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220. 巨人ゴウルを無力化する

 冗談はさておき。


 チェルは自らの意志でキメラになったのだろうか。答えはわからないが、俺にはどうも違うように思える。根拠となるのはヤツの様相。瞳の輝きが失われているせいか、理性があるようには感じられない。望んでなった結果だとしたら、あまりにお粗末だ。


“ゲ……ガ……グゲ……”


 そして、このうめき声。全く意味を成していない。


 同じキメラでも、アルブリアでシルバーブリザードのリーダーだったイェードとは大違いだ。自らの意志でキメラになったからか、ヤツは正気を保っていた。


 やはり、あのときとはキメラとなった経緯が異なるのではないか。頭によぎるのは、御使いバーハがやっていたという実験だ。


 まさか、アイツ、キメラを作る実験をしてたんじゃないだろうな……?


 まあ、この巨人ゴウルが実験の産物にしろ、そうでないにしろ、まともな状態ではなさそうだ。こうして対面しているというのに、チェルを生やした巨人ゴウルはゆらゆらと体を動かすばかりで、何をしてくるでもない。とはいえ、辺り一面の雪景色を作り出したのがコイツなら、油断はできないが。


「フェリル、近くに、何者かの気配はあるか?」

「わふっ!」


 どこかにバーハが潜んでいるのではないか。そう思って聞いてみたが……フェリルの様子から判断すると、潜んでいるヤツはいないようだな。まあ、隠れているのが御使いなら、フェリルにも察知できない方法で見ている可能性もあるが。


「とりあえず、本当にチェルの意識がないか確かめてみるか」

「どうやって?」


 ペルフェが聞いてくるが……こんなものに特別な方法は必要ないだろ。


「おい、ポンコツ職員! また、サボりか? キメラになってる暇があるなら、ちゃんと働け! そんなだから、いつまで経っても奴隷から解放されないんだろ!」


 巨人ゴウルから生えているチェルに向けて説教をする。反応は……ない。あいかわらず、意味不明なうめき声を上げているだけだ。


 やはり、意識はないか。あれば、アイツが大人しく聞き流すとは思えない。


「ひどい確かめ方だけど……でも、あの様子なら意識がないのは確かみたいだね」

「そうだな」


 ひどいと言いつつ、ペルフェも確認手段の有効性は認めているようだ。


 本人の意識がない以上、現時点でチェルが自らの意志でああなったかどうか確認する術はない。とりあえず、被害者と見て対応した方がいいだろうな。そうなると、あまり無茶はできないか。


「ますた、どうするの?」


 ルゥルリィがこくんと小首を傾げる。


「無力化を目指す。攻撃するなら、チェル以外だ。とりあえずゴウルの頭を潰してみるか」

「あい!」


 方針を決めて、戦闘態勢に入る。しかし、それが巨人ゴウルを刺激してしまったようだ。


“ガァアアア!”


 ゴウルの頭三つとチェル。それらが同時に吠えた。突如巻き起こる烈風。激しい嵐が吹き荒れる。


「きゃあああ!?」


 巻き込まれたフェイラが悲鳴を上げた。魔術の範囲が広すぎる。多少、注意を引いたところでどうしようもないぞ、これは。


「大丈夫! こっちは僕がどうにかするから!」

「わかった、頼む!」


 ペルフェはフェイラを守ることにしたようだ。石壁のようなものを作って、風を遮っている。まあ、あっちはペルフェに任せておけば大丈夫だろう。


 さて、こちらはこちらの仕事をしよう。風の刃が体を切り裂くが、ダメージは軽微だ。短時間なら無視できる。


「えい!」


 掛け声とともにルゥルリィが魔術を放った。得意の蔦攻撃だが、全魔術の影響か、かなり強化されているようだ。凍り付いた地面を貫いて、やたらと太い蔦が現れた。人間の胴回りよりも遙かに太い蔦が巨人ゴウルの足を絡め取り、一気に引っ張る。


“ゲェハッ!”


 バランスを崩した巨人ゴウルが派手に転倒した。集中が途切れたのか、暴風もピタリとやむ。


 一方、こちらの攻撃は止まらない。続くのはフェリルだ。


「わふ!」


 軽い吠え声とは裏腹に、放たれた魔術は強力だ。生み出したのは三つの巨大な氷柱(つらら)。それぞれ、ゴウルの頭上に生成され――――射出された。


“ガ……ゲ……ェェ”


 氷柱は過たず、頭蓋を貫く。なかなか、スプラッタな光景だ。


 というか、俺の出番がなかったな。あまりの鮮やかさに、見ているだけで終わってしまった。


 と思ったのは俺だけだったようだ。ルゥルリィとフェリルが合流して、何やら話し合っている。


「次は、手、狙う?」

「わふ!」

「待て待て! もういい! これ以上はまずいかもしれない!」


 なおも攻撃を続けようとする二人を慌てて止める。あいかわらず、好戦的なヤツらだな。いったい、誰に似たんだか。


 魔物の傷の深さは見た目ではわからない。傷だらけに見えてもステータスの生命が残っていれば平気で動き回るし、逆にほとんど傷がなくとも、一気に生命を刈り取れば消滅する。なので、この巨人ゴウルが瀕死状態だと断定することはできないのだ。そういう意味では、ルゥルリィたちの行動が間違っているわけじゃない。


 とはいえ、ダメージを与えすぎて消滅させてしまうのはマズい。チェルだけ残るならいいが、一緒に消滅してしまう可能性だってある。もし、アイツが無理矢理キメラの材料にされた被害者なら、うっかり消滅させてしまうわけにはいかない。


 幸いなことに、頭を潰したことで、巨人ゴウルは動かなくなった。胸元から生えたチェルは相変わらず唸っているので、おそらくは無事だ。ひやひやしたが、無力化という点ではベストな結果となったと言える。あとは、どうにかチェルを分離するだけだ。


「そ、そいつ、どうするの……?」


 フェイラが恐る恐る聞いてくる。さて、それが問題だが。


「追加の約束をしようか。今から見ることを決して口外しないって、約束できるか? できるよな?」

「も、もちろんよ!」


 よし、口止めはOK。


 では、セプテトを呼ぶか。ヤツならうまくチェルを分離してくれるはずだ。



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