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207/211

207. やりすぎたようだな

「気配が近づいてきている。おそらく、逃げる探索者と追う魔物だ」

「ふぅん。助けるってことでいいんだよね?」

「まあ、そうだな」


 ペルフェにも情報を共有しておく。


 面倒ごとには関わりたくないが、さりとて救える命を見捨てるのも寝覚めが悪くなりそうだ。このレベル帯の魔物ならボス格だったとしても大したことはない。ささっと倒せば、最小限の関わりでやり過ごせるだろう。


「な、なんだこりゃ!?」

「氷!?」

「どうなってるんだよぅ!」


 ちょっと先の通路が合流している地点に、探索者たちが飛び出してきた。思わぬ光景が飛び込んできて、一瞬足を止めてしまったようだ。この辺りはルゥルリィとフェリルが氷をまき散らしているからなぁ。溶岩地帯に氷の柱がいくつも乱立していれば、それは驚くだろう。どれだけ力を込めたのか知らないが、まだ溶けずに残っているし。


 探索者たちは三人がスキル屋の店主と同じゲヒトカという種族だ。残る一人はよくわからない。何故なら、全身鎧を纏っているためだ。溶岩地帯で金属製の鎧を着込むなんてどう考えても自殺行為なので、きっと特殊な防具なのだろうな。


 その全身鎧だけは冷静さを保っているようで、驚きに固まる三人を無言で急かした。慌てて逃げ出したところに、追跡者が迫る。


 現れたのは巨大な生物だった。見た目は赤い恐竜。前脚を上げて、二足歩行するタイプだ。しかし、少し違和感がある。あれだけの巨体にしては、妙に静かな気がするな。


「ぬわぁ!?」

「逃げろぉ……ってヒュム!?」

「危ないよぉ! 逃げるんだよぉ!」


 赤い恐竜の突進をギリギリで避けた探索者たちがこちらに逃げてくる。そこでようやく俺たちに気がついたらしい。逃げろと警告を発してくるが……とりあえずスルーだ。返事もせずに、俺はボス格らしき魔物へと迫った。手にした武器は清浄の青刃。それでヤツの右脚に斬りかかった。


 あっさりとした手応えで、刃が右脚を斬り飛ばす。ステータス差を考えれば、おかしくはない……のか? それにしても、抵抗がなさ過ぎた気がするが……。


「危ない! 避けろ!」


 危険を知らせる声は、おそらくゲヒトカの誰かのものだ。その声が発せられるとほぼ同時に俺はその場を退いていた。少し遅れて、恐竜のヘッドバットが元いた場所に襲いかかる。


「なんだコイツ?」


 目の前の珍現象に思わず呟きが漏れる。


 攻撃手段として頭突きを使うのは不思議でも何でもないが、勢いが激しすぎた。派手にぶつかった結果、恐竜の頭は半分ほどがぐにゃりと潰れている。


 おかしい。いくら衝撃が大きくても、あんな風にぐにゃりと潰れるはずが――


「逃げろ! そいつはスライムだ!」


 再びの警告。その意味を認識する前に、恐竜の頭が弾けた。いや、違う。俺を取り込もうという腹づもりらしい。ぐずぐずに崩れたかと思いきや、無数の触手となって、俺へと迫ってきた。


「気持ち悪いな!」


 半ば恐竜の形を保っているのが不気味さを際立たせている。まあ、触手への対処は難しくない。ただ斬る。それだけだ。


 とはいえ、それがヤツへの有効打になっているかと言えば、怪しい。切り離された触手はうねうねと蠢きながら、意外な速さで本体に合流しようと移動している。くっつけば元通りってことだろうな。


「ダメだ! アイツに物理攻撃は効かないぞ!」

「斬っても斬ってもくっついちまう!」

「魔法も火魔術は意味がないんだよぅ」


 押しつけて逃げるのは気が咎めるのか、ゲヒトカ探索者たちが後方からヤツについての情報を伝えてくる。律儀なことだが、逃げてくれた方が面倒はないんだがなぁ。見られていると戦いにくい。


「氷だ! アンタら、氷属性が使えるんだろ! それならきっとなんとかなる!」


 ゲヒトカの一人が叫ぶ。


 確かになぁ。物理攻撃が効かないスライムには魔術が有効ってのは定石な気がする。溶岩地帯の敵に氷属性は効きそうだ。試してみる価値はあるだろう。


 問題は【全魔術】を習得したせいで、俺のスキルから、【水魔術】と【操氷術】が消えてしまってるってことだ。残念ながら、これはペルフェも同じである。ルゥルリィとフェリルはまだ使えるが……二人をここで呼び出すのはちょっとな。ドライアドとフラウルにとって溶岩地帯は地獄にも等しい環境らしい。そのことをこの探索者たちが知っているかどうかは不明だが、俺たちの異常性に気づかれるリスクが高い。できれば、避けたいところだ。


 とはいえ、周囲を氷だらけにしておいて、使えないと突っぱねるのも難しい。別の手段で倒しても問題はないだろうが、不審には思うだろうな。


 ここは一度、【全魔術】を試してみるか。一応、あらゆる魔術が使えるという説明なので、氷属性の魔術も扱えるはずだ。ぶっつけ本番なので、上手くいく保証はないが……まあ、失敗したら別の手段で倒せばいい。


 掌を恐竜スライムに向け、ヤツを凍らせるイメージをする。アーツがないので、発動条件がわからないが、とにかく強く……強く思い描く。


 ヤツを……巨大な魔物を完全に凍てつかせる!


 その瞬間、周囲の様子は一変した。魔物は氷の彫像となったかと思えば、砕けながら消えていく。そして、溶岩地帯は消え失せ、辺り一面銀世界だ。


 ……うむ。

 やりすぎたようだな。



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