211. 斥候職の存在意義
さて、全魔術の使い方についてはかなりわかってきた。当初の目的であったスキルの検証は達成できたと言えよう。ここで引き返してもいいが、せっかくなので探索を続けることにした。
この『凶牛の迷宮』は正統派の迷宮型ダンジョン。となれば、楽しみなのが宝箱だ。魔物を倒してレベルを上げるのもいいが、お宝探しもダンジョン探索の醍醐味だよな。しかも、この迷宮は宝箱の出現率が他よりも高いらしい。
「ルゥも! ルゥも宝箱探す! フェー、どっち?」
「くぅん……」
楽しそうなルゥルリィから指示を受け、フェリルが困惑している。さすがのフェリルも宝箱の気配はわからないらしい。
「まあまあ。歩いていれば、そのうち見つかるよ。それよりも、現在地を見失わないようにね」
ペルフェの言うとおり、この手のダンジョンで最も厄介なのは、帰り道がわからなくなることだ。迷宮の名に偽りなく、『凶牛の迷宮』は複雑に入り組んだ迷路のようになっている。道幅は2mくらいあるので戦闘に困るほどの狭さではないが、とにかく迷いやすい。低層に関しては地図が売り出されているが、それがあっても、うっかりすると現在地を見失ってしまう。なにしろ、どこもかしこも似たような石の壁なのだ。
だが、それに関してはさほど心配していない。俺たちには心強い味方がいるからな。
「わふ! わふわふ!」
フェリルが任せろと吠える。宝箱の位置はわからずとも、自分たちの通ってきた道は把握できるらしい。ありがたいことだ。
本来ならば、その手の役割は斥候系の戦闘職業が担うんだが、俺にはさっぱりなんだよな。サブ職で盗賊の職業特性も獲得してるはずなんだが……。まあ、性格的な向き不向きはあるんだろう、きっと。
適正レベル帯だが、魔物に脅威を感じることはなかった。ほとんどが遭遇して10秒以内に排除されている。全魔術練習用の的として、ちょうど良いくらいだ。全員が交互に魔術を放ち、倒していく。
噂に聞いていた通り、宝箱の出現率は高いらしい。探索を始めてまだ二時間ほどだが、すでに幾つかの宝箱を見つけている。
「よし、今度こそ成功させる!」
「ますた、頑張って!」
「わふぅ!」
「くれぐれも慎重にね……」
そしてまた宝箱を見つけた。この迷宮の宝箱には鍵が掛かっていたり、罠が仕掛けられている。さすがのフェリルもそれらの対処はできないので、俺の出番だ。あまり使ってなかった【解錠】と【罠解除】が役立つときがきたぜ!
鍵開けツールを使って、かちゃかちゃと錠前を探る。指先に感じる微かな手応えを頼りに、ロックを外すのだ。だが――――
「あっ……」
パキリと音を立てて、鍵開けツールが壊れた。これで三つ目だ。鍵穴にツールが残ってしまったので、これ以上の解錠は不可能。というか、ツールも全部ダメにしてしまった。
さっきからこれだ。一度も鍵開けに成功していない。開錠スキルは低めだが、【盗賊技能+++】もあるし、器用も運もかなり高いというのに何故……。
「無駄に力が入りすぎてるんじゃない? ツールがジンヤの筋力に耐えられないんだよ」
「マジかよ」
高ステータスの弊害がこんなところに。いや、たぶん、上手くやれば筋力が高くともツールが壊れることはないんだろうが……性格的にちまちまやるのが苦手なんだよな。
ちなみに、この状態から宝箱を開けることも不可能ではない。方法は簡単。宝箱を破壊して無理矢理中身を取り出せばいい。魔法的なバリアでもあるのか、宝箱はめちゃくちゃ頑丈だが、レベル帯の平均以上の筋力があれば破壊可能だ。もちろん、その場合は罠解除できないので、罠が仕掛けられていれば確実に発動する。罠の種類によっては中身が消失してしまうので、リスクも大きいのだが。
「仕方ない。壊すか」
「ますた、ルゥ、やってみたい!」
最後の手段をとるかと決めたところで、ルゥルリィがぴょんと跳ねるように体を弾ませながら右手を挙げた。やってみたいというのは鍵開けだろうか。
「ルゥルリィが? だけど、ツールはもうないぞ」
「大丈夫、だよ!」
ツールなしでどうやって鍵を開けるつもりなのか。想像もつかなかったが、どのみち、あとは破壊するだけなのだ。ならば、試してみてもいいかとルゥルリィに任せることにした。
「じゃあ、頼んだ」
「あい!」
俺に代わり、宝箱の前に陣取るルゥルリィ。何をするつもりかと横から見守っていると、彼女は手の先からごくごく細い蔦をにょきっと生やした。そして、鍵穴に潜らせていく。邪魔になっているツールの残骸をまず除去し、さらにかちゃかちゃと鍵穴を弄る。すぐにカチリと鍵の開く音が響いた。
「できた!」
「お、おう。マジか」
ルゥルリィには【解錠】スキルなんてないはずなのに、俺よりも鮮やかだ。
「ルゥルリィ。いつの間に、そんな技を……」
「魔法、だよ?」
「魔法……全魔術か!」
なんと、さきほどルゥルリィが見せたのは全魔術を使った樹属性の解錠魔法らしい。しかも、既存のアーツには存在しない……少なくとも俺たちは知らない新アーツだ。全魔術はあらゆる魔術が扱えるという説明に偽りはないらしい。
「もう解錠も罠解除もルゥルリィに任せた方がいいんじゃない?」
「……そうだな」
ペルフェの提案は、悔しいが認めざるを得ない。明らかに俺よりルゥルリィの操る蔦のほうが繊細な作業を得意としている。どうせなので、スキルもドレインで引っこ抜いてルゥルリィに渡しておくか。
俺のメイン職業はバグ盗賊――本質的には大怪盗というチート職業だ。戦闘能力にも長けているが、一応は斥候的なクラスのはずなのだがなぁ。気配察知ではフェリル、解錠能力ではルゥルリィに及ばない。
まあ、いいか。これはきっと、戦闘に専念しろってことに違いない。幸いなことに、戦闘能力では他のメンバーに負けていない。ライバルになるとすれば、スキルの適性が広範囲で応用が利くペルフェか。
「負けないからな」
「え、何の話?」
ついつい心の声が漏れてしまったようだ。不意に声を掛けられたペルフェは、意味がわからないらしく首を捻っていた。




