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201. まっとうな取引?

「何をやらせようかニャ~? 幻のマタタビカクテルを用意させるかニャ~? ニャハハ、夢が広がるニャ!」


 受付嬢は楽しげな妄想を繰り広げているらしい。何ともおめでたいヤツだ。


「ペルフェ。他に手続きできるところはどこだ?」

「さあ。でも役所ならできるんじゃない?」

「それもそうだな」


 当たり前だが、手続きをここでやる必要はない。探索者ギルドでしか手続きできないってことはないだろうし、もしそうでもコイツ以外に担当してもらえばいい。受付嬢の企みは穴だらけだ。


「ま、待つのニャ。わざわざ遠くで手続きする必要はないと思うのニャ!」


 (きびす)を返して合成屋を出ようとすると、受付嬢が慌てた様子で引き止めてくる。だが、今更だ。


「不当に厳しく審査されるようなところで手続きするわけないだろ」

「な、何故、そのことを!? 誰が漏らしたのニャ?」


 お前だ、お前。


 コイツ、本当に職員なのだろうか。あまりにポンコツすぎるんだが。


「昼寝しようとしてたことも、報告しておくからな。これからは真面目に仕事しろよ」

「報告!? それだけは困るニャ!」

「困ると言われてもな。自業自得だろ」

「そんニャ! こ、これには深~い事情があるニャ。せめて話だけでも聞いて欲しいニャ。ほら、尻尾を触らせてあげるニャ」


 受付嬢はそう言って、尻尾を差し出してくる。


 ……ふむ。


 いや、まあ別に興味はないが。とはいえ、事情があるなら聞いておいた方がいいかもしれない。何事も一方的な視点から判断するのはよくないし。


 そしてまあ、形式としては取引だ。交渉材料として提示された以上、興味はないが対価は受け取らなくてはならない。無碍(むげ)に断っては相手のプライドを傷つけてしまうからな。


 というわけで、尻尾を触りながら話を聞くことになった。


「まさか本当に触られるとは思わなかったニャ」

「ジンヤ……」


 受付嬢は恥ずかしげに視線をそらしている。そして、ペルフェの視線が冷たい。馬鹿な。何一つ恥じるところのない、まっとうな取引であるはずだぞ。


「それで事情とは?」

「それは……ニャ、ニャ!? 申し訳ないけど、話すときは尻尾を撫でないで欲しいのニャ!」

「いや、これは取引……」

「はいはい、話が進まないからね! ジンヤは自重して!」


 そんな理不尽な。


 だが、ペルフェの迫力に負けて、一旦尻尾を撫でるのをやめて受付嬢の話を聞くことになった。


 彼女は予想通り、ピュトンだった。名前はチェルというらしい。驚いたことに、これでも探索者なのだとか。


「それが何故ギルドで働いて……はいないか。受付に居座ってたんだ?」

「そこは訂正するところじゃないニャ。受付は規定の場所に座っていればそれが仕事ニャ。だから、私はちゃんと仕事してたニャ」


 サボりをとんでも理論で誤魔化そうとするチェル。全世界の受付業務の担当者に謝った方が良い。とはいえ、コイツに反省を促すのは骨が折れそうだし、俺の役割でもないのでひとまずスルーしておく。


「で、どういうことなんだ?」

「それについては聞くも涙、語るも涙の物語があるニャ」

「どうせ大したことないんだろ。結論だけ話せ」

「つれないニャ~……」


 ちゃっちゃか吐かせたところ、コイツはつい最近、税金が払えずに奴隷落ちしたらしい。


「ライラブラに来れるような探索者が奴隷落ち……?」

「もしかして、本当に深い事情があるの?」


 ペルフェと二人で顔を見合わせる。


 エルネマインで奴隷落ちのリスクが高いのは、転生から五年まで。基本的には、借金を返済できずに奴隷落ちするって展開がほとんどだ。ライラブラまで到達できる実力があるなら借金は完済済みだろうし、平民階級の税金なんてそれほどの負担でもない。にもかかわらず奴隷落ちしたのだとしたら、それ相応の事情があるはず。


 と思ったのが、馬鹿だった。


「税金支払い日に散財しちゃったのニャ。税金分は残しておいたんだけど、あのタイミングでマタタビ酒の限定版が売りに出されるとはニャァ。だから、これは仕方がなかったのニャ」


 まるで反省していない様子でチェルが述懐する。わかってはいたが、相当ダメなヤツだ。


 探索者としては優秀で、間違いなく返済能力はある。というわけで、ギルドが奴隷として引き受けたらしい。数日真面目に働けば奴隷から解放するという約束だったそうだが、彼女は依然として奴隷のままだ。


「もう一ヶ月も働いてるニャ! 詐欺ニャ!」


 チェルがギルドの横暴を訴えるが、俺とペルフェの見解は一致している。


「こいつが数日も真面目に働けるわけがない」

「そうだね。僕もそう思う」


 つまり、ギルドは何も悪くない。悪いのは働かないコイツだ。


「そんニャ!?」


 今日のこともギルドに報告すれば、真面目に働いていないと見なされて奴隷期間が延びるのだろう。だからこそ、こいつは必死なのだ。それなら真面目に働けと言いたいが……言ったところで聞くヤツではない。もしそうなら、一ヶ月も奴隷期間が延びるわけがない。


「お願いニャ。審査は真面目にするから、報告はしないで欲しいニャ」

「真面目に仕事をしないお前が悪いんだ。心を入れ替えて仕事をしろ」


 まあ、本当にまともな審査が行われるなら、それでもいいんだが。コイツの去就に興味はないしな。


 とはいえ、反省なく奴隷から解放されたとしても、また同じ過ちを繰り返すだけだと思うんだよな。きちんとお勤めを全うした方が、コイツのためだろう。そう思って、きっぱりと断った。


 それで話は終わったと思ったのだが。


「……ひどいニャ。尻尾まで触られたのに、あんまりだニャ」

「それ言われると……。もう! ジンヤのせいだよ!」


 何故、俺が責められる展開に!?

 まっとうな取引はどこにいったんだ!

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