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226/227

226. 全力で二発

 死の迷宮。


 高難度のダンジョンだけあって、魔物も手強い。数多の探索者を阻んできたというのも納得である。恐るべきはその耐久力だろう。


――ギャヒィアアア!


 怖気を誘う咆哮とともに襲いかかってきたのは黒い影。漆黒の体を持つ人型の魔物だ。その姿はさながら悪魔のよう。ナイフよりも鋭い爪でこちらを引き裂かんとしてくる。


 素早い動きだが、正面からなら対処のしようもある。その攻撃をギリギリで避けると、俺は手にした槍でなぎ払う。槍が黒い悪魔を強かに打ちつけると同時に、薄暗い迷宮に閃光が迸った。この槍――轟雷槍の固有アーツ〈召雷〉だ。


 使い慣れない武器だが、【武芸百般】のおかげで扱いに不安はない。アーツまで発動させた全力攻撃である。並の魔物なら、消滅するほどの大ダメージを与えたであろう。


 だが――……


――ガァアア!


 黒い悪魔は怯みもしない。怒りにまかせて、そのまま俺へと襲いかかってくる。


 改めて思う。さすがは推奨レベルが60を越える迷宮だ。そこらの雑魚魔物すら俺の全力攻撃に耐えるとは。


 まあ、二度は耐えられないんだが。


「ほいよっと」


 芸も無く正面から突っ込んでくるので、タイミングを合わせて槍を突き入れる。槍は黒い悪魔の体を貫き、大穴をあけた。


――ギィヒヒ……


 黒い悪魔はなおも突っ込んでこようとするが、意気込みはともかく生命力が続かなかった。弱々しい叫び声とともに、その存在は光となり消えていく。あとに残るのは、ころんと転がったクレアテ結晶体のみだ。


 うん。まあ、確実に他の迷宮の魔物より強いのはわかるが……苦戦する相手ではなさそうだ。俺以外のメンバーも同じ魔物を相手しているが、危なげなく対処している。実際、すぐに決着がついた。


「おかしい……おかしいでしょ。ダースビルの群れが瞬殺なんて……私たちの苦労はなんだったの……」


 ペルフェが何やらぶつくさ言っているのが少しだけウザいが、放っておこう。どうやら、かつてはあの黒い悪魔に苦戦させられたらしい。まあ、その当人も戦闘中は易々と撃破していたのだが……それでもなかなか現実を受け入れられないようだ。


「同じの、ばっかり」

「わふぅ」


 ルゥルリィとフェリルが不満そうにしている。俺としても同じ気持ちだ。迷宮探索を始めてから数度目の戦闘だが、襲ってくるのは黒い悪魔ばかり。コイツ、あんまりスキルが美味しくないんだよな。


 盗めるスキルは格闘、爪術、闇魔術、凶暴化の四種類。このうち、格闘と爪術は武芸百般に、闇魔術は全魔術に統合されるので習得する意味が無い。せいぜい、幾つかストックしておくくらいだろうか。残る一つもマイナス要素があって微妙なスキルだった。



【凶暴化】

物理攻撃の威力が上昇する

痛覚ペナルティを無視して行動することができるようになる

理性が薄れ、破壊衝動に支配される



 物理攻撃の上昇と痛覚ペナルティ無視は強い。が、最後の一文で台無しだ。これが精神状態異常なら対処のしようもあるんだが……どうなんだろうな? これまでの記載と違うので、状態異常とは別扱いな気がする。スキルドレインで着脱可能とはいえ、迂闊に習得した結果、理性を無くして大暴走となれば被害は甚大だ。


 もし試すなら、俺たち以外の誰かにすべきだろう。まあ、そこまでする気もないので、このスキルはお蔵入りだな。


「最初の階層にはダースビルしか出ないよ。特攻してくるヤツばかりじゃないけどね」


 気を取り直したペルフェから解説が入る。


 なんでも、黒い悪魔――ダースビルという名前らしい――には、行動パターンが異なる別タイプがいるのだとか。さっきから何度か倒しているのは特攻タイプ。【凶暴化】の影響だろうが、探索者を見つけ次第襲いかかってくる。長期化すると騒ぎを聞きつけてどんどん寄ってくるので、消耗を気にせず強力なアーツで押し切るのがセオリーらしい。


 もう一つのタイプは奇襲タイプ。物陰に潜んで、近づいてきた獲物に襲いかかってくる。まあ、潜伏していても、斥候職がいれば察知はできるらしいので、潜伏からの奇襲はさほど脅威ではない。厄介なのは、特攻タイプと交戦中に忍び寄ってくるところだ。戦いの最中は気配察知が疎かになるので、場合によっては致命的な場面で奇襲を受ける可能性があるのだとか。


「いずれにせよ、特攻タイプの撃退に手間取ると、戦況が悪くなっていくわけか」

「そうだよ。パーティの最大火力が試される最初の難敵……のはずなんだけどねぇ」


 ペルフェがやるせなさそうに息を吐く。


 確かに、俺たちにとっては難敵というほどではないな。準備運動レベルとは言わないが、ほんの小手試しのつもりで戦っても1分とかからず殲滅できる。特攻タイプも奇襲タイプも駆けつける暇がないので、それで戦闘終了だ。


「まあ、苦戦するよりはいいだろ。とりあえず奇襲タイプとも戦っておくか」

「……そうだね。まあ、そっちは奇襲されなければ特攻タイプよりも弱いから苦戦することもないと思うけど」


 その後、奇襲タイプとも戦ってみたが、確かに特攻タイプよりも歯応えがなかった。まあ、持ち味を活かせなければ、こんなものだろう。スキルに関しては高レベルの【潜伏】と【奇襲】を持っていたので、特攻タイプよりは旨味がある。とはいえ、探し出してまで戦いたい相手でもないか。


 この階層に留まる理由はあまりなさそうだ。次に進むか。

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