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42. 寝不足の狩り準備

 アースリルの南側。山岳地帯の奥地にあたるこの場所は、アースリル周辺で最も手強い魔物が出現する地域だ。レベル20を越えてアースリルでは上位の実力者となった俺でも、ソロで活動するなら油断できる場所ではない……のだが。


「眠い……」


 戦闘の合間に、大きな欠伸と一緒に出てきた言葉は、そんなものだった。ここのところ、昼間はがむしゃらなレベル上げ、夜間はクズ探索者のお仕置きと忙しい。そのせいで、睡眠時間が削られているのだ。


 だが、問題ない。俺には頼れる仲間がいるからな。


『大丈夫、ジンヤ? 人間はもっと寝た方がいいんじゃない?』

「あい。眠る花、使う?」


 俺を心配してくれるのはペルフェとルゥルリィだ。欠伸する程度に気を緩めていられるのは二人のおかげである。


 ルゥルリィは片言であるが、エルネマインの共通語を話せるようになった。もともと、こちらの言葉を理解していたからこその習熟速度だろう。ちなみに、俺はまだ精霊言語をさっぱり理解できていない。


 ちなみに、眠る花というのは、ルゥルリィが使うアーツだ。誘眠作用のある花を咲かせる状態異常攻撃で、不眠に悩む人たちには救いの手となるだろう。まあ、俺には必要ないが。今ならベッドで横になるだけで、すぐに寝付けると思う。


「ま、今夜はゆっくりと休むとするか。下っ端の処罰はかなり進んだからな」


 ここ数日、夜な夜な、不届き者たちの部屋に忍び込んでドレインを繰り返すという作業を続けてきたが、ようやく一段落がついた。初日はマナ不足で手間取ったが、翌日以降はマナ回復薬を利用したので大幅に効率アップした。一つ5000エルネという価格は本来なら大きな負担となるが、ドレイン効率には代えられない。というか、レベルドレインのおかげでエルネは異常なほど手に入るので大した負担ではない。


 クズ探索者のひとり、ヴィハーンを相手にレベルドレインを使った結果、最初に得られたクレアテ結晶体の価値は80万エルネだった。二回目のドレインでは72万エルネ。恐ろしいほどの金策効率である。


 こうなると道行く人に片っ端からレベルドレインを仕掛けたくなるが……無論、そんな無法なことはしない。魔物相手でも十分に稼げるし、大勢の人に恨まれるなんてまっぴら御免だ。これからも、人間相手にレベルドレインとスキルドレインを使うのは控えよう。なお、クズは人間の範疇に含めないものとする。


 クレアテ結晶体の価値が奪った経験値に比例しているとすれば、奪い取った経験値の量は簡単に計算できる。一度のドレインで奪える経験値は総量の10%だ。かなりの奪取率に思えるが、レベルおよびステータスの低下に関していえば実は然程でもなかった。これはセプテトにヴィハーンのステータスを確認してもらった結果なので間違いない。


 レベルドレインを20回使えば、総経験値はドレイン前の13%ほどまで落ちるが、レベルとステータスに関しては80%程度維持されている。レベルが上がるほど次のレベルアップに必要な経験値は増えていくから、比率が一致しないことはわかっていたが、思った以上に乖離が激しい。


 今までに獲得した経験値の9割近くが失われるのだから、嫌がらせとしては悪くない。だが、戦力低下という点に関してはいまいちだ。


 なので、代わりにスキルをごっそりと頂くことにした。レベルはそこそこ残っているので戦えはするだろうが、スキルなしでは苦労することだろう。頑張って欲しい。


 さて、そんなわけでスキル結晶体がごっそりと溜まっている。本格的に狩りをはじめる前に、それらを使っていこう。


「二人は何か欲しいスキルがあるか?」

『はい! 僕は念動が欲しい! 念動はないの?』

「念動はないな。種族適性で弱体化するから、本来、人間が習得するスキルじゃないんじゃないか?」

『なんだぁ。ちぇ……』


 ペルフェが熱望したのは【念動】スキル。すでに俺もペルフェも習得済みだが、強化できるならその機会を逃したくはないということだろう。何しろベテラン探索者から奪ったスキル結晶体だ。スキルレベルが高いからな。


 このスキルは少し離れた場所にある物ならば、手を触れずに動かすことができる。例えば、剣を浮かせて動かすなんてこともできるわけだ。これが、戦闘に役に立つかといえば、かなり微妙だ。まず、念動を発動させつつ、別の行動を取るのが難しい。しかも、遠くに飛ばせば効果範囲から外れて制御できなくなる。


 だが、ペルフェが使えば別だ。種族適性による弱体化がないせいか、俺よりも操作精度が高い。しかも、動かすのは長剣である自身の体だ。対象が自身であるので効果範囲から外れることはない。今では、俺の手を離れ、敵を切り裂いて戻ってくるなんてこともできる。念動を使っている間は俺のマナが消費されるので長時間は無理だが。


「ますた。これ」

「ん? 鞭スキルか」

「うん。蔦」


 ルゥルリィが欲しがったのは【鞭】スキルだ。精霊が武器なんて使うのか、と思ったが、どうやら彼女が扱う蔦を鞭代わりにするつもりらしい。


「使えるのか」

「うん」


 頷くルゥルリィに結晶体を渡してやると、ニコリと笑う。


「見てて」

「ああ」


 結晶体を使ったルゥルリィは、その効果を見せてくれるようだ。彼女が両手を掲げると、それに呼応するように二本の蔦が地面からニュルリと顔を出す。そして、彼女が腕を振るうと、それに従い蔦が地を打った。バチリと大きな音が響く。見れば地面が僅かに穿たれていた。通常の攻撃ではあり得ない威力だ。


「おお、アーツか! やるじゃないか!」

「できる!」


 よくやったと褒めると、ルゥルリィが得意げに胸を反らした。ご機嫌な様子を表しているのか、地面から生えた蔦がゆらゆらと揺れている。ネコの尻尾のようだ。


『ぼ、僕だって、パワーアップするんだからね!』

「わかったわかった」


 子分であるルゥルリィに遅れを取るまいと、ペルフェがアピールしてくる。それを聞き流しながら、俺自身も役に立ちそうなスキルを見繕う。とりあえず、ひとつずつ試してみるか。本格的な狩りはそのあとになりそうだな。

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