217. ついにクビになった?
『薄闇の戦場跡』で合体スケルトンを倒したあと、俺たちは急いで迷宮を立ち去った。
浄化魔法だし害はないだろうと全力を出したのがマズかったらしい。あの一撃で、俺たちのいたフロアの環境は変わってしまった。周囲を覆う薄闇はすっかり取り払われて、別のダンジョンに迷い込んだのかと思ったほどだ。
しかも、不幸なことに、他の探索者が近くにいたらしい。おそらく、決定的な瞬間は目撃されていない。それに普通の発想なら迷宮環境の変化が一探索者によって引き起こされたとは思わないだろう。だが、念のために接触を避けることにしたのだ。
その判断が正しかったのかどうか。後日、ライラブラの酒場で情報収集をしたところ、あれは聖者の奇跡だという噂になっていた。
「何でこんなことになってるんだ」
「ジンヤがやりすぎるからでしょ。まあ、正体がバレるよりは良かったんじゃない?」
思わぬ展開に頭を抱える俺を、ペルフェが投げやりな口調で慰める。まあ、確かに、俺の仕業だとバレていないのは朗報だ。
「しかし、何でまた聖者なんて噂に……」
「それはまあ、仕方がないんじゃない? 何も知らなければ、僕もそう思ったかもしれないよ」
「……確かにそうか。ただの偶然なんだがなぁ」
聖者の奇跡なんて言われているのには訳がある。ボス格とフロア中のスケルトンを浄化し、迷宮に光を満たした……だけでなく、魔物の出現すらも止まったらしいのだ。ギルドからの依頼を受けた探索者が調査しているようだが、今のところスケルトンの一体も確認できないそうだ。ゆくゆくは、魔物の出ない安全なエリアとして認定されるのではないかという噂もある。
やたらと大袈裟な扱いで困惑してしまう。ぶっちゃけ、単に全力で魔術を放っただけなので、永続的な効果があるとは思えないのだが……だからといって、そう忠告するわけにもいかない。願わくば、探索者の調査中に効果が切れることを祈るばかりだ。
「しかも、噂の出所がなぁ」
聖者と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、アルブリアで出会ったペンシルヴァの探索者ルーペンだ。しかし、今回は別口らしい。
とはいえ、見知らぬ誰かというわけでもない。噂を広げたのは、偶然あの階層に居合わせた探索者パーティという話だが、そいつらはゲヒトカ三人と全身鎧の探索者という組み合わせだという。そう、『火の河』で知り合ったパーティと同じ構成だ。偶然というには一致が過ぎる。おそらくはヤツらのことだろう。
「これは約束を破ったと見ていいのか?」
全魔術の扱いに慣れていなかったこともあって、『火の河』で出会ったとき、ヒィトたちには俺の実力を知られてしまっている。口止めはしたはずだが、この状況だ。まあ、確かに、違う迷宮での出来事ではあるが……。
俺の言葉にペルフェが首を振る。
「いや、違うでしょ。あれだけ脅したんだもの。ジンヤの仕業だと思ってたら、むしろ口を噤んだと思うよ。全くの別件だと思ってるからこそ、ペラペラ喋ってるんだと思う」
「……下手に逃げ出したのが裏目に出たか」
おそらく、合体スケルトンを倒したときに、近くにいたというのがアイツらだったのだろう。そうとわかっていれば、逃げずに口止めしていたのだが。
「改めて、口止めしても……意味はないか」
「これだけ広まっちゃったらね。もうそっとしておくしかないと思うよ」
ペルフェが肩を竦めた。まあ、そうだろうな。
噂はすでにかなり広まっているようだ。尾ひれはひれついて、果てには存在しないはずの聖者の目撃証言も出ている。念のためにそれとなく確認してみたが、全くのでたらめだった。何でも、聖者は白き法衣を纏った盲目の女性らしいぞ。誰だそれは。
今更、ヒィトたちの口を止めたところで、広まった噂が消えるわけでもない。というか、発信源がピタリと喋ることをやめたら不審に思われるだけだろう。関係者に口止めされたと察する者がいれば、墓穴を掘ることになる。ここは噂通り、見知らぬ聖者の功績ということにしておこう。
「それなら、この件については放っておこう。ヒィトたちへの接触もなしだ」
「それがいいと思うよ」
懸念がひとつ片付い……てはないが、手出し無用ということになったことだし、当初の目的を果たそうと思う。
「よし、それじゃあ合成屋に行くか」
「スキルは集まったんだっけ?」
「まあ、ぼちぼちだな……。とはいえ、現時点でも試してみる価値はあるはずだ」
合体スケルトンを倒したあとも、状況把握も兼ねて『薄闇の戦場跡』にはちょくちょく潜っていた。下層のスケルトンには鎚や鞭を扱う変わり種もいたので、ぼちぼち武器スキルも集まっている。剣術、槍術、斧術、弓術、鎚術、鞭術で六種類。全魔術を合成したときは六種の魔術スキルによる合成だったので、可能性はあるんじゃないかと思う。
というわけで、中央地区にある合成屋へと向かった。
「いらっしゃいませ、スキル合成所へようこそ。ご利用方法についてはご存じですか?」
扉を開けた途端にかけられたのは、独特の語尾のつく喋り方ではなく、とてもハキハキとした挨拶だった。カウンターで出迎えたのは、チェルではなく見知らぬ女性職員だ。
……あいつ、ついに首になったのか?




