200. ちゃんと仕事しろ
ひとまず、提示された技能石は全て購入し、スキル屋をあとにする。まずは様子見ということで一セットに留めておいた。レベルドレインでエルネを集められるとはいえ、100億はなかなかの額だ。他にも必要なスキルが出てくるかもしれないので、あまり無駄遣いもできない。
「ペルフェはスキルの合成について知らなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。すっかり忘れてた。そういうのもあったねぇ」
人通りが少ないところで足を止め、ペルフェに尋ねる。彼女はバツの悪そうな顔で答えた。意図的に隠していたというよりは、ただ忘れていたらしい。
説明を聞いてみれば、確かに頷ける話だった。合成屋っていうのは、かなり利用頻度の低い施設のようだ。ペルフェも利用したことはなく、記憶の片隅に追いやられていたらしい。
決して利用価値がないわけではない。むしろ、上手く利用できれば効果は非常に高いはず。にもかかわらず認知度が低いのは、施設を利用する前提条件を満たす探索者があまりいないからだ。
合成屋では、複数の技能石を合成して別の技能石を生み出すことができる。この複数用意するってのが、壁となるようだ。
なにせ、技能石は宝箱からのランダムドロップ。狙って入手できるわけではない。しかも、それ単体でも充分に有用だ。戦力強化を考えればすぐにでも使ってしまいたいと考える探索者は多いはず。さらに、自分には不要でも売ればエルネになる。そのエルネで装備品や別の技能石を買えば戦力増強が可能だ。
というわけで、合成のために手元に残しておくという探索者は非常に少ないらしい。
「それに合成によって強力なスキルが得られる保証もないしね」
なんでも、合成を利用すれば確実に上級スキルが得られるというわけでもないとのこと。例えば、【火魔術 Lv30】と【水魔術 Lv20】の技能石を合成したら【火魔術 Lv31】が合成された、なんてこともあるらしい。強化はされているが、効果としては微妙だ。その程度なら、それぞれ単体で使った方が良い。
「スキルの合成って、お金のかかる博打って印象だったんだよね」
探索者だったときのペルフェは、手を出す気もなかったらしい。そりゃあ、失念するのも無理はないか。
とはいえ、スキル合成が本当に博打であるかは不明だ。もしかしたら、厳密なルールに従って合成されているのかもしれない。少なくとも、得られる技能石は、合成元のスキルに関連するものが大半らしいし。
「詳しく検証するヤツはいなかったのか?」
「いないんじゃない? ジンヤのスキルとは違うんだよ。いつ、どんなスキルが手に入るかわかんないんだ。技能石のレベルだってまちまちだし、条件を合わせるのが難しいでしょ」
「まあ、そう言われるとそうか」
同じ技能石を集めるのが難しいので、再現性の確認すらできない。しかも、レベルまで関わってくるとなると、確かに検証する気もなくなるな。
「まあ、とりあえず行ってみるか」
「そうだね。僕も行ったことがないから少し楽しみだよ」
合成屋は個人商店ではなくて、探索者ギルドが提供する施設だ。ライラブラには探索者ギルドが東西南北と中央の五つあるが、合成屋があるのは中央だけらしい。俺たちがいるのは西部地区なので中央まで行かなければならない。面倒だが、利用者が少ない施設を幾つも作る理由はないので仕方がないか。
中央地区は防壁に区切られているが出入りは自由だ。まあ、貴人が住んでいるわけでもないしな。この世界に貴族はいるが、それは称号的なもので、実質的にはただの探索者だ。基本的には、俺たちと何も変わらない。
というか、俺自身、なろうと思えばなれるしな。エルネを余計に徴収されるだけなので、なる意味はあまりないが。アイテム屋などで特別なアイテムを取引できるとかいう話も聞いたが、セプテトやユイットに話を通せば融通してくれる気がする。
今のところ貴族になる理由がない……と思っていたのだが。
「合成サービスの利用は貴族階級からとなっていますニャ。つまり、アナタは利用できません」
合成屋で無情にもそう告げられてしまった。
まあ、それなら貴族になればいいだけだ。転生当初ならともかく、今ならエルネの負担が増えたところで、大した痛手ではない。上級貴族ともなると負担額も大きくなるが、合成屋の利用なら男爵位で充分らしい。
「あれ? そう言えば、貴族になるための手続きってどうすればいいんだ?」
いざ、貴族に……と思ったところで、そんな初歩的なことに気がついた。手続きのやり方がわからない。準平民から平民になるときはシステムカードから手続きができたが、それと同じようにはいかないようだ。それらしき項目はなかった。
「手続きならこちらでもできますニャ」
ニコリと笑う猫……ではなくピュトンの受付嬢。種族が違ってもわかった。表面上は笑顔だが、あれは怒っている。
「なぁ、俺が何かしたか?」
こそりと尋ねてみたが、ペルフェにも原因は思い当たらないらしい。戸惑いを顔に浮かべて、首を傾げている。
「うーん。今回はまだ迷惑かけてないよね」
「いや、普段は人に迷惑をかけてるみたいな言い方はやめろよ」
軽い冗談のようなものだろうが、一応、抗議しておく。それでやり取りは終わるはずだったが、思わぬところから反論がきた。
「何を言ってるのニャ! 私はこれからお昼寝タイムだったのニャ。それなのにお仕事しなきゃならないニャんて……これが迷惑と言わず何というニャ! 厳しく審査してやるから覚悟するといいニャ!」
この受付嬢、人が来ないのをいいことに、業務時間に昼寝をする気でいたらしい。完全な逆恨みである。
ちゃんと仕事しろ、ギルド職員!




