214. 探索の効率化
迷宮探索を続けて一時間ほどが経過しただろうか。スケルトンの討伐数は着々と増えていったが、スキル集めは順調とは言いがたかった。
「剣と槍タイプばっかりだね」
「弓の骨も、いるよ」
「まあ、その三種類だなぁ」
『薄闇の戦場跡』で最も出現数が多いのが、槍を携えたスケルトンだ。次点で剣を手にしたスケルトン。こちらは両手剣のタイプと、片手剣のタイプがいるが、持っているスキルはどちらも【剣術】だった。上級探索者になると、さらに細分化した【片手剣】とか【両手剣】とかのスキルを持っているらしいが、この辺りのスケルトンにそれを求めるのは高望みらしい。
残りは距離をとって弓矢で攻撃してくるスケルトン。この中では一番厄介だが、相変わらずカラカラうるさいので、不意打ちを食らうリスクは低い。
「やっぱり、武器の豊富さはゴウルには敵わないか」
ゴウルは斧とか棍棒タイプのヤツもいた。スケルトンよりも武器種が多彩だった気がする。とはいえ、肝心の『ゴウルの砦』が封鎖中だったので、こちらを探索するしかないのだが。
「低階層だからかもよ。もう少し先まで行ってみないと」
「まあ、そうかもな」
ペルフェの意見を採用して、とりあえずはもう少し先まで進んでみることにした。迷宮内は奥に進むほど魔物が強くなるってのはよくあるパターンだ。エルネマインだと、同一迷宮内ではそこまで違いはないらしいが、それでも階層ごとに出現する魔物が変わることはあるので、それに賭けてみるしかない。
「それなら試してみたいことがある」
「……なに?」
俺の言葉にペルフェが少し嫌そうな声を上げた。まだ、何も言っていないのに、失礼なヤツだ。
「いちいち階段を探すのが面倒だからな。全魔術で、うまく探索の簡略化ができないかと思ってな」
「えぇ……? 本当に大丈夫なの? 爆発したりしない?」
「しない! 探索の簡略化と爆発とどんな関係があるんだよ!」
「それはわからないけど、ジンヤのことだからさ?」
本当に失礼なヤツだな!
俺が試そうと思っているのは【領域把握】だ。自分で生成した魔術的な領域を把握できるようになるこのスキルを利用すれば、効率よく迷宮内を調査できると思うんだよな。要は迷宮のフロアをまるごと領域としてしまえばいいんだ。
もちろん、領域を広げればマナ消費は跳ね上がるので、普通に考えれば実現は不可能。だが、全魔術の効果で魔術をカスタマイズできれば、上手いことやれるんじゃないかと思う。
ベースとするのはダークミストだ。これなら間違っても爆発は起きない。真っ黒な魔術の霧を発生させるだけの攻撃力皆無なアーツだからな。
カスタマイズするのは範囲だ。
まずは高さの制限。今回、把握したいのは地面の様子が主だ。『薄闇の戦場跡』では、平原の中にポツンと下り階段が存在しているので、領域の展開は足下だけで事足りる。というか、把握する範囲が広がりすぎると脳内処理が追いつかなくなるので、必要ない情報を削るというのは重要なことだ。範囲を制限することでマナの消費を抑える効果もある。
一方で発動範囲は拡張する必要がある。フロア全域を調査するためには、とにかく影響範囲を広げなければならない。
これをできるだけマナ消費を抑えたまま実現するとどうなるか。黒霧の密度が極端に低下し、視界を遮る効果がなくなってしまう。本来の用途から考えると、まったく無意味な使い方になるが、今回に関しては問題ない。単純に魔術領域を広げることだけが目的なのだからな。むしろ、極限まで薄くなってくれた方が、他の探索者たちに怪しまれずに済む。
「――というのが、ミスト探査の概略だ」
「むぅ……なるほどね。それなら、確かに問題なさそう」
「だろ?」
ペルフェの説得にも成功したので、早速、改造〈ダークミスト〉を利用したミスト探査を試してみた。薄暗い闇の中を、ほとんど認識できないほどの魔術の霧が広がっていくのがわかる。
土。石塊。骨。これは人間の足か。遠く離れた場所だが、探索者もいるようだな。
次から次に頭の中に流れてくる情報を不要なものとして切り捨てていく。細かく精査している余裕はない。ともかく、階段らしきものを探していると、右前方にそれらしきものを見つけた。
これは楽でいいな。結局は、階段まで歩かなければならないのだが、魔物を無視して一直線で進めば探索に掛かる時間は大幅に短縮できる。視界の通らない広大なフロアで、あてもなく階段を探すのはメンタル的にもきついからな。
問題があるとすればマナか。極限まで効果を抑えたとはいえ、フロア全域に霧を展開するのはやはりマナの消費が大きい。何度も使えば、俺でもすぐにマナが枯渇してしまいそうだ。とはいえ、連続して使う魔術じゃないから、気にしなくてもいいか。スケルトンにマナドレインを使った感じ、意外とマナを吸えるようだし。
「なかなか上手くいったな」
「ジンヤにしては珍しくね」
「ここは素直に褒めてもいいところだろ」
「うーん、ちょっと難しいかな。やっぱり、日頃の行いがねぇ」
軽口を叩きながら、迷宮を進んでいく。最短経路を駆け抜けたおかげで、あっという間に五階層だ。そろそろ新種のスケルトンが出てきてもいいんじゃないだろうか。
「この階層は探索してみよう。フェリル、珍しそうなスケルトンがいたら教えてくれ」
「わふ! わふわふぅ!」
言うなり、フェリルが尻尾をフリフリ駆けだした。やたらと機嫌が良さそうだ。
「……なんだ?」
「骨、たくさん……って言ってるよ」
ルゥルリィの解説もいまいちピンとこない。数よりも珍しさを優先して欲しいのだが。
とはいえ、放っておくわけにもいかず、俺たちもあとを追う。やがて、見えてきたのは……白くて巨大な謎の化け物だった。




