212. 宝箱……?
解錠と罠解除スキルを譲ったことにより、ルゥルリィの鍵開け技術はさらに高まった。今のところ、成功率は100%だ。やはり、俺よりも才能があるらしい。
「できた!」
嬉しそうな声を上げて、ルゥルリィがとてとてと俺のところまで駆け寄ってくる。その手にあるのは宝箱からドロップしたアイテムだ。頭を差し出してくるので、撫でてやると、にへへと妙な声を漏らした。このくらいで喜んでくれるなら安い物だな。
「それは弓かな?」
「たぶんな」
横からのぞき込んでくるペルフェに答える。アーマニアだけあって、武器には興味があるらしい。これまでにも幾つか武器が手に入ったので心なしか機嫌が良い。
【闇祓の霊弓】
◆分類◆
武器・弓(長弓)
◆攻撃性能◆
物理補正:C 魔法補正:B
◆特殊効果◆
マナを消費して聖なる矢を生成する
【白魔銀のレイピア】
◆分類◆
武器・剣(突剣)
◆攻撃性能◆
物理補正:A
◆特殊効果◆
刺突攻撃の威力が上昇する
【轟雷槍】
◆分類◆
武器・槍(長槍)
◆攻撃性能◆
物理補正:B 魔法補正:B
◆特殊効果◆
アーツ〈召雷〉が使用可能に
たった今、手に入れた弓を含め、なかなか性能は良さそうだ。
「問題はスキルだな」
白魔銀のレイピアは剣分類だから使えなくはないが、槍と弓はスキルを持っていない。魔物はほとんど武器スキルを持っていないからな。それがスキルドレインの弱点だろうか。
売り払ってもいいんだが、エルネはレベルドレインで幾らでも手に入る。となると、できれば有効活用したくなるのが心情ってものだ。スキルの成長を考えると、ひとつの武器に特化した方がいいんだろうが、俺はスキルドレインでその辺りをズルできるからな。まあ、肝心のスキルを持っている魔物がいなければ話にならないわけだが。
俺と一緒になってうーんと唸っていたペルフェがポンと手を叩いた。
「そう言えば、ゴウルがいるよね? アイツらならスキル持ってるんじゃない?」
「ああ、確かにな」
男爵階級になるための審査とやらで潜った『ゴウルの砦』には、武器を持ったゴウルたちがわんさか現れた。チェルが同行していたためスキルドレインは使えなかったが、あそこなら武器スキルを集めるのに不自由はしないはずだ。スキルレベルは低めな気がするが、まあ、ないよりはマシだろう。もしくは、他に人型の魔物が出現する迷宮を探すか。ライラブラなら他にもありそうな気がする。
「武器スキルか。そっちにも全魔術みたいなスキルはあるんだろうか?」
「ありそうな気がするね。アーマニアとしては興味があるかな」
六つの属性魔術を合成することによって、あらゆる魔術を扱える全魔術というスキルが手に入った。ならば、複数の武器スキルを合成してあらゆる武器を扱えるスキルができてもおかしくはない。ちょっと興味があるな。次は、武器スキルを集めてみるか。
まあ、とりあえず今はこの迷宮の探索だ。最奥は少なくとも20層を越えるって話なので、そこまで潜るつもりはないが、もう少し武器を集めたい。
と、探索を続けるつもりだったのだが、思わぬ魔物との遭遇で、やる気が削がれることになった。
「ますた、アレ、宝箱?」
「……いや、違うだろ。さすがに」
ルゥルリィが“アレ”と呼ぶものを何と説明すれば良いだろうか。おそらく系統としてはさっきまで倒している牛人間の仲間だ。目の前のヤツも、上半身は今までのヤツらとほとんど変わらない。
問題は下半身。いや、それを下半身と言っても良いものか。ヤツの腰から上は、宝箱から生えていた。まるで宝箱に擬態した化け物――ミミックに食われているかのように。
「ブモォ!」
だが、ヤツは食われているわけではないらしい。俺たちを視認すると、猛然と襲いかかってきた。
「わ、わふぅ?」
あまりの異様さにフェリルさえ戸惑っている。ヤツの下半身は宝箱なのだから足などないのにまるで滑るようにスルスルとこちらに向かってくる。
「どうやって移動してるの!?」
「そんなことどうでもいいだろ!」
動揺しているのか、変なことを気にするペルフェに言い捨てて、牛宝箱を迎え撃つ。距離を詰められているので、魔法ではなく剣で斬りつけた。が――――
「おいおい! めちゃくちゃ硬いぞ!?」
予想外の手応えに驚くことになった。普通の牛人間とは一線を画す防御力だ。俺が全力で斬りつけたというのにかすり傷さえ負わすことができなかった。
「ブモォ!」
驚く俺に隙を見てとったのか、牛宝箱が斧を振り回す。それを躱して一旦距離をとった。俺だけではなく、他のメンバーも動揺から立ち直ったらしくそれぞれに態勢を立て直している。
「防御だけで、攻撃はそれなりだな」
豪腕から繰り出される斧の攻撃はそれなりに強烈だが、レベル相応だ。他の牛人間と変わりはない。俺にとっては脅威ではなかった。ヤツは防御特化の魔物らしい。
ここのボス格なのだろうか。こんな珍妙な魔物の噂はまるで聞かなかったが。
「わふ!」
フェリルが魔術を放った。生成した無数の氷槍は凄まじい勢いで射出される。しかし、それらは、牛宝箱に触れると粉々に砕かれ、ダメージを与えることはできなかった。どうやら魔法にも強い耐性があるらしい。
「ちょっと強すぎるね」
ペルフェが苦々しい声音で呟く。俺も同意せざるを得ない。
この牛宝箱は、あまりにも硬い。俺たちですらそうなのだから、適正レベルの探索者ならなおさらだろう。おそらく全滅を覚悟するほどの強さだ。ひょっとしたら、コイツの噂がなかったのは、遭遇して生き残った探索者がいないからかもしれない。
さて、どうするか。俺たちにはまだ幾つかの選択肢がある。たとえば、俺たちのステータスならヤツを振り切って逃げることも可能だ。他にも、全魔術を全力で放ってみるという手もある。周辺環境を激変させるほどの威力を集約させれば、さすがのヤツも無事ではすまないはずだ。
「ルゥが、やる!」
頭を悩ませている間に、ルゥルリィが攻撃を仕掛けた。無数の蔦が牛宝箱を絡め取る。防御力は高いが、この手の攻撃に対する対抗手段はないらしい。身動きがとれなくなり、ヤツの動きが止まった。
「ナイスだ、ルゥルリィ! このままヤツの生命力を――」
奪い取れと言おうとした瞬間、周囲にカチリと音が響いた。そして、牛宝箱が溶けるように消えていく。
倒した……のだろうか。それにしては、クレアテ結晶体が出現しない。代わりに残ったのは、一振りの斧だけだ。
「ルゥルリィ、いったい何をしたの?」
ペルフェが尋ねる。問われたルゥルリィはこてんと首を傾げて言った。
「ルゥ、鍵開けた、だけだよ?」
おいおい、マジか。
この世界の宝箱は中身を取り出すときに消えてなくなる。さっきの現象はまさにそれだった。クレアテ結晶体ではなく、斧だけがドロップしたことも考慮に入れると……。
あれ、本当に宝箱だったのかよ!




