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204. 装置の異常

 スキルドレインによって入手した結晶体はいくつかストックしてある。俺たちが習得して余ったものではあるが、合成によって別のスキルに変化するなら有効利用できるわけだ。エルネに変えずにとっておいて良かった。


 上級スキルに変化するかどうかは組み合わせ次第のようだが、現状では手がかりがない。ひとまず、似た感じのスキルを集めて合成してみよう。手始めに用意したのはわりとポピュラーな魔術系スキル。他の探索者に譲渡する可能性も考えて多めにストックしてあるので、試しやすい。


「本当に大丈夫かな?」

「まあ試してみればわかるさ。失敗なら失敗で構わないからな」


 合成に失敗してスキル結晶体が消失したとしても、手に入りやすい魔術スキルなら大した痛手でもない。多様な迷宮が集まるライラブラなら再入手も簡単なはずだ。


 手始めに六つのスキル結晶体を用意した。火、水、土、風、光、闇の魔術スキルだ。他にも属性の種類はあるが、ヒュムが扱うのはこの六つが基本らしい。意味があるかどうかはわからないが、できるだけスキルレベルは合わせた。


 それらを装置に投入し、スイッチを入れる。大きな稼働音が部屋に響いた。


「お、動いたぞ」

「本当だね」


 この状況でも、チェルはぴくりとも反応しない。堂々たる熟睡っぷりだ。ダメ人間の見本みたいなヤツである。


 それはともかく。


 おかしい。装置の作動音が止まらない。前回はすぐに音が小さくなっていったというのに。


 隣に立つペルフェがジト目で俺を見た。


「……ねえ。音が止まないんだけど」

「落ち着け。数が多いからちょっと手間取ってるだけだ」

「いや、さっきも六つだったよ」


 確かに。投入した数は同じ。違うとすれば、スキルの種類か……石の種類か。


「だが、まだ何が起きたわけでもない。もうしばらく見守ってみよう」

「というより、見守るしかできることがないんだけどね」

「……まあな」


 さて、どうしたものか。


 合成が上手くいかずに失敗することもあるとは思ったが、装置が異常動作を引き起こすとは考えていなかった。結晶体が合成対象外なら、当然、装置は作動しないものだと思ったが……どうやら買いかぶりだったようだ。


 まったく。装置の安全性が考えられていないな。設計者は大いに反省すべきだ。


 脳内で華麗なる責任転嫁をしている間も、装置は鳴り止まない。それどころか、ちょっと心臓に悪い異音が混じり、ガタガタと音を立てて揺れ始めた。明らかに普通の動作ではない。


 止めようにも、起動スイッチしかない。上端の蓋はロックされており、結晶体を取り出すこともできなかった。八方塞がりだ。


「むにゃ……?」


 この騒音でさすがのチェルも目を覚ましたらしい。細かく頭を揺らしたあと、勢いよく上体を起こした。状況が飲み込めないようで、きょろきょろと左右に頭を振っている。


「ニャ、ニャにごと!?」

「装置の挙動がおかしいみたいだ」

「何を他人事みたいに」


 ペルフェの呟きはスルーだ。


「何をしたニャ!」

「普通に動かしただけなんだがな」


 間違ったことは言っていない。手順はごく普通だった。材料を投入してスイッチを押す。ただそれだけだ。まあ、材料が普通ではなかったのかもしれないが。


「だったら、この状況は何なのニャ!」

「わからない。どういう状況なんだ?」

「私に聞かれても困るニャ~!」


 だよなぁ。スキル結晶体を投入したことがあるヤツが他にいるとも思えないし。不真面目職員のチェルに対応できるわけもないか。


「というか、何でそんなに冷静なのニャ! さてはこうなることがわかっていたニャ? 怪しいニャ!」


 チェルがびしと指を突きつけて、俺たちの冷静さを指摘してくる。


 難癖とも言えない。確かに、俺は合成が失敗する可能性も考えていた。とはいえ、こんな風に装置が異常動作を起こすとは思ってなかったので、完全に予想外の事態には違いないのだが。


「誤解だ。俺としても驚いてはいる」

「そんな風には見えないのニャ!」


 疑いの目を向けられるが事実だ。俺自身、何故慌てていないかを考え、やがてひとつの結論に達する。


「俺が慌てていない理由があるとすれば、それは――」

「何なのニャ?」

「事態の収拾を諦めているからだな。もうどうにもならないと思えば、慌てる気持ちもなくなる」

「とんでもない理由だったニャ!?」


 チェルが大袈裟に驚いてみせるが、実際の話どうしようもない。装置はまだ異音を発し、ガタガタと揺れている。再度、スイッチを押しても無反応。こんなものどうしろと。


 困惑顔のチェルが俺の隣に視線を向ける。それを受けて、ペルフェがゆっくりと首を横に振った。


「ジンヤのせいでトラブルに巻き込まれるのは慣れてるけど、解決能力があるわけじゃないから……」


 まるで俺がトラブルを引き起こしているような物言いは止めて欲しいものだ。半分くらいはセプテトのせいだろ。


 一縷の望みすら絶たれたチェルが、がっくりと肩を落とす。


「仕方がない。施設の責任者を呼ぶニャ。絶対怒られるニャ~……」


 チェルは一応、合成屋の職員だ。何かあれば、責任を問われる立場なのだろう。それを思えば多少は同情心も……いや、湧いてこないな。コイツ、昼寝してたわけだし。自業自得だ。



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