219. 新しい就職先?
嫌な予感はしたものの、武器スキルを集めるのに『ゴウルの砦』ほど適した場所はない。というわけで、ほんの少しビクビクしつつも俺たちは実験の終わったばかりの迷宮にやってきた。
低階層は同業者も多いので、ミスト探索を使って一気に最奥近くまで駆け抜ける。迷宮終盤の方がゴウルの種類も多彩なので、武器スキルを集める上でも都合が良いしな。
「ますた、新しいの捕まえた!」
「わふぅ!」
「助かる。その辺に置いといてくれ」
「あい!」
ルゥルリィとフェリルがゴウルを捕らえてくる。ルゥルリィは植物性の麻痺毒で動きを封じ、フェリルは氷漬けにして無力化しているようだ。
「さて、スキルは……お、投擲があるな。投擲って武器スキルに入るんだろうか?」
「武器スキルっていうと微妙だけど、武芸スキルって考えると、入りそう」
「なるほどな。となると、格闘とかも怪しいな」
動けないゴウルたちからスキルを引っこ抜きながら、合成スキルについてペルフェと話し合う。武器スキルにばかり着目していたが、物理的な攻撃手段全般で考えた方が良いのかもしれないな。そうなると、【投擲】とか【格闘】も合成元の候補として入ってくる。念のため確保しておいた方がいいだろう。
ルゥルリィとフェリルが捕獲。俺がスキルを抜いて、ペルフェがとどめを刺す。効率的な作業分担によって、スキル収集は極めてスムーズに進んだ。やはり、スケルトンに比べると、ゴウルの攻撃スキルは多彩だ。【鎌術】とか【扇術】といったマイナーそうな武器スキルまである。習得しても使いどころがなさそうだが、合成材料にする分には問題ない。とにかく、物理攻撃に関係しそうなスキルは根こそぎ奪っていく。
マナ切れを心配する必要はない。魔術を使う個体もいるくらいなので、ゴウルはマナも豊富に持っている。マナドレインでいつでも回復可能だ。
「何というか……スキルを奪われるために存在しているようなヤツらだな」
「いや、そもそも普通はスキルを奪えないからね」
「それもそうか」
ペルフェのツッコミを受けてしまった。そりゃそうだ。
スキルのために乱獲される可哀想な魔物なんていなかったんだな。まあ、今、そうなってるが。まあ、スキルのことがなくとも、魔物は探索者に狩られる運命だ。今日が特別ってこともあるまい。
「結構集まったんじゃない?」
「まあ、そうだな。そろそろ切り上げるか」
マイナースキルは数が少ないが、剣術や格闘なんかのメジャーなスキルは充分にストックできた。そろそろスキル集めを終えてもいい頃だろう。不足したら、また来ればいいしな。
「ルゥルリィ、フェリル、もう捕まえてこなくていいぞ」
ちょうど引き返してくる姿が見えたので、声をかける。二人は俺の言葉に頷いたものの、様子がおかしい。
「どうした?」
「フェーが、探索者、見つけたって」
「わふぅ!」
「ん? まあ、もう切り上げるから問題ないぞ」
「わふわふ!」
「そういうことか。ジンヤ、フェリルはその探索者たちに見覚えがあるって言ってる。たぶん、ヒィトたちだ」
ペルフェの解説に顔が歪む。またアイツらか。まさかストーキングしているわけじゃないだろうな。
まあ、ヤツらだとしても特に用はない……と思ったのだが、ただ単に知り合いを見つけたで終わる話ではなかったらしい。
「わふわふ!」
「なんだって!? それは大変だ」
「……どうしたんだ?」
「彼ら、また強そうな魔物に追われているみたい! こっちに逃げてきてるって!」
おいおい、またかよ!
合体スケルトンのときもそばにいたらしいから、これで三度目だ。その全てに遭遇している俺が言うのも何だが、相当に運が悪い連中だな。
「助けるよね?」
「一応、知り合いだしな」
無闇矢鱈と人助けするつもりはないが、知人を見捨てるほど非情でもない。まあ、アイツらなら気が楽だ。すでに、全魔術でやらかしているから、変に実力を隠す必要もないからな。
「わかったよ。じゃあ、フェリル、案内して」
「わふ!」
「ますた、この緑の、どうする?」
「適当に捨てときなさい」
「あい!」
スキルを奪い終えていないゴウルもいるが、ソイツらは放置してヒィトたちが逃げてきているという方向へと進む。
すぐに、俺の気配察知でも、強力な魔物と探索者らしき気配を捉えることができた。ヒィトたちはまだ無事らしい。
ほっと安心したのも束の間。
「おい、これは!?」
「いつか見たような光景だね……」
目の前でとても楽観できない現象が起きた。石造りの要塞が突如として凍り付いたのだ。俺たちを標的としたわけではないからか、直接的なダメージはない。が、周辺環境は見る影もなく激変している。まるで、俺が『火の河』で氷の魔術を放ったあとのように。
「ヒィトたちの気配はまだあるが……マズいな」
「急ごう!」
ゲヒトカは寒さに弱い。まだ無事のようだが、時間が経てばその命は失われてしまうだろう。もはや一刻の猶予もない。
自重をかなぐり捨てて駆けた先、待ち受けていたのは人間サイズというには巨大な全身鎧と、それすら上回る異形の化け物だった。
全身鎧の方は見覚えがある。サイズこそ違っているが、フェイラだろう。周囲に他のメンバーの姿はない。気配はあるんだが。
「おい、無事か!」
「アナタたちは! お願い、助けて! ヒィトたちも収容したから、動けないの!」
どうやら、ゲヒトカ三人組まであの鎧の中にいるらしい。いったい、どういう原理なのか。まあ、今はそれどころではないか。まずは化け物退治だ。
とはいえ……あっちはあっちで気になることがあるんだよなぁ。
「なぁ。あれ、どう思う? 何となく、見覚えがあるんだが」
「……やっぱり? 僕もそんな気がするよ」
化け物の正体は、巨大なゴウルだ。身長は5、6mあまり。通常のゴウルにはありえない巨人サイズだ。
だが、問題なのはそこではない。巨人ゴウルには腕が四本あり、頭が三つあった。さらに、胸元から猫っぽい――おそらくはピュトンの上半身が生えているのだ。しかも、その姿には何となく見覚えがある。種族が違うので確信は持てないが……あれ、チェルじゃないかな。
お前、ギルド職員をやめて、キメラになったのか。就職先はもっと慎重に選んだ方がいいと思うぞ。




