゃないですか~」
キョウヤが解放されたことで、みんなの雰囲気も良い。だが、そんな和やかさも、今、このときまでだった。
突然の轟音と衝撃。何事かと思う暇もなく、横合いから飛来物が体を打つ。どうやら、近くの壁が粉砕されて、その破片が飛んできたらしい。そして――……
「こんなところでコソコソと隠れていやがったか。なるほどなぁ」
壊れた壁を踏み越えて、男が現れる。ソイツは、面識がない……だが、よく知った男だった。
ハリソン・バーグレイ。例の貴族探索者だ。




