199. そんなものもあるのか
「いらっしゃい。うちは各種スキルを取り揃えてるよ」
そう言って俺を迎えたのは、スキル屋の店員。ライラブラで初めて見た種族だ。体型はヒュムと似たようなものだが、肌の色が赤黒い。また額の中央には宝石のような何かがある。飾りかと思ったが、どうも体の一部らしい。彼が喋るのに合わせて、仄かに光っている。もし異種族の奴隷狩りが横行するような世界だったら、真っ先に狙われそうな種族だな。
店内はこじんまりとして狭い。商品のディスプレイもなかった。ただカウンターがあり、その向こうに店員が座っているだけだ。椅子を勧められたので、俺とペルフェも店員と対面して座る。
「それで、どんなスキルをお探しで?」
余計な前置きもなく、店員が尋ねてきた。どうやらざっくりとした要望を伝え、条件にあったスキルを店員が用意してくれるらしい。
「熱さ対策になるスキルはあるか? 『火の河』の攻略を想定している」
「ははぁ、『火の河』ですか。アンタらはヒュムですよねぇ?」
要望を伝えると赤黒肌の店員があごに手をやりつつ、俺たちをぎょろっとした目で凝視した。頷いて応えると、むぅと苦しげに呻く。
「そりゃあ難儀なことで。あそこはアタシらゲヒトカですら厳しい場所ですからねぇ。生半可なスキルじゃ茹だっちまうし……ふむぅ」
ゲヒトカというのは種族名だろうか。口ぶりからすれば、高温地帯に強い特徴を持つようだ。そして、そのゲヒトカからしても『火の河』は過酷なダンジョンらしい。
それはともかく、店員はぶつくさぼやきながら、そのまま店の奥に引っ込んでしまった。
「これ、どういう状況だ?」
「店の奥に保管してる技能石を取りに行ったんだと思うよ」
戸惑う俺に、ペルフェが訳知り顔で解説する。客扱いされずに放置されたのかと思ったが、そういうわけでもないようだ。
「せめて、一声かけて欲しいんだが」
「まあ、普通はそうするよね。ちょっと個性的な店員だなぁ」
さすがにこれが一般的な接客態度というわけではないらしい。ペルフェも苦笑いを浮かべている。何故か、類は友を呼ぶという言葉が思い浮かんだ。きっと、気のせいだ。
「どっこいしょ。さて、お待たせしましたね」
店員は5分ほど待ったところで戻ってきた。しかし、手ぶらだ。
訝しく思っていると、店員が腕に装着したリングを撫でた。すると、カウンターにガラスケースが出現する。インベントリ機能のある腕輪のようだ。
ガラスケースの中には小さな宝石が収まっていた。全て緑色の石だ。
「とりあえず、熱に関係するスキルをお持ちしましたよ」
「意外と種類があるんだな」
「へへ。品揃えには自信があるんですよ」
提示されたスキルは次の六つ。
【高温耐性】
【渇水耐性】
【環境耐性:炎熱】
【吸熱】
【火魔術耐性】
【火の加護】
このうち、俺がすでに保持しているのはひとつ。渇水耐性だけだ。確か、脱水症状による行動ペナルティを軽減するとかいう効果だった気がする。パッシブスキルだし、あまり恩恵を得る機会もないので、いまいち覚えていないが。
他のスキルについては店員がざっくり教えてくれた。
【高温耐性】は高温による行動ペナルティを軽減するスキルらしい。暑い場所でもへばらずに行動できるようになる。
【環境耐性:炎熱】も似たような感じだが、こっちはもっと限定的で『火の河』のような溶岩地形における行動適性が高まるらしい。適用範囲が狭い分、効果はこちらの方が高い。
【吸熱】は周囲から熱を奪い、自身の生命力とマナを回復するスキル。熱ダメージを軽減するわけではないが、結果として熱を弱める。アクティブ発動タイプなのでこまめに発動する必要があり、その上、一般的な地形だと回復量も微妙。しかし、『火の河』のような高温の狩り場ではかなり強力だとか。
【火魔術耐性】は文字通りのスキルだ。『火の河』には火魔術を使ってくる魔物が多いので、役に立つらしい。あくまで魔術への耐性なので、溶岩地形に対しては効果がない。
攻防一体なのが【火の加護】だ。火属性に対する攻撃力と防御力が上昇する。まあ、上昇量はささやかで、無いよりはマシ程度って話だ。
「悪くないな」
「そりゃあ良かったです」
いや、正直に言えば、予想以上だ。【高温耐性】か【環境耐性:炎熱】みたいなスキルが一つでも見つかればいいと思っていたが、新規スキルが五つも紹介してもらえるとは。
しかし、店員はどこか浮かない表情だ。視線を合わせると、少し躊躇ったあと口を開いた。
「だけど、どれも完璧に熱を防げるわけじゃないですから。ヒュムが『火の河』に挑むのは無謀じゃないですかねぇ」
店員の顔に浮かぶのはおそらく不安げな表情。どうやら俺たちを心配して忠告してくれているらしい。店としてはスキルが売れた方が助かると思うのだが、なかなか律儀なことだ。
「これ全部使ってもダメか?」
「全部ですかい? 100億エルネはしますが」
思った以上に高い。
魔物からタダで奪えるのに……と思うが、まあそんなものなのだろうな。宝箱から入手するしかない上に、店に流れてくるのはごく一部。俺の認識がバグってるだけで、本来は貴重なアイテムなのだ。
とはいえ、買えなくはない。ついこの間、イェードからレベルドレインで奪ったクレアテ結晶体はエルネに換金した。累計で700億になったので、在庫があるなら4セットでも買える。
そもそもエルネを稼ぐのは難しくない。今までエルネを使う機会がなかったのでやっていなかったが、レベルドレインは魔物にも使えるのだ。代わりに取得経験値は下がるが、まあ一時の金稼ぎに使う程度なら問題ない。
「100億なら出せる。全部使えばいけるか?」
「そうですか。いや、それでも難しいと思いますよ」
店員は険しい表情を崩さない。
俺の個人の感触だと、そこまで無謀という感じではなかったんだがなぁ。スキルなしでも数分は耐えられたわけだし。
だが、それは高ステータスの恩恵なのかもしれない。ごく一般的なレベル30ほどの探索者には地獄にも等しい環境なのだろう。それにルゥルリィやフェリルのことを考えれば、これらの対策では不安があるのも事実だ。
まあ、あくまで目的はスキルを手に入れること。買うだけ買って『火の河』への挑戦は諦めたっていい。なので、提示してもらった技能石は買ってしまおう。
と、購入の意思を固めたところで、店員が思わぬ言葉を口にした。
「エルネに余裕があるなら、合成屋で上級スキルを狙ってみるのも手ですがねぇ」
「合成屋……?」
なんだそれは。そんなものもあるのか?




