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227. 十階層踏破RTA

 黒い悪魔と戦った感触から判断すると、俺たちの強さは死の迷宮でも充分に通用しそうだ。死の迷宮は深層に向かうにつれて魔物が手強くなっていくらしいが、しばらくは無双できるだろう。


 というわけで、まずは魔物狩りよりも深層に進むことを優先することにした。もちろん、途中で遭遇した魔物は容赦なく殲滅だ。正直、敵が強くなっているかどうかはまるでわからない。誤差レベルな気がする。


「さて、十階層だ。ようやくだな」

「いや、あのね。初めて潜って半日足らずで十階層まで踏破するって本当に非常識だからね……」


 ペルフェが呆れた……というか少し疲れた様子で呟く。まあ、ツッコミ疲れだろう。かつての経験とのギャップに何度も「おかしい、おかしい」とぼやいていたからな。だが、もうお前もこっち側だぞ。そろそろ現実を受け入れればいいと思うんだが。


 とはいえ、確かに、この迷宮をまともに踏破しようと思ったら時間がかかりそうだ。


 まず、とにかく各階層がやたらと広い。当然、下層への階段を探すのは時間がかかる。低難度の迷宮なら地図が出回っているが、死の迷宮レベルになればそれもないらしい。


 そして、強力な魔物。俺たちにとってはさほどではなくとも、ベテラン探索者でも苦戦するほどの強敵だ。しかも、わらわらと群がってくる。最初の階層の黒い悪魔ほどじゃないが、続く階層でも遭遇率は高かった。おそらく出現ペースが速いのだ。


 ペルフェの話によれば、普通は新たな階層を探索するのに下手をすれば数ヶ月を費やすらしい。当然だが、都度迷宮に出入りしていれば探索は遅々として進まない。そのため、危険を冒して迷宮で野営をするのだとか。


 かなり無謀な気がするが、御使い公認の店には安全に野営するための道具が販売されているらしい。ただし、びっくりするくらい高い。いや、ただのキャンプ用品と思うからそう思うだけで、それで安全が買えるのなら安いのだろうが。


 ちなみに、俺は何の用意もしていない。なぜなら、その話をペルフェから聞いたのは迷宮探索を始めたあとだったからだ。ハティのことで動揺していて、忘れていたらしい。


 俺がもっと気を回すべきだったのだろうが……まあ、過ぎたことを気にしても仕方あるまい。大事なのは、反省して次に活かすことだ。キャンプ用品は道具屋で買える。よし、覚えた。


 準備不足に気がついたのは、迷宮に入ってすぐの頃だ。引き返して準備を整えるという選択肢もあった……が、面倒なので力業で解決することにした。ささっと行ってささっと帰ってくれば野営なんて不要だからな。


 そこで役に立ったのは薄闇の戦場跡で編み出したミスト探索だ。探索範囲が膨大になったので消耗も激しくなったが、そこは工夫次第でどうにかなる。ミストを前方扇状に噴射することで探索範囲を分割することにしたのだ。もし階段が見つからなければ、魔物からマナを奪い再度試す。何度かやれば階段が見つかるので、あとはそこまで一直線に走るだけだ。道中の魔物はルゥルリィとフェリルが張り切って倒すので全く問題なかった。


「ま、早い分には問題ないだろ。あえて野営したいとは思わないしな」

「ルゥは、平気だよ?」

「わふっ!」


 ルゥルリィとフェリルは問題ないとアピールする。まあ、お前らはそうだろうな。宿環に戻ればいいのだし。


 そもそも精霊には睡眠が必要ないらしいので、実のところ、俺たちに野営のリスクはほとんどない。俺以外の誰かに見張りを頼めば、魔物に不意打ちされることもないはずだ。


 とはいえ、好き好んでやりたいものではないので、避けられるならば避ける。寝るときくらいはゆっくり過ごしたいからな。これ以上潜るならさすがに考えなければならないが、幸いなことに、俺たちの目的はこの十階層である。


「ここにハティがいるのか?」

「それは、わからないよ。でも、心当たりがあるとすれば……この階層くらいだから」


 死の迷宮は広大だ。仮にハティが迷宮に潜っていたとしても、闇雲に探しても遭遇できる可能性はほぼないだろう。せめてアイツがいる階層が特定できないと、探しようがなかった。それくらいなら、迷宮の入り口で張り込みでもした方が良い。


 だが、ペルフェがもしかしたらというので、ここまでやってきたのだ。十階層。それは、かつてペルフェが命を落とした場所らしい。


「ねえ、ジンヤ。チェルの件、ハティが関わっていると思う?」


 ペルフェが小さな声で聞いてくる。


 ハティはトロイスの配下だ。アルブリアではキメラを作ってけしかけてきた。それだけに、チェルがキメラの素材にされた件にも関与が疑われる。御使いバーハの実験に正体不明の人物が同行していたという話があるしな。


 だが、その正体不明の人物がハティに結びつくかと言えば疑問が残る。人々の記憶に己の存在を残さない方法があるのなら、目撃証言がギルドに残るとも思えない。無論、あえてそうしたという可能性も否定できないが。


「まあ、本人を問いただしてみるしかないだろう」

「……そうだね」


 ヤツが黒幕なら、今回のキメラ騒動についての情報が得られるかも知れないが……ペルフェの心情を思えば無関係である方が望ましい。なかなか難しいところだ。

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