215. 光るだけなので全力で
「うーん、何だコイツは?」
「さあ、僕も初めて見るよ」
巨大な何かを見上げて、ペルフェとともに首を捻る。
薄暗い闇の中では全貌を見通せないが、とにかくデカい。ここまでデカい魔物は大概ボス格なのだが……どうにもはっきりしない理由は気配のせいだ。通常のボス格魔物は強烈な気配を放っているので、はっきりそれとわかる。だが、コイツの気配は曖昧で捉えどころがなかった。
「スケルトンと同じ? いや、それとも違う気が……」
ぼんやりとしていると言う点では一緒だが、広範囲に点在しているような気がする。
もしかして、コイツは群体なのか? 単体の魔物ではなく、大量の骨が寄り集まっていると考えれば、この気配にも納得がいく。
「ますた!」
「ジンヤ、ぼんやりしてる場合じゃないよ!」
思考の渦に沈んでいた俺の意識を呼び戻したのは、ルゥルリィとペルフェからの叱咤の声だった。見れば、闇の中から白い物体が幾つも飛来してきている。あれは骨か?
慌てて飛び退く。が、逆に飛びついていくヤツもいた。フェリルだ。
「ぐるぅ! わふわふ!」
ボス格のサイズに比例してか、飛来してきた骨はかなり大きい。俺の腕ほどもある骨に激突したフェリルは、勢いを殺しきれず、僅かばかり吹き飛ばされた。
だが、全くめげていない。むしろ、巨大な骨に齧り付いて、嬉しそうに尻尾を振っている。あの骨攻撃の威力は然程でもないらしい。
これならスキルを奪う余裕もありそうだ。というわけで、さっそくスキル看破で、所持スキルを確認してみたのだが……。
「こりゃあ……面倒だな!」
スキル看破を発動して、視線を巡らせると、そのたびに脳内のスキルリストが激しく入れ替わる。どうやら、当初の予想が的中したらしい。コイツは複数の魔物が寄り集まった存在のようだ。そのせいか、所持スキル自体は、そこらのスケルトンと大差ない。面倒なだけで、あまり得るものがなさそうな敵だ。
――ガァアアアア!
突然、合体スケルトンが吠えた。どうやら、本格的に俺たちを叩き潰すつもりになったらしい。軋むような音を響かせて、巨体が動き始める。
その動きはひどく緩慢だ。それ自体は、俺たちにとって何の脅威にも映らない。だが、その実、ひどく厄介な攻撃だった。
「うるせえ!」
「これはひどいな!」
合体スケルトンが僅かに動くたび、そこかしこからカランコロンと音が鳴る。おそらく、寄り集まった骨がそれぞれに音を出しているのだろう。
「耳、痛い」
「わふぅ……」
ご機嫌に骨を齧っていたフェリルでさえ、顔を歪めて地面に伏せている。この騒音が合体スケルトンの想定通りなのかどうかは不明だが、下手な攻撃よりはよほど厄介なのは間違いなかった。
「さっさと倒すぞ!」
「賛成!」
コイツが動く限り、騒音は続く。ならば、動きを止めてしまうに限る。多少強引だろうと、さっさと撃破した方が被害は少なくなるだろう。そんな目算で、俺たちは一気に仕掛けた。
だが、倒れない。強いわけではないが、合体スケルトンはとにかく厄介な性質を持っているのだ。
ヤツの体は無数の骨で構成されているのだが、おそらくそれら全てが独立している。パーツ単体の耐久力は極めて低く、軽い攻撃でもあっさり消失するが、ダメージが他に波及しないらしい。つまり、単体攻撃で倒そうとすれば、ヤツを構成する骨の数だけ、攻撃を繰り返さなければならない。もちろん、大振りで剣を振るえば何本かは巻き込むことになるが、その程度では焼け石に水だ。合体スケルトンを構成する骨の数は、おそらく万でも足りない。
武器でちまちま倒していくには時間がかかりすぎる。というわけで、今の主力は弱バージョンの範囲魔法だ。一気になぎ払えるが、それでも終わりは見えない。一撃ごとに少なくない数の骨パーツを消滅させているはずだが、合体スケルトンがデカすぎて、成果が見えにくいのだ。
「厄介すぎるだろ! いっそ、全力でなぎ払ってしまうか?」
「ちょっと! 短気は起こさないでよ? でも、そうだね……流石にキリがないかも」
堪らず全力撃破を提案してみるが、反応は悪くない。流石のペルフェも少し参っているようだ。肉体的なダメージは皆無だが、カランコロンと頭に響く音がとにかく不快だった。
……というか、やっぱりおかしくないか?
合体スケルトンと遭遇して、それなりの時間が経っている。いくらヤツが巨大とはいえ、そろそろ目に見える変化があってもいいと思うのだが。
「ますた!」
ふいにルゥルリィが声を上げた。珍しく慌てたような様子だ。
「どうした!?」
「フェーが、骨、集まってきてるって!」
「わ、わふわふ!」
「骨、合体してる!」
おいおいおい!
全然、減った気がしないと思ったら、リアルタイムで補充されてるのかよ。このままじゃ本当に終わらないぞ!
「全力でやるぞ」
「しょうがないね……」
俺の宣言にペルフェが渋々と言った様子で頷く。流石にこの状況では致し方なしと判断したらしい。まずは自分たちの身の安全が優先なので、当然の判断だな。
まあ、一応、周囲への配慮は必要だ。上の階層では何組かの探索者らしき存在を確認している。きっと、この階層にもいるに違いない。広範囲攻撃で一気に殲滅しようとすれば、そんな探索者たちを巻き込むことになる。
「幸い、相手はアンデッドだ。セイクリッド・フラッシュを使おう」
今となっては全魔術に統合されてしまったが、光魔術には〈セイクリッド・フラッシュ〉というアーツがある。これは使用者を中心とした円形の範囲に、アンデッド浄化作用のある強い光を放つ魔術だ。アンデッド以外には目潰しの効果しかなく、遮蔽物があると有効範囲が著しく狭まるので使い勝手は極めて悪い。だが、今の状況にはぴったりだ。
アンデッドだけを狙い撃ちにできるので、他の探索者を気遣う必要はない。とにかく強力に、そして可能な限り効果範囲を広げる。このデカブツを一気に消滅させることができるかは不明だが、フロアからスケルトンを消滅させれば少なくとも補充はできないはずだ。
「いくぞ! アルティメット・セイクリッド・フラッシュ!」
宣言した瞬間、世界が光に包まれた。体内のマナが一気に抜けていく感覚……思った以上に消耗が激しい。ちょっと全力を出しすぎたかもしれない。
真っ白な視界で、ペルフェが喚く声だけが聞こえる。
「やりすぎだ! 絶対やり過ぎだ!」
……やっぱり?




