表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

210/211

210. 全魔術の扱い方

「ファイアボール・弱!」


 迷宮の曲がり角から飛び出してきた大柄な人影に向けて、火球を放つ。馬鹿でかい戦斧を両手に抱えているソイツは、二足歩行の牛人間。おそらくミノタウロスとかその手の魔物だ。


「ブモォ!?」


 出会い頭に火球で焼かれ、牛人間が悲鳴を上げる。だが、ヤツに出来たのはそれだけ。こんがりと焼かれた結果、生命力の全てを失って光の粒となり消えた。不思議なのは戦斧。体の一部という判定なのか、牛人間が死ぬと消えてなくなるのだ。まあ、欲しいとは思わないので構わないが。大きすぎて使いづらそうだし。


「これなら問題なさそうだな」

「ファイアボールにしては馬鹿げた威力だけど、かろうじて常識の範囲内かな……?」


 俺の言葉にペルフェが頷く。何故か自信なさげだが……まあ、いいか。


 ここはレベル40推奨の迷宮『凶牛のラビリンス』、レベルで考えれば適正な狩り場だ。とはいえ、俺のステータスは同レベルの平均と乖離している。威力が多少大きくなるのは仕方がない。大惨事を引き起こさないだけでも御の字である。


「次はペルフェが試してみろよ」

「僕はジンヤほどおかしなステータスしてないから大丈夫だと思うけどね」


 と言いつつ、ペルフェは次の牛人間をこんがりと焼き上げていた。まあ、周囲への被害はないので問題なしだ。


 よしよし。全魔術の扱いにも慣れてきたな。これならどうにか戦闘にも使えそうだ。


 『火の河』の惨劇を引き起こしてから、威力のコントロールに腐心してきたが、これがなかなか大変だった。落ち着いた状況で精神力を総動員すればどうにか威力を絞ることはできる。だが、油断するとすぐに天変地異のような大魔術が発動してしまう有様だった。


 当然ながら、そんな魔術を戦闘で使うことはできない。マナの無駄遣いであるし、周囲を巻き込む危険性がある。そして、何より目立つ。どうしたって目立つ。有用そうなスキルなのに使いこなせないという困った状況だった。


 状況が改善したのはアーツを意識するようになってからだ。全魔術にアーツは存在しないが、そのベースとなった属性魔術には幾つかのアーツが存在する。火魔術の〈ファイアボール〉や〈バーストフレイム〉、闇魔術の〈ダークミスト〉がそれだ。それらを意識すれば、それっぽい魔術が発動することがわかった。


 あくまでそれっぽい魔術である。一般探索者が使うアーツに比べるとかなり強力になってしまうようだ。とはいえ、それは以前からそうだった。高ステータスによる影響も多分にあるので仕方がない。少なくとも周囲の環境を変えなくなっただけマシと言える。


 さらに、既存アーツを意識する方法を応用すれば、威力が高すぎる問題も解決できそうなことがわかった。それが、さっき試した『ファイアボール・弱』である。


 効果はそのまんま。名前の通り、威力を弱めたファイアボールだ。言葉にすれば単純だが、俺にとっては革命的な魔術である。なにせ、『ファイアボール・弱』を使えば、特に意識せずとも、あの程度の威力の火球が出るのだから。細かな制御をせずとも安全な規模の威力で攻撃できるのは非常に助かる。


 習得は簡単。まず、集中しやすい状況で威力を抑えたファイアボールを発動させる。あとは、それに名前をつけただけだ。以上の手順で、弱化ファイアボールを再現できるようになる。


 他の魔術に関しても同じだ。どうやら、自分でアーツを登録しておけば、それに応じた魔術を放つことができるらしい。


 これがシステムで保証されている動作かどうかは不明だ。アーツを登録と言っても、それはあくまで自分の脳内での話。システムカードの表記には一切変化がなかった。だから、ただの自己暗示とか刷り込みに過ぎない可能性もある。


 まあ、便利に使えるなら、現状はそれで問題ない。ファイアボール以外にも、攻撃系のアーツは積極的に弱バージョンで脳内登録しておくべきだろう。


「これならルゥルリィやフェリルに取得させても大丈夫だろ」

「うーん。無理に取得させる必要もない気がするけど」


 全魔術のスキル結晶体だが、実は全員分用意していたのだ。他の魔術スキルが消えることに気づいて使用を取りやめていたが、種々の問題が解決した今なら習得しても問題ないと思える。


 だが、ペルフェはいまいち乗り気ではないようだ。まあ、そうか。気づいていないだけで、他にも問題がある可能性はあるわけだから。


 とはいえ、いざとなれば元の状態に戻すことは可能だ。スキルドレインでスキルを引っこ抜けばいいわけだからな。取得ずみの魔術スキルが消えてしまう件に関しても、事前にドレインで退避させておけばいいのだ。


 結局、判断は本人に委ねることにした。ルゥルリィとフェリルを呼び出して、全魔術を取得する意思があるか確認すると、二人はこくんと首を傾げる。


「ルゥも、火、出せるようになるの?」

「わふぅ?」

「火か。どうだろうな」


 種族適性のせいで、二人は火魔術を取得できない。だが、全魔術は“あらゆる魔術を扱える”のだ。使える可能性はある。そう伝えると、二人は揃って目を輝かせた。


「じゃあ、ルゥ、覚える!」

「わふ!」


 暑いのは苦手だが、火を扱うことに対しては抵抗がないらしい。そう言うことならと、二人に全魔術のスキル結晶体を手渡す。もちろん、取得済みの魔術スキルを退避させたあとで。


「ルゥ、やってみる!」


 やる気に満ちたルゥルリィが先頭に立ち、獲物を探す。哀れなターゲットである牛人間はまたしても出会い頭に火球をぶつけられた。


「出た!」

「本当だな。とはいえ、俺たちに比べると少し威力は落ちるか?」


 火魔術に適性のないルゥルリィでも、ファイアボールもどきは発動させることができるようだ。ただし、牛人間は黒焦げになりながらもまだ生きている。瀕死と言っていい状態ではあるが、多少の威力減少があるようだ。


「わふ!」


 続いてフェリルもファイアボールを放った。やはり適性による影響があるのか、生成された火球はルゥルリィの放ったそれと比べても小さい。だが、死に際の魔物にとどめを刺すには十分な威力だ。着弾すると同時に牛人間の生命を散らした。


「ルゥにもできた!」

「わふぅ!」


 くるくると不思議なダンスを踊るルゥルリィの周りを、フェリルが吠えて回る。やや弱体しているものの、適性外の火魔術を扱うことができて、二人は満足そうだ。


 一時はどうなることかと思ったが、全魔術はなかなか使えるスキルみたいだ。これなら、俺にも樹魔術が使えるかもしれない。適性がないので、威力は落ちるだろうが。


 ちょっと試してみるか。


 ルゥルリィが習得してるので、アーツも把握している。試すのはルゥルリィがいつも使っている蔦を操るアーツだ。


「〈吸命蔦〉」


 アーツを意識して魔術を発動する。その瞬間、辺り一面に草……いや、蔦が生えた。一本や二本ではなく無数の蔦が勝手気ままにうねうねと踊っている。まったくコントロール不能だ。


「何やってるんだよ、ジンヤ……」

「ますた、蔦、へたくそ」

「わふぅ……」


 評価は散々だ。幸いなのは、影響範囲が半径5mくらいに留まっていることか。蔦地獄にはなっていない。一応、既存のアーツを意識したので効果は抑えられているのだと思う。


 とはいえ、これじゃあな。威力が減少する程度なら使いようはあるが、制御できないのは致命的だ。これじゃ、使い物にはならない。


 適性がないのにもいろいろあるんだなぁ。残念だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ