221. 茶番劇のち、分離完了
システムカードのコール機能を使うと、いつも通りに空間が揺らぎ、セプテトが転移してきた。今日はユイットもいるようだ。それはいいんだが……コイツら、何をやってるんだ?
簡潔に説明すると、一人がもう一人を組み敷いている状態だ。ちなみに、組み敷かれている方がセプテトである。
……もしかして、あまりよくないタイミングで呼び出しただろうか?
いや、コール機能はあくまで呼び鈴のようなもの。転移に関してはセプテト自身の能力であるはず。都合が悪ければ、呼び出しに応じる必要はない。となれば、問題はないのだろう。状況はまるでわからないが。
「お前ら、何してるんだ?」
「ああ、ジンヤ、助けてよ! ユイットに襲われてるんだ!」
救いを求めるかのようにセプテトが俺に向けて手を伸ばす。それをユイットがペシリと払った。
「人聞きが悪いことを言わないで欲しいわ。ちょっとコレをつけて欲しいって言ってるだけじゃない」
ユイットの手にあるのは……猫耳カチューシャ、だろうか。
察するに、ユイットはアレをセプテトにつけようとしたが拒否されて揉み合いになった、ってところだろうな。何をやってるんだ、コイツらは。
「くだらない痴話喧嘩はあとにしてくれ」
「くだらないとは心外ね。重要なことなのよ」
「いや、痴話喧嘩じゃないから。もちろん、全然重要でもないよ。ユイットの言葉は聞き流していいからね。で、用事は何かな?」
セプテトはこれ幸いと話に乗ってくるが、ユイットは不服そうだ。一応、そちらもケアしておくか。
「ユイット。それをつけるなら、セプテトが作業してるときにしろ。ソイツ、没頭すると周囲のことが気にならなくなるタイプだろ」
「ふぅ、仕方がないわね。恥じらう兄様も見たかったのだけど、それで妥協するわ」
「ちょっと!? とんでもない入れ知恵しないでよ!」
セプテトの抗議は適当に聞き流す。猫耳カチューシャをつけるくらいなら協力してやればいいだろうに。まあ、俺は御免被るが。
まったく。おかしな登場をするから、変に時間を取られてしまった。
まあ、平常運転といえば平常運転だ。御使いたちの奇行は今に始まったわけじゃない。ペルフェは平然としているし、ルゥルリィとフェリルは雪遊びをしている。
とはいえ、慣れている者ばかりではない。
「え……あ……どなた?」
謎の茶番劇を見せられ、フェイラが戸惑っている。まあ、口止めまでして呼び出した存在がこれじゃあな。
「ん? 君はマフェーリアかな。それにしてはやけに大きいけど」
「本人以外も入ってるみたいよ、兄様。他人を家に上げるなんて、珍しいわね」
セプテトとユイットは物珍しそうにフェイラを見ている。というか、あの全身鎧はやっぱり家扱いなのか。
「はぁ。それで、あの……?」
「ああ、僕らが何者かって話だったね――」
フェイラの戸惑いの視線を受けて、セプテトが重々しく頷く。直後、その背後から神々しい光が放たれた。あれは、おそらく、スキル【後光】の効果だろう。わざわざ使ったらしい。
「僕はセプテトだ。そして、彼女がユイット。僕らは御使いだよ」
「み、御使い!? 失礼しました! 喋りませんから! ここで見たことは絶対に喋りませんから!」
「あれ? 何か思ってた反応と違うなぁ」
「だ、大丈夫です! 絶対に秘密は守りますから!」
セプテトの名乗りを聞いたフェイラがガタガタと巨大な体を揺らす。おそらく、平伏そうとしているのだろう。全身鎧が定員オーバーの状態で、うまく身動きがとれないようだ。
「ねぇ、ジンヤ。キミ、いったい、彼女に何をしたの? この怯え方は普通じゃないよ」
「別に。ちょっとした約束をしただけだ。あの反応は後光のせいだろ?」
後光は使用者に対する畏怖の感情を増幅するスキルらしいからな。発動した上で御使いと名乗れば、それなりに畏れを抱くはずだ。まあ、さっきの茶番劇を見てなお、これほどの効果があるとは驚きだが。
まだすっきりしないのか、セプテトは首を傾げている。
「これ、僕たちってより、キミに怯えているような気がするんだけど」
「何でだよ。スキルを使ったのはお前だろ」
「うーん。もしかして、効果範囲の設定をミスしたかな?」
おい、何やら不穏な呟きが聞こえたぞ。仕様外の動作ってことならバグじゃないか。
フェイラの反応がスキルのバグによるものかどうか。気にはなるが、ひとまずは保留としておこう。悠長に検証している場合じゃないからな。
「とりあえず、喋らないって言うなら問題ないだろ。それよりも、お前に頼みたいのは後ろのヤツだ」
「んん? ああ……合成獣か。あのピュトンの子を切り離せばいいんだね?」
「そうだ。無理矢理素材にされたみたいだが……どうにかできそうか?」
「それは大丈夫だと思うよ」
セプテトが軽い調子で頷く。それをユイットが咎めた。
「兄様、油断してはダメよ。前回はそれで危うい目にあったのでしょう?」
「ああ、そうだったね。まあ、魔物の頭は潰れているし問題ないと思うけど」
そう言えば、イェードを合成獣から引っこ抜いたときは分離した魔物が襲いかかってきたんだったか。ゴウルの頭は三つとも潰れたままなので、襲いかかってくるような元気もなさそうだが……まあ、用心しておくべきか。
遊んでいたルゥルリィとフェリルに声をかけ、分離に備える。セプテトが手のひらを向けると、横倒しになった巨人ゴウルの体が光に包まれた。
「これでよし。魔物の方は……ダメージに耐えられなかったみたいだね」
どうやら心配は杞憂に終わったらしい。セプテトの言うとおり、光が消えたあと残ったのは、気を失ったチェルだけだ。ゴウルのパーツも分離したが、存在したのは一瞬だけ。すぐに光の粒となって消滅した。おそらく、生命力が枯渇したのだろう。
これで最悪な事態は避けられた。チェルは生きてるし、ヒィトたちも無事らしい。
だが、これで一件落着とはいかないよな。チェルが被害者なら犯人は誰だ。怪しいのはバーハだが……まあ、まずはセプテトたちに相談してみるか。




