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41. 翌日のヴィハーン

◇ヴィハーン視点◇


 目覚めは最悪だった。なんとなく体が怠い。こんなときは大抵、深酒が原因なのだが、昨日はそれほど飲んでいないはずだ。少なくとも二日酔いになるほどには。


 そういえば、昨晩は悪夢を見たような。ぼんやりとしか覚えていないが、仮面の男と軽薄そうな男が俺を囲んでケラケラと笑っていたような……。


 いや、夢の話はどうでもいい。それよりも、早く準備を整えないとルドルフたちにうるさく言われる。


 男爵級探索者ハリソン。奴の傘下に入ったおかげで好き放題できるようになったが、それでもエルネの問題はつきまとう。ハリソンの野郎が莫大な上納金を要求するからだ。馬鹿な探索者を騙して金を奪い取るのは楽しいが、確実性には欠ける。そうそうカモになる奴が見つかるわけでもないからな。


 となれば、定期的にモンスターをしばいてエルネを稼がなきゃならない。探索者として活動して十年近いから慣れたものだ。今となってはアースリル周辺の魔物なら命の危険を感じることすらない。


 モンスターを蹂躙するだけで金が稼げるのだ。悪くは無い。だが、やはり一番の楽しみは、俺たちにカモられた新人探索者が絶望する顔を見ることだ。アレに勝る娯楽はないな。


 ルドルフたちと合流してから向かう先は、ウォルザードンの荒野。ウォルザードン――巨大なトカゲの化け物が闊歩する地獄みたいな場所だ。初めてこの場所に来たときは死にかけた。あれはまだ、まともに探索者をやっていたころだ。


「よーし、サクサク狩ろうぜ! ま、一人頭5匹くらいで十分だろ」

「馬鹿な探索者を嵌めてやったからな。どうせ5000万エルネなんざ集められねえだろうが、100万エルネくらいで期限の延長を仄めかせば長く絞れるんじゃねえか?」


 ルドルフとジョウジに気負った様子はない。それも当然だ。ウォルザードンが強敵だったのはかつての話。今の俺たちなら、余裕をもって倒せる。


 正直、アースリル周辺は俺たちにとって格下の狩り場だ。本来ならば、適正な狩り場を目指して拠点を移す。実際、俺たちと同時期に転生してきた奴らは、そうやって街から去って行った。


 連中の頭の中じゃ、この世界はゲームと変わらない。レベルが上がれば、狩り場を移してさらに高いレベルを目指す。その繰り返しだ。それを楽しめるというのなら、それはそれで幸せな話だろう。ある意味で羨ましい限りだ。


 だが、俺たちは奴らほど、このエルネマイン(ゲーム)にハマれなかった。借金を返済し終えた時点で、必死になってエルネを稼ぐ必要もない。適当に狩れば税金の支払いくらい余裕でできる。上を目指すつもりがなければ、アースリルでの生活は気楽だ。なにせ、いびって遊べる新人探索者(おもちゃ)には事欠かない。


「おい、ヴィー。どうした?」

「あ、いや、すまん。少しボウッとしていた」

「なんだ、不調か? しっかりしろよ」


 珍しく昔のことを振り返っていたら、ルドルフが声をかけてきた。言葉は心配しているようにも聞こえるが、その顔はニヤニヤと笑っている。普段と違う俺を面白がっているようだ。


「いつまで遊んでんだ。来るぞ?」

「お、ちょうど三匹だ。一人一匹な」

「わかった」


 そうこうしているうちに、ウォルザードンが三匹、突撃してきた。その中の一匹が俺の獲物だ。


 手にした大斧がいつもよりも重く感じられる。が、強引に振り抜いた。大斧は化け物トカゲの頭に直撃し、ガツンという衝撃で手がしびれる。やはり、どうにも調子が出ない。普段なら、ここから連撃で一気に仕留めるのだが、少し体勢が崩れて追撃ができなかった。


 仕方がない。本来なら使うまでもないのだが、アーツを使おう。コイツらみたいな硬めの相手には〈岩石砕き〉が有効だ。


 大斧を振りかぶって、アーツの発動を念じながら、ウォルザードンの頭に振り下ろす。しかし――――何故かアーツが発動しなかった。


「なっ!?」


 これが今日の初戦闘。状態異常にはかかっていないはずだ。いったい、なぜ?


 動揺のせいで、大きな隙を作ってしまった。その隙を逃すことなく、ウォルザードンが強烈な体当たりをしてくる。


「ぐはっ!?」


 避けることは叶わず、まともにそれを食らった俺は、大きく吹き飛ばされてしまった。体中に痛みが走る。いつもより大きくダメージを受けたようだ。


「おいおい、大丈夫か?」

「なんだぁ? 俺たちが代わってやろうか?」


 すでに自分たちの獲物を仕留めたのであろう。ルドルフとジョウジがからかうように言ってくる。冗談のつもりなのだろうが、俺にはそれに応じる余裕がなかった。


「そうだな、頼む。今日は調子が悪い」


 そう言い捨てて、俺は逃げるようにその場を去った。いや、逃げるようにではなく、逃げたのだ。


「あ、おい! なんだ、アイツ?」

「さあな。まあ放っておけよ」


 ジョウジとルドルフが毒づくのを背中に聞きながら、俺はアースリルへと戻った。とにかく、何かがおかしい。まずは自分の状態を把握しなくてはならない。帰って早々、俺は宿屋へと引っ込んだ。




「何だ、これは……。どうなっている」


 まずはと確認したステータス。それが恐ろしいことになっていた。


「レベルが下がっている、だと。なぜ……?」


 エルネマインでは一度身につけたステータスが失われることはない。モンスターの攻撃やスキルの影響で下がることもあるが、あくまで一時的なものだ。ステータス画面の数値が減少するなんていう現象は耳にしたことがない。


 だというのに、俺のレベルは下がっている。25だったレベルが20にまで。


 しかも、スキルまでもが幾つか失われている。こちらはレベルダウンどころの話ではない。存在そのものが消失している。さっきの戦闘で〈岩石砕き〉が発動しなかったのもスキルが消えたせいだろう。


 何が起こっているのかわからなかった。誰かに相談したいところだが、そんな相手はいない。ルドルフ、ジョウジとはパーティーを組んでいるが、とても信頼できるはずがなかった。むしろ、奴らに知られることはできるだけ避けなければ。


 俺はアイツらがどんな人間かよく知っている。弱みを見せれば、今度は俺が奴らの標的になるだけだ。それだけは確信を持って言える。なぜなら、逆の立場なら俺がそうするからだ。


 とにかく、なんとかしなければ……。



◆◇◆



 謎のレベルダウンに動揺するヴィハーン。だが、対策などできるはずもなく、数日後にはさらにレベルが下がるという悲劇に見舞われる。彼は、パーティーメンバーであるルドルフとジョウジに弱みを見せまいと必死に取り繕っていたが、正直にいえばその努力はあまり意味がないものだった。何故なら、他の二人も少し遅れて同じ目にあっており、他人のことを気にする余裕がなかったからだ。



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