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203. 技能石の合成

 圧倒的な実力を見せつけたからか。それとも尻尾で懐柔できないと悟ったからか。チェルは特にごねることなく、審査は終了。即日とはいかなかったが、あれから数日後、俺は男爵冒険者になっていた。


 正直に言えばあまり実感はない。貴族位を授与するための式典があったりするわけでもなく、朝起きたらシステムカードの色が青になっていたのだ。まあ、そんなものだろう。貴族なんて大仰に言っても、施設のサービスが受けられるとか、御使いに意見が通しやすくなるとか、その程度なのだから。


 ようやくスキル合成が試せる。というわけで、改めて合成屋へと出向いた。


「ああ、アナタたちかニャ。男爵なら合成できるニャ~。適当にやればいいニャ」


 受付のチェルがカウンターに突っ伏したまま、気怠げに挨拶を寄越す。もううわべを取り繕うことすらやめたらしい。


「やさぐれてるね。こんなんじゃ、いつまで経っても探索者に復帰できないと思うけど」

「まあ、俺たちが気にすることじゃないさ」

「誰のせいニャ! 血も涙もないヤツらニャ!」


 ペルフェと俺の感想に、チェルが憤る。だが、そんなもの、ただの逆ギレだ。軽く受け流して合成方法を尋ねると、ヤツは渋々ながら説明を始めた。


「合成にはそこにある装置を使うニャ」


 指さす先には小型の機械が置いてあった。大きさはコーヒーメーカーくらいか。上部に蓋があり、そこに合成したい技能石を投入するらしい。


「投入できる技能石は10個までニャ。たくさん入れれば良いというわけじゃニャいのでその点には注意ニャ」


 操作はシンプルだ。技能石を入れてスイッチを押すだけ。合成は一瞬で終わり、装置の下部から合成された技能石が出てくるらしい。


「費用は?」

「貴族向けのサービスだから、徴収された税金に含まれてるニャ。自由に使えばいいニャ~」


 チェルは手をひらひら振ると、再びカウンターに突っ伏した。このまま寝に入るつもりかもしれない。完全に仕事を舐めている。


 まあ、俺たちとしても装置の使い方さえわかれば、チェルに用はない。気にせず、合成をはじめることにした。


「何を合成するつもりなの?」

「スキル屋で買った六つを合成してみるか」

「また適当な」


 ペルフェが呆れた目を向けてくるが、正解なんてわからないんだから、試してみなければはじまらない。お試しということで、スキル屋で買った全ての技能石を投入してみる。


 スイッチを押すと、装置はギュインと音を立てた。意外とうるさい。しかし、音はすぐに小さくなっていく。完全に途切れたころに、装置の下部からころりと何かが転げてきた。


「お、色が違うな」

「本当だね」


 投入前の技能石は全て緑色だったが、装置から出てきたのは黄色に近い。システムカードで簡易鑑定してみると、見たこともないスキルになっていた。



【聖炎護法】

炎・高温に起因するダメージを軽減する

高温環境における行動ペナルティを大幅に軽減する

高温環境において身体能力が上昇する



 一部は効果が変わっているものの、概ね合成元の技能石の能力を引き継いでいるようだ。おそらく、合成が上手くいき、上級スキルとやらになったのだと思う。


「悪くはないが……単にこれだけなら合成のメリットは薄いな」


 一つのスキルとして考えれば充分に強力だ。だが、六つのスキルを代償としたと考えるとどうだろうか。単純に効果が合成されるだけなら、バラバラにスキルを習得すればいいだけの話である。わざわざ合成するメリットがない。


「いや、そうでもないんじゃないかな」


 しかし、ペルフェの考えは違うようだ。


「そうか?」

「うん。もしもの話だけど、合成元のスキルと効果が重複するなら強いんじゃない? まあ、技能石を二倍集めないとダメだから、活かすのは大変だけど」


 なるほど。そうかもしれない。


 スキル結晶体の話になるが、たとえば【高温耐性 Lv20】の結晶体を二つ使っても、得られるスキルは【高温耐性 Lv20】か【高温耐性 Lv21】である。仮に耐性値がレベルに等しいとしたら、20が21になるだけだ。重複によって僅かに強化されるが、効果のほどは微妙と言わざるをえない。


 しかし、【高温耐性 Lv20】とそれと似た効果の別のスキルを習得した場合、両スキルともLv20で習得できる。この場合、耐性値は40になる……かもしれない。そのあたりの算出がどうなっているかわからないので、確実とはいえないが、少なくともスキルレベルを1上げるよりは効果がありそうだ。


「それに上級スキルっていうなら、単体でも他よりは効果が高いかもしれないし」

「その可能性もあるか」


 確かに“大幅に軽減する”なんて説明はあまり見たことがない。まあ、それは実際に使ってみてから、判断した方が良さそうだ。


 とりあえず、【聖炎護法】は最低でももう一つは手に入れたい。できれば、四つだな。


 とはいえ、スキル屋に合成元の技能石の在庫があるとは限らない。宝箱から偶然入手するようなアイテムなので、同じものが大量に用意されているとは思えなかった。となれば、自力入手も考えなければ。


 もちろん、技能石を狙って集めるのは難しい。だが、俺にはスキルドレインがある。おそらく、スキル結晶体ならば用意できると思うんだが……。


「スキル結晶体も合成できると思うか?」

「え? いや、どうだろう。まさか試すつもり?」


 アイテムの効果はほぼ同じなのだ。見た目もさほど変わらない。いけそうな気はするんだよな。


 そうは言っても、本来の仕様とは異なるものだ。普通なら職員に止められるだろう。


 だが、合成屋は利用されることが少ないので常駐の職員は一人だけ。しかも、怠け者のとんでも職員だ。ちらりと様子を窺うと、チェルは完全に昼寝を決め込んでいた。間抜け面で口元をむにゅむにゃと動かしている。


 つまり――――今なら試してもバレないってことだ。

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