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218. 嫌な予感

 その職員によれば、チェルは解雇されたわけではないらしい。


「チェルさんでしたら、とある仕事を終えたら奴隷から解放してもらえるということになったみたいですよ。仕事の詳しい内容は聞いていませんが、あまり時間はかからないという話でしたし、今頃は探索者に戻っているかもしれません」

「そうなのか」


 女性職員はニコニコ笑っている。同僚が急に仕事を辞めることになったというのに、困惑した様子もない。まあ、もともと税金滞納のペナルティのために短期間だけギルドの仕事を手伝わせるみたいな話だったわけだし、そんなものか。むしろ、サボり魔がいなくなってせいせいしているくらいかもしれない。


「チェルさんに何か用事でしたか? ギルド本部なら伝言を預かることもできますが」

「あ、いや。その必要はない」


 本来ならば規格外のスキル結晶体を合成するので、多少なりとも事情を知っているチェルであれば気が楽だったのだが……まあ、不都合というほどでもない。女性職員がカウンターから出る様子はないので、合成装置に技能石ではなく別物を放り込んでいることがバレることはないだろう。


 というわけで、何食わぬ顔で、合成装置を利用する。念のため、ペルフェには職員を警戒してもらおう。まあ、問題ないとは思うが。


 とりあえず、まずは準備した六つの武器スキルをつっこんで合成してみた。が、うまくいかない。少しスキルレベルの上がった剣術スキルが吐き出されただけだ。


「ダメか」

「組み合わせが間違ってるのかな?」


 カウンターを気にしつつ、ペルフェが呟く。その可能性は否定できないが、そうなると困ったことになるな。


「組み合わせが固定されているとなると大変だぞ。武器スキルは種類が多すぎる」


 魔術に関しては、ヒュムが扱える属性は僅か六つ。それらを合成すればすんだので、迷うことはなかった。一方、武器スキルは数が多い。ライラブラで集めたのは剣術、槍術、弓術、斧術、鎚術、鞭術の六種だが、それ以外にも杖術や短剣術なんかもある。また、細かい派生スキルなんかもあるので、組み合わせを探るのは骨が折れそうだった。


「まあ、ひとまず派生スキルは除外してもいいんじゃないかな。全魔術だって、操氷術とかはいらなかったわけだし」

「そうだな」


 ストックしていた武器スキルも持ち出し、合成するスキル数を増やしてみたりと試行を重ねたが、結果はほんの少しレベルの上がった既存の武器スキルが得られただけ。ついにはストックしていた杖術スキルが切れてしまい、新しい組み合わせを試すことができなくなった。


「失敗か。全魔術があるなら、その武器スキル版もあると思ったんだがなぁ」

「まさか、諦めるわけじゃないよね?」

「うーん……」


 全魔術のように統合された武器スキルが必要かと言えば、必ずしもそういうわけじゃない。主に使う武器のスキルは持っているので、それで充分だ。


 とはいえ、この件に関してはペルフェが乗り気なんだよな。アーマニアの(さが)なんだろうか。


 それに、ここまでやったのだから、何らかの成果を得たいという気持ちもある。ここでやめたら、今までの苦労が無駄になるわけだからな。


「もう少し頑張ってみるか」

「うん、そうしよう!」

「問題は武器スキルだな。薄闇の戦場跡では、充分にスキルが集まらなかったし」

「そうだね。もっと奥まで進んでも、大差なさそうだよね」


 ペルフェと二人、武器スキル収集について話し合う。とはいえ、あてがあるわけではなかった。そもそも、武器を扱う魔物が多い迷宮として、ギルド職員に教えてもらった『薄闇の戦場跡』があの程度だったのだ。


 まあ、偽りなく武器を持つスケルトンは多かった。ただ、武器種が限定されていただけで。


「やっぱり、ゴウルの砦が使えないのは痛いな」

「そうだね」


 ゴウルたちは、それこそ武器スキルの見本市かのように、様々な武器を扱っていた。あの迷宮が封鎖されていなければ、問題は解決するのだが。


 悩む俺たちに朗報をもたらしたのは、カウンターで事務作業らしきことをしていた職員だった。


「あ、ゴウルの砦をご利用ですか? それなら、もうすぐ封鎖は解かれると思いますよ。御使い様の実験が完了したと、さきほど通達がありました」

「え? ああ、そういえば何か実験をするために封鎖していたんだったか。というか……実験していたのは御使いなのか?」

「ええ、そうです。あ、実験の内容は秘密ですよ。というより、非公開の実験なので、私も知らないんですけどね」


 愛想の良い女性職員に礼を言って合成屋を出る。


「ゴウルの砦が利用できるようになったみたいだな。これは朗報……なのか?」


 俺の呟きに、ペルフェが難しい顔で頷く。


「武器スキルを集めるという点では、そうだね。でもねぇ」

「御使い絡みの実験って……なんか嫌な予感がするよなぁ」


 特に根拠があるわけではない。だが、高確率で面倒ごとに巻き込まれる気がする。何故か、御使いバーハのマッドな笑みが脳裏をよぎった。

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