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205. 責任者からの提案

「何をやってるんだ?」

「だから、責任者の呼び出しニャ」


 チェルがカウンター裏でごそごそやっているので尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。どうやら、そこに呼び出しボタンのようなものがついているらしい。


「そういうことなら、俺たちはこの辺で……」

「馬鹿なのニャ? アンタらが壊したんだから、帰すわけないのニャ!」


 まあ、そうだろうな。とはいえ、その責任者とやらが来るまでしばらく待たなければならないのは面倒だ。不具合の原因を確認されると、スキル結晶体についてもバレるだろうから、できれば居合わせたくないんだが。


 どうにか抜け出せないか考えていると、突然、目の前の空間が揺らぎだした。この光景は知っている。セプテトたちが転移してくるときに見る現象だ。


「こ、今度は何ニャ!?」


 チェルは初めて見るらしく、かなり驚いている。それでも咄嗟に距離をとり、身構えているところは探索者らしい。意外と、探索者としては本当に優秀なのかもしれない。


 俺とセプテトは慣れたもの。しかし、そこから現れた人物には全く見覚えがなかった。


 よれよれの白衣にくわえ煙草。印象としてはくたびれた研究者といったところだ。性別はおそらく女性。わりとヒュムに近い容姿をしているが、頭に二対のツノがある。顔の皮膚には一部に鱗のようなものがついており、瞳孔が丸じゃなくて縦に長かった。どこか爬虫類っぽい。


 仮称トカゲ研究員は、転移直後に顔を(しか)めた。くわえていた煙草をよくわからない力で消すと、俺たちには一瞥もくれず、装置の前へと向かう。背後からでは何をやっているのかわからなかったが、程なくしてあれほど騒がしかった装置が突然静かになった。どうやら、強制的に止めたようだ。


「おい、どうしてこうなった。ポンコツ、原因は?」

「ポン……!? 私のことニャ!?」

「他に誰がいる」

「ひどいニャ!」


 転移現象には警戒していたチェルだが、現れたのがトカゲ研究員だとわかると警戒をあっさりと解いた。どうやら知り合いのようだ。ならば、彼女が施設責任者とやらで間違いないのだろう。


「で?」

「知らないニャ。アイツらが何かして壊したニャ」

「何かとは?」

「……それは、ちょっと目を離していたからわからないニャ」

「お前、また寝てただろ」


 あっさりと昼寝がバレるチェル。まあ、常習犯なのだろうな。


 トカゲ研究員が大きく息を吐いた。チェルを質しても無駄だと判断したのか、ようやく俺たちへと視線を向ける。


「このポンコツはこう言っているが、お前たちは何をしたんだ」


 すっと瞳を細めて研究員が問う。なかなかの迫力だ。


 転移してきたことを考えると、コイツは御使いだと思う。そして、都市運営に関わっているなら、ユイットの部下である可能性が高い。ならば、結晶体についてバレても問題は無い……か?


 と、その前に事実確認だな。


「アンタは何者だ?」

「私か? 私は御使いのバーハだ。それより、私の質問に答えろ」


 バーハと名乗る御使いが苛立たしげに俺を睨み付ける。が、もう一歩踏み込んでおきたい。


「アンタの上司はユイットか?」

「……何故、それを」


 追加の問いに、バーハの目が丸くなる。だが、その顔にはすぐに納得が浮かんだ。


「ああ、お前がジンヤか。本部長からは聞いている。トラブルを起こすかもしれないが、大目に見てやれと。まったく、下の気も知らないで……」


 (くら)い目で、バーハがぶつくさと呟く。社会の闇を見た気がして、何故だか申し訳なくなった。


 それはともかく、ありがたいことに話が通っているらしい。ならば、事情を説明してもいいだろう。


 スキル結晶体について簡単に説明して、それを合成しようとしたと伝える。すると、バーハは額に手をやり、顔を顰めた。


「異物チェックに引っかからなかったか。それは問題だな」


 どうやら、この装置には技能石以外のものが投入されていると動かなくなるチェック機構が備わっているらしい。つまり、俺の想定は正しかったわけだ。


 だが、そのチェック機構では、技能石とスキル結晶体の判別がつかなかった。それだけ性質が似ているということなのだろうが、残念ながら同じ仕組みで合成はできなかったらしい。それを無理矢理処理しようとして装置が暴走していたようだ。


「チェック機構の再考が必要だな。まずは技能石とスキル結晶体の差異について調べるか。あとは、タイムアウト処理を入れるべきだな。問題は、どの程度でエラーと判断すべきか……」


 心はすでに装置の改良にあるのか、バーハは俺たちをそっちのけで思考の海に沈んでしまっているようだ。


「原因がわかったなら、もういいだろ。俺たちは戻るぞ」

「いいわけないだろう」


 この隙に逃げだそうとしたが、そう甘くはなかったらしい。ぼんやりと瞳の焦点が定まっていなかったくせに、俺が合成屋を出ようとすると、逃がすかとばかりに腕を掴んでくる。


「なんだ? 何か問題があるのか?」

「問題はあるだろう。技能石以外は入れるなと言われなかったか?」


 どうだったかな。厳密には言われてはいない気がするが。


「まあ、待て。別に(とが)めようというわけではない。私は装置を改良したいだけだ。その結晶体とやらを供出してくれないか? 調べてみたい。それだけ技能石と性質が似ているなら、たぶん合成できるようになるぞ」


 バーハがニヤリと笑う。


 なるほど。そういうことなら協力するのも悪くなさそうだな。

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